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第32話 慰労会

 毒鼠のアジトから向かったのは、例の酒場だった。

 酒場の前には閉店の立て付けが置かれている。中も立地の所為もあって真っ暗に感じるがーー。



「無事だったか!?」

「うっ、何とか」



 そこから出て来る大柄な男、酒場の店主はアレクを力強く抱き締めた。店主はどうやら今の今まで自分達を心配していた様で、寝てもいない様だった。



「手厚い歓迎だが……早く中に入らせて貰っていいか? 誰かに見られでもしたら……」

「おっと! 悪い! さっ! 中に入って来れ!!」



 店主は嬉しそうに笑顔で店の中へと促す。


 アレクは店主の腕から逃れホッとしながら酒場へと入る。


 酒場のテーブルには、此処を出発する前に用意されていた食事……以上の物がテーブル一杯に広がっていた。

 そして、そのテーブル前の椅子に座る者が一人。



「お前ら……!!」



 その目は赤く腫れ、頰には涙の跡が残っているーー。



「メイドさん! 良かった……」



 メイドはアレクとツクヨを強く抱き締めた。


 その強さから、店主同様どれだけ心配してたのか分かってくる。



「大変だったんだぞ。起きたら起きたで、小僧が居ないって大騒ぎだったんだ」



 背後からの店主の言葉に、メイドの顔へと視線を向ける。


 最初見た時の強気な女性ではない、そこには温和な女性の表情が見て取れた。

 彼女は奴隷としての歴が長い。それもあってか、力の制限以外にも何か異常があったのかもしれない。だが、奴隷なら解放された今、顔色は良かった。



 それよりもーー。



「その、早く離れてくれないか? あの……暑苦しいから」

「うん? あ……悪い。私がもっと魔法を上手く使えたら……」

「痛い痛くないはどっちでも良いから、早く」



 ーー最近の女性はこういうものなのだろうか。

 突然抱き着いて来る、女性特有の柔らかさを感じ、つい顔が熱くなる。


 アレクの前世での女性関係は皆無。女性と話すぐらいなら修行するように言われて来ていた。

 ツクヨの様な子供なら兎も角、メイドの様な歳上からの抱擁となれば前世よりも年齢が少し下程度で照れてしまうものがあった。



「っ!? な、何だツクヨ!?」

「別に………」



 横腹をつねられる感覚をツクヨから受けていると、メイドが一歩退き突然頭を下げた。



「お前には……その、本当に悪かった」

「えっと、何の事だ?」

「お前じゃなくて……」

「私、ですか?」



 ツクヨの問いに、メイドは頷き視線を落とした。



「私はアソコから逃げ出した……つまり、お前を裏切ったんだ。あんな簡単な役割だったのに……それすら出来ないなんて私……」

「でも………ゼランって人から話は聞いてます。メイドさんを初めて見た時は、ボロボロな姿でゴミ捨て場に居たって……もしかしたら兵士に見つかってしまったんじゃないですか?」

「それは……結果的にそうなっただけで、頭の中ではアソコから離れようとしてたんだ。だから裏切った事に変わりは無い」

「でもそれはーー」

「いや、だからと言ってーー」



 ーー二人の言い争い……裏切った、裏切ってない論争は数分続き、どう言葉を掛ければ良いか迷っていると、それに痺れを切らした店主が大きく態とらしく咳払いを挟んだ。



「まぁ………結果的に逃げてしまった。だけど逃げたお陰で俺達みたいな良い奴等に出会って……小僧達を助けられた。結局、過程なんてどうでも良いと思うぜ? 助けられた……それだけでよ?」



 店主は二人へと笑みを向けた。



「そうですね、裏切ったとか裏切ってないとかどうでも良いです」

「結果が全て、か……確かに。助かったんだから、それで良いか」



 肩の荷が降りた様に、二人は店主の言葉に顔を見合わせ小さく笑い合う。


 結局どんな道を辿ったとしても、出口に辿り着けなければ意味は無い。それが世の中の理だ。


 アレクは二人の間を通り、食事が置いてあるテーブルの椅子へと座った。



「ま、それよりも早く飯を食おう」



 生き残れれば、それで良いのだ。


 アレクが笑い掛けて言うと、店主は二人の背中を押した。



「そうだな! 飯が冷めちまう!! ほら早く座りな!!」



 芳醇な香りが鼻を刺激し、強制的とも言える程に唾液が溢れ出て来る。


 それは恐らく、二人もーー。


 やっと安心したのか食事から目が離れない二人の腹部から、キューッと可愛い音が聞こえたのは気にしたら負けだろう。



 ~~~



 それから数時間、アレク達は食事を取り続けた。久方振りのまともな食事、それはアレク以外の二人も同じ様なものでーー。



「う、う~ん……」

「ウッ、た、食べ過ぎた……」



 ツクヨとメイドは食べ過ぎでテーブルへと突っ伏していた。

 テーブルには、側から見れば座っている者が見えないほどに皿が積み重なり、四人がどれほどの食事を摂ったのかが伺える。



「ふぅ……結構食ったな」



 そんな中、アレクは椅子の背もたれに寄り掛かり腹をさすっていた。アレクの姿からは二人より余裕があり、まだ食べられそうな様子だ。


 そんなアレクの前に、店主から水が入ったグラスが出される。



「まさかここまで食うとはな! 沢山作った甲斐があった!! ……けど、小僧はよく普通で居られるな?」

「まぁ、食べる事も修行だからな。無理にでも食わなきゃ傷も治らない」



 これまでまともに食事をしていなかった所為なのか、この身体の線は特に細い。

 今回はメイドが治してくれた事もあって事なきを得たが、これからはそうは行かなくなる。武人にとって、身体は資本だ。


 何より。



(……強くなりたいという自分が居る)



 アレクにとってそれが一番だった。

 この世に生まれ変わり、最初に目標にした事。


 強さを追い求める、それが前世からの使命の様に、自身の頭の中を支配していた。



「うおッ!? 何だこりゃ!?」



 その前に約束を果たさなければならなかったかと、聞き覚えのある声が聞こえてアレクは椅子から立ち上がる。



「先にやらせて貰ってるぞ」

「おぉ、って先にって……何やってるんだ?」

「そうだな、慰労会?」



「そりゃあ良い」とゼランは両手を合わせ捏ねながら椅子へと座り、残っている食事に手を伸ばす。しかしーー。



「ゼラン! お前が食うなら金払えよ!!」

「……一仕事終えて来た俺も労って欲しいんだが」



 店主からの一言に伸ばした手は、引き戻られる。だが、ゼランを労うのは此方の役目だろう。



「店主、俺が後で出世払いで必ず払う。だからコイツにも何か食わせても良いか?」

「おぉッ!! 話が分かるな!!」

「……チッ、高くつくぜぇ!!」

「それで、アレからどうなったんだ?」



 店主から無事に許可を貰い、食事に手を付けるゼランにアレクは問い掛ける。



「一応怪我した二人だが、今は詰所で治療して貰ってる。少なくとも数日で治る傷ではないみたいだから、暫くは寝たきりって話だ」



 腕や足を貫かれていた。数日では治る訳がないがーー。



「二人って……アイツ、怪我してるのか?」



 "傷"という言葉に反応したのか、メイドが起き上がる。



「ガイな。結構重傷だ」

「なら私が治す。これぐらいはさせて来れ」

「ありがとう、助かる」

「何でお前が助かるんだ?」

「いや、俺も色々ガイに助けられてるからな……それよりアジトの方は?」

「あー……毒鼠のアジトに関しては、兵士が入って調査中だ。今日中にもアジトの仲間は捕まえられて、後に極刑になるだろうな」

「極刑? そこまで重くなるのか?」

「イカラムの奴隷の売買は、それ程に重い罪になる」



 となると元々毒鼠に属していたガイは……いや、今はそれを考えても仕方がないだろう。



「そうか……色々迷惑かけたな。ありがとう」

「礼は要らねぇ。それで時間も無いんで、本題に入らせて貰う……」



 ゼランは真剣な眼差しでアレクを見つめる。その視線と前傾姿勢から真剣さが現れている。



「本題?」

「俺の条件だ」



 一瞬の息を呑む間を縫って、ゼランの言葉はアレクへと突き刺さる。



「およそ2年後、イカラムの東『ディア』が、南東にある『ナハド』へ侵略を始める。その時に力になって欲しい」



 どちらも聞いた事がないもの。だがアレクは言葉の端々から何となく理解する。



「つまり……国家間の戦争って事か?」

「あぁ、それまでに戦力を集めて『ディア』を助けて欲しい」



 あまりの急展開に、アレクは眉間に皺を寄せる。

 何故自分にとか、何で戦争をするのか、色々聞きたい事はあるが、一番気になる事をまず聞いた方が良いだろう。



「お前……何者なんだ?」

「改めて自己紹介する。俺の名前はゼラン。ゼラン・ド・ディア。ディア国の第二王子だ」

「面白い!」

「続きが気になる!」

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