第12話◇あなたに触れてもらったから
二十秒かそのくらい、魔法の時間は持続し続けていた。
私は硬直したまま、それをただ眺めていた。
やがて魔法の威力は少しずつ先細って、最後には立ち消えてしまう。
けれども、この興奮は決して収まらなかった。
「えっ、なっ、これっ、今のっ……!!」
声が自然と上ずる。
「信じられない、もしかして、夢か幻だった?」とも思ったけれど、これは私だけが体感したことじゃない。
ちゃんと目の前に証人がいる。
「うわあ!!すごいよイリス!!四属性同時なんて、こんなの初めて見たよ!!」
すごいすごい、と私以上にはしゃいだ声を上げてこの快挙を証明してくれる人が。
「イデア……」
まだ信じられない気持ちのまま見つめると、「ちゃんと嘘じゃないよ」と証明するようにニコッと笑われる。
「魔法使えたね、イリス」
「そう、ね。私にも、使えた、わ」
時間が経つに従って、段々、じわじわと実感してきた。
体の底から湧いてきた喜びに、自然と全身が震えてくる。
涙がにじんで、イデアの輪郭が二重になって見えた。
ブンブンと繋ぎ合った両手を振られている。
思いのほかイデアも興奮しているみたいだ。
「すごいのはイデアの方だわ!!あのザワザワする感覚が魔力の感覚なのね!!これに気付いたから私もできるようになったのよ!!」
大きなきっかけを掴めたのは、イデアと手を触れ合わせた瞬間。
魔力特有の熱や皮膚感覚をしっかり感じられたから。
そもそも「自分や他の人の魔力の感覚」も「大気中のマナの感覚」も、私には分からなかった。
それが、イデアに触れてもらったおかげですっかり理解できるようになったのだ。
「そっか。それならよかったよ」
けれども、彼はその栄誉を欲しいままにはしなかった。
「でも、教えた通りにすぐに魔力の感覚を掴んだのは、君自身の力だよ。それと、あの四属性の歌も、何気にすごかったんだ。あれは一体、どこで知ったの?」
「ずっと幼い頃、両親が最初に教えてくれたの。幼い子に精霊魔法を学ばせる時の基本の手遊び歌だから、って」
私は両親が私の記憶にこの歌を残してくれたことを、とても感謝した。
「本当に、覚えていてよかったわ……!!ただ、すぐに魔法が消えちゃったのが残念だったかも。どうしてなのかしら」
しょんぼりして口走ると、イデアはそれにも答えてくれた。
「それは君の中で魔法のイメージが固まっていなかったからだろうね。どんな事象が起こるのか、具体的じゃなかった」
「そうなんだ……」
初めて知ることばかりだわ。
やっぱり、彼はとても魔法に詳しいどころか、「ちゃんと自ら使える人」みたい。
一体どんな魔法を使う人なのかは、いまだ不明だけど。
私はイデアを意識的に無視しようとしていた少し前の自分を恥じる。
そんな態度だった私であっても助けようと彼が思ってくれたからこそ、私も成功できたのだ。
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