第20話◇精霊・チィは恋バナが大好き?
でも、私はそこで、またイデアのことを改めて考えてしまった。
冷遇してこなかったひとりとして、考えてしまった。
「あのね、チィ。私、イデアは……彼のことは、敵じゃないと思いたいかも……。すごく優しくていい人、だし」
確かに、出会ってほんの一日だし、信用できるかは、まだ探ってみないと分からない人だ。
だけど、魔法の成功も精霊の召喚も、どちらも私の手を取って「すごいすごい」って、興奮して褒めてくれていた。
四属性のことを教えてくれたり、「やってみて」って背中を押してくれたり、ちゃんと助けてもくれた。
それら全てを「嘘かも」と思うのは、少し悲しい……。
『あら。イリスって、もしかして、彼のことが好きなの?』
すると、チィはちょこんとその首を傾げて言う。
……好き。
イデアのことが。
この場合の「好き」が家族に対しての気持ちの「好き」の意味ではないことくらいは、私にだって、何となく、分かる。
「えっ……そ、そんなこと、ないけれど……っ」
私は何でかどぎまぎした気持ちになって、チィから目を反らして下を見る。
何だかとても顔が熱い。
赤くなってるかもしれない。
『あらあら?ふーん?』
チィは完全に面白がった口調で言うと、あえて私の視界に入る位置をピョンピョンと飛び回りながら、顔を見ようとしてくる。
だから、私は両手で顔を隠すしかなかった。
「もうっ、チィってば、からかわないで……!!」
赤面を抑え込みたいのに、こんな時に限って、私はこの右手をイデアに取られて、指先に軽くキスを落とされたことをまざまざと思い出してしまう。
はっ。
そ、そういえば、私、イデアにこの指先に、キスされちゃったんだったわ。
あの時は何も反応できなかったけれど……。
だ、だって、イデアがあんまり自然にそういうことするから、手を引っ込めることも忘れちゃってて……。
「あっ、ああ……っ!!」
私は思わず、思い出し悶絶するはめになってしまう。
ガバッと頭を抱えた私に、チィはちょっと驚いてその身を引いた。
『こ、今度はどうしたのよ?』
「わっ、私、イデアに、指先にっ、キスっ……!!」
『……あらら。どうやら重症みたいねぇ?』
今度は呆れた声が頭上から降ってくる。
微かな重み、チィに頭の上に乗られてしまってるみたい。
あんなの、まるで恋愛小説みたいだったわ……。
あ、あれと同じようなことを、いつの間にかしてしまってたなんてっ。
それに、魔法を教わっていた間も、ずっと手を握ったり、握られたりしていたような……。
「あああ……っ」
こんなことをしっかり思い出してどうこう考えてしまっているなんて、私ってば、とっても変だわ。
何だかものすごく暑い気がするし、顔の熱さも全然取れてくれない。
どうして。
でも、男の子のお友達って、普通に女の子にそういうことするものなのかしら。
そもそも、私とイデアって、お友達って関係で、いいのかしら……。
でも敵かもしれないんだし……。
今、この時点ではっきりしているのは、「探偵とその助手」ってことだけだわ。
こうしてイデアの探偵助手になった私は、なるべく時間を作り出して、屋敷を抜け出して森の方へと通うようになった。
ここ最近の私は森でチィと魔法の特訓をしながら、イデアがやってくるのを待つ日々を送っている。
その時のお互いの状況によって数分だったり一時間だったりはするけれど、自然と明るい時間帯に森で会う形になっている。
初日と変わらず、イデアは魔法や王都のことについて教えてくれて、私に優しかった。
いつの間にか、「もし一か月後の惨劇が阻止されて事件が解決したら、二度と会えなくなるのかも」と悲しくなっていることも、疑いようがない事実だった。
これにて第2章がおしまいです。
次の第3章からイリスの魔法探偵助手な日々が始まっていきます。
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