第21話◇悪目立ち貴公子・三人組
「ああ、ダメだわ……」
私は小さく呟いて、両手を両頬に当てる。
今から彼に会えるかもしれないんだと思うと、ドキドキしてきて自然と顔が赤くなってしまっている気がして。
いつの間にか、イデアと出会ったその日から約十日が過ぎていた。
もう出会った頃の自分には戻れないくらいに、私はイデアに心を許してしまっている。
その事実に、ますます「好きなのかも」という疑いは加速していく。
そんなことじゃダメだわ、と自分に言い聞かせることが増えた。
気をしっかり持たないと、と思って、私は朝晩の食事時の叔父様からの連絡事項をいっそう注意深く聞くようになったし、自分でも領内で起こる様々な事件についての情報をなるべく集めるようになった。
街でのもめごと、そしてそれにまつわる噂。
領主の手元に送られた報告書だけでは伝わってこなかった細かい状況も更に詳しく理解できて、少し楽しい。
そしてイデアの方も、仲間たちと彼らの伝手を使って情報を集めているみたいだった。
たまたま宿屋の女主人のシーニャさんから興奮気味に「最近ね、すっごい美丈夫な男の子たちが、うちに食事に来るんですよ!!昼と夜になると必ず一番広い個室を貸切るのさ。三人連れで……その三人が、まーあ、平民のいで立ちとは違って上品で。異様に目立つんです。あれはお忍びの高位貴族の方ですよ!!イリス様は、何かご存知です?」なんて逆に質問されて、私はすぐに、それはイデアと仲間の人たちなのだろうと思い当たってしまった。
「え、えーっと。きっと叔父様のお客ではないのかしら。あははは、私は全く、これっぽっちも、存じ上げないのだけれど……。うふふ」
とりあえず、そう誤魔化しておいたものの。
「目立っちゃってるわよ」とイデアに伝えておいた方がいいのかしら……。
そう疑問に思っていたある日のこと。
私はいつもの森の入り口で、その噂の三人組が揃ってそこにいるところを、見かけたのだった。
……わぁ。
すごい、本当に悪目立ってるわ。
完全に森の中なのに、まるでパーティ会場にでもいるように錯覚しそう。
シーニャさんの話の通り。
騒がれるのも納得だ。
何しろ、全員がそれぞれ、違った方向性での美男子なのだから。
何だか見たことがない勢いで華やかな、それはそれは美しいお顔の貴公子たちの集まりだった。
イデア以外の二人も、この辺りでは見かけないタイプの男性だわ……。
あの銀髪の方は、きっと高位貴族の方なんだろう。
金髪は王族かエルフ族に多くて、銀髪は高位貴族に多いと風の噂で聞いたことがあるもの。
それにもう一人の黒髪の人も、この辺りでは全く見かけない髪色だった。
焦げ茶に近い目と髪の色の人は比較的よく見かけるのだけれど、あんな漆黒に近い髪と瞳は、珍しいかも。
彼らもイデアと同じく、王都から来ているのかな。
今は私、話しかけない方がいいのかしら……。
三人は何やら熱心に話し込んでいて、彼らだけに限られた特別な雰囲気の空間がそこに形成されていた。
気が引けた私は一度ここから離れた方がいいのかもと考える。
すると、銀髪の人の方が私の視線に気付いたみたいで、バッと振り向いた。
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