第19話◇精霊・チィは色々なことを知っているみたい
『そうね。あなたと以外話す気はないけど』
私の問いに、チィは何てことないようなのんびりとした口調で答える。
「そうなの?どうして?」
『危ないからよ。北にも南にも、精霊を自分たちの都合がいいようにコントロールしようとする人間はいるもの』
チィの会話はスラスラとよどみなく、完全に話し慣れたふうだった。
声自体は幼い子供みたいなのに、逆にその話し方は大人の女の人みたいだ。
『確かに、精霊と人間は長い間交流してきたし、たくさんのものを分かち合いもしてきたけれど……精霊から見て信用できない人間というのも、存在しているわ』
身振り手振りをして人が話すのと同様に、その翼をばさりとはためかせたり尾羽をぴこぴこと動かしたりしながら、チィはハキハキと話す。
ちょっとかわいい。
『あなた、この家の中には敵だらけでしょう?』
でも、かわいいけれど、鋭い。
う、と私は答えに詰まってしまう。
『四属性全ての魔法が使えることも、私が話せることも、今のところは伏せておくことをオススメするわ』
「えっ……。うん、それはいいけど……」
魔法自体は、少しでも使えれば学園の入学要件が満たせるわけだから、学園に通うことには支障がないし。
今の問題は「魔法官の方を叔父様に呼んでもらえないっぽい」という、この一点だけだ。
こう考えたところで、私はもう一人、「確実にイリス・フロレンティナ・ストレリチアが魔法を使えて、精霊の召喚もできていると証明できる人物」、その存在について思い出す。
イデアは魔法についても精霊についても、全てを見ている。
「でも、イデアは……彼だけは、全てを、四属性のことも知ってしまってるのよ。これって、いけないわよね?」
彼は一族の人じゃないようだから、叔父様に告げ口しても何の利益もないと思うんだけど……。
でも、まだその正体が分からない人ではある。
『それなら、今度会う時にでも、口止めした方がいいわ。少なくとも、ストレリチアの者にはあまり広めない方が得策でしょうね。きっと子供だからって、利用されちゃうわ』
きっぱりと言うチィに、私も納得するしかなかった。
そうね……。
まずは口止めをしないといけない。
より一族の人たちの耳に入らないように。
話が漏れる可能性は潰しておかないと。
『だから私、今は風だけ使える、っていうことにしておきたいわね。だって、それだけでじゅうぶんに事が足りるもの』
チィはそこで迷うことなく、当然のように「風」と指定した。
「火」でも「土」でも「水」でもなく。
「風だけ?」
『そう。今は』
ぽふ、とチィはその両の翼で私の耳の辺りを包むようにして触れてくる。
すると、キンッ!と小さく、まるで金属音のような音がした。
『はい。制限をかけておいたわ』
確かに言われた通り。
その瞬間から自分の身体の奥の魔力回路のうち「風」の属性を残して、他の属性のものは一切関知できなくなっていた。
す、すごいわっ。
こんなこともできるのね、チィってば。
『それに、一つずつしっかりトレーニングした方が、後で四属性同時に使った時の精度も上がるのよね~』
「そうなんだ……」
チィは小さくてとてもかわいい見た目の精霊?なのだけども、実際はすごく頼りになる、一緒にいるとかなり心強い存在なんだと、私は思った。
「何だかチィ、色々教えてくれるの、お母様みたい」
『お母様、ねぇ……お姉様でお願いしたいわね、正直』
褒めるつもりで言ったつもりが、チィはちょっと拗ねるような口調になっている。
だから私はすぐに訂正した。
「じゃあ、お姉様」
『そうそう、そっちでお願いするわ』
言い直す私に、クスクスとチィは笑う。
私の口からも、思わず「うふふ」と笑い声が出てくる。
こんなに完全にホッと気を許した笑いは、両親がいなくなって以降、初めてかもしれない。
敵でもなく、強く当たってきたり冷遇したりしない存在なんて、めったにいないのだ。
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