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第16話◇私、探偵助手になります!

 真剣な仕事としてのお願いと理解して、私は緊張感をもって話の先を聞くことにする。


「事件ってどんな……?」


 ここ最近、この南ストレリチアで何か大きな事件めいたことはあったかしら。


「この森の中でこれから約一か月後に起こるであろう、ある令嬢に対する殺人事件、かな。俺はそれを阻止したいんだ」


 けれど、「過去のこと」を思い出そうとした私に対して、イデアは逆にそれは「未来のこと」なのだと指摘した。


「それ、は、どういう事件、なのかしら?」


 いつの間にか喉が変な感じで乾いていて、言葉がつっかえてしまった。

 震えそうになる指先を握り込むようにして必死に押さえ込んで、私は彼の――探偵の台詞の先を待つ。


「令嬢は十の月の二十二日、この宵闇の森、ちょうどその、山小屋とモミの木を結んだ線上……この辺りか。この位置で亡くなると思われる」

「――っ!!」


 その日。

 そしてイデアが自ら立ち示した、その場所。


 そここそが、一か月後に私が倒れ伏した落ち葉のベッドだった。

 ひっ、と喉に張り付いたような声が思わず漏れた。


 どうして、彼がそれを知っているの?

 そしてこのことを彼に調べさせている人は、何者?


 私を殺した敵側?

 それとも、守ろうとしてくれた殿下の側?


 私の手は震えていて……。

 その事実が伝わることを恐れて震えを止めようとしたけれど、ちっとも止まらない。


 すると、お互いの指先が触れ合った。

 いつの間にか、イデアの手が私の指先を握っていた。

 手を引かれるようにされたと思ったら、イデアは私の右手を両手で優しく握り込んだ。


 それは私の恐怖を緩和させようとしているように感じたけれど、やっぱり震えは止まらない。


「この恐ろしい事件を止めるために、君にも捜査に協力して欲しいんだ。俺にはイリスの視点も必要だ」


 私の両眼をしっかりと見つめながら、まるで懇願のような口調でイデアは言う。


 正直、迷う気持ちはあった。

 死の危険を恐れて。


 出会ったばかりの彼を、私はまだどこか疑っている。

 だけれど。


「イデア、私……協力するわ。とても、恐ろしいけれど」


 私はこの捜査に協力すると決める。


 だって。

 何もせずに逃げ出しても、ただ死ぬだけかもしれないじゃない。

 それなら少しでも、この状況が変わるようにと動きたい。


 そう考えて、私はあえてイデアに協力することを選ぶ。


「そうか。じゃあ、イリスは俺によって探偵団の助手に任命された、ということになるけど、いいかな?」

「ええ。分かったわ」


 私が応えると、何故かイデアは泣きそうな表情になりながら、その目を伏せる。


「ありがとう……本当に」


 そうして、私の指先にそっと触れるだけのキスをした。

 感謝を示すキスだった。


 とても自然なそれは、やっぱり洗練された貴族の紳士という、彼の高貴な出自を示しているように思えた。


 なぜか、妙にドキリと心音が大きくなる。

 あえて意識して微笑んで見せて、私はこの首を横に振る。


「そんな、私にお礼なんてしないで。これは『私の、あなたに対するお礼』なんだから……」


 イデアが言っていることは、本来なら、どう考えてもおかしいことだった。

 普通なら何の根拠もない妄想だと判断されても仕方ない話だと思う。

 そもそも、一か月後に事件が起こるなら、まだ事件が発生する前なのだ。


 でも、「私はそれを妄想じゃないと、もう確実に知ってしまっている」のだ――。

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