第22話◇三者三様のイケメン貴公子
警戒感を露わにした視線。
顔立ちがとても美しい上に腰の辺りまでの長さの銀髪だったけれど、間違いなく男の人だった。
切れ長の目、瞳の色は青みがかったグレーで、銀色の髪と相まってますます怜悧に見える。
「っ……!?」
突然、酷く重い威圧がその鋭い視線と共にのしかかってきて、私は一瞬、息を詰める。
冷気。
とてつもなく冷えた空気が私の周囲を取り巻いている。
それが分かったと同時に、ピキッ、と私の足元で小さな音が鳴る。
そうして、いつの間にか、私の足元を霜柱のようなものが囲っていた。
まるで「ここから動くな」と威圧するように。
靴の底の部分と地面が凍り付いていて、私はその場から全く動けない。
えっ……待って!?
私、今、あの銀髪の人に魔法かけられちゃってる!?
何でただ視線が合っただけで、こんなことに!?
驚きはしたけれど、私は意外と冷静な気持ちでその魔法を体感することができていた。
これは決して「殺傷するつもり」でやっていることではなく、「ただの瞬間的な威嚇」でしかないのだと分かったから。
過去とは違って四属性の魔力の性質や動きが何となく分かるようになっているから、パニックになることはなく、落ち着いて分析もできている。
この方は。
「氷」の魔法を使う人で間違いない。
つまり、この世に数少ないはずの「二属性」持ちの人。
これはたぶん「水」と……「風」かしら。
ということは、もし本気で対応するなら、「火」を「風」で煽ってすっごく強くて大きい火を作って、彼の氷を全部溶かしたり蒸発させたりしてしまえばいいのかな……?
チィが「対応してもいいわよ?」と言いたげな意味深な視線を送ってきて、制限を解除してくれた。
その証拠に、体内の「風」と「火」の魔力回路も準備万端とばかりにざわめく。
けれども、あえて私はこの攻撃をそのまま受けることにした。
まだ安易に手の内を晒すべきではないと判断して。
「……それでは」
銀髪の人は他の二人に言い置いて、そのままスタスタと森から出て行く。
足早に。
彼が立ち去ったことで氷自体はすぐに消え去ったのに、私は動けない。
すると、今度は黒髪の人の方が近づいてきた。
黒髪黒目の上に黒主体の冒険者の服を着ているため、見た目はいやに真っ黒だ。
一見すると恐くも思えるけれど、襟首周辺の着崩しのおかげで幾らか自然な緩さが出ている。
長めの少しウェーブがかった前髪から覗くその目元がしっかりタレ気味なのと、口元が嫌味なく笑っているのも含めて、いやに柔和な印象だった。
そしてやっぱり、顔の作りが美しい。
「ね、君、もしかして、さっきのアイツの威圧に当てられちゃった?ごめんねぇ、だいじょーぶ?動ける?あっ、やっぱり、すっごくカワイイね~?君。さっきので身も心も冷え切っちゃったよね、俺とお茶とかどう?」
とんでもなく硬派な雰囲気の人が去ったと思ったら、今度は異様なまでに軟派な人に話しかけられてしまい、私はこの緩急にびっくりしてしまう。
違う意味で動けなくなる。
「えっ、あっ、あのっ……?」
どう反応したらいいのか分からずに返事をためらっていると、イデアが私の肩を引き寄せて庇うようにして、黒髪の人の前に立ってくれた。
「ルーク。彼女にはそういう軽薄な手の出し方をするな」
そうして、イデアはペシッ、と私に向かって「どう?」と差し出された黒髪の人、ルークさん?の手を軽く叩き落とす。
「ええ~っ。ケチ~。ちょっとくらい……」
「ダメだ」
何か言い募ろうとしたルークさんだったけれど、あんまりにも取り付くしまもない様子でイデアが切って捨てた言い方をしたからか、一度大きくため息をついてからそのタレ目を伏せて、すっぱりと諦めてくれた。
「もーっ、だったらもっと分かりやすくいきなよね。じゃあ集合時間だけは守ってよ~?」
ヒラヒラと手を振ってルークさんは去っていく。
去り際に私に向けてバチンとウインクを残しつつ。
わぁ……。
遊び人っていうのかしら。
こういう人、本当にいるのね。
初めて会ったわ。
それに、彼が言った「ウィリアム」っていうのは、さっきの銀髪の人のこと?
「えっと。あの、ルークさん?と、ウィリアムさん?って人たちは、お友達?三人で組んでのお仕事をしてるの?」
気が合う者ばかりが集まっているようなすごく気安い自然さがあって、けれど、熱心に話していた様子は、仕事の同志のようでもあって。
気になった私は、つい三人の関係性を尋ねてみる。
いつの間にか「イデアのことを何でも知りたい」みたいな気分になってしまっている気がして、ちょっと恥ずかしい。
「まぁ、そうかな。彼らも探偵団の一員。この南ストレリチア領で任せられている仕事を、みんなで分担してこなしている。それに、年が近い幼なじみでもあるんだ、あの二人は」
「そうなんだ……」
私はすぐに納得したのだけれど。
でも、だったら、イデアも彼らと一緒に連れ立って行かなくてよかったのかな?
そう思ってじっと彼を見上げると、その心配を悟ってくれたのか、ふっと私に笑いかけてくれた。
「でも、仕事は夕方からだから、それまでは一緒にいられる」
言われて、少し恥ずかしくなった。
うう、そんな言い方されたら、イデアの方も私と一緒にいたいと思ってくれてたみたいじゃない……。
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