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第27話 高等化、侵入 ◇

 毒鼠ボスの部屋より、更に奥。

 その部屋は辺りが辛うじて見える程に薄暗く、その光源は部屋の中心にある水晶から放たれていた。



『そっちは随分好評だったみたいじゃねぇか』

『こっちまでも今日中に噂が届くって事は相当よね。本当羨ましい限りだわ』



 水晶の中では、二人の人物の顔が映し出されている。

 そのどちらも顔は正確には見えない。しかし、その出立からそこらに居る一般人では無い。



「いや、そうでも無いさ。私の予想だったらもっと値段を引き上げられる予定ではあったからな」



 水晶から聞こえる声に応えたのは、高級そうな椅子に腰掛けるミズネだった。

 ミズネの表情は一見普通の表情に見えるが、こめかみからは汗が絶え間なく流れて落ちていた。


 寒い筈のイカラムで汗。

 その真意は……今、その商品だった筈のモノが暴れ回っているという情報を得たからだった。



『へー……そうかい。まぁ、金が上手く手に入ってるなら文句はねぇよ』

『そうね。残りの役割は貴方だけだったし』

「待たせて悪かったな。まさかこうも急に進める事が出来るようになるとは……そろそろ名乗り上げようではないか」



「『『定例会議、高等化(ハイレスト)』』」



 三人の声が重なる。

 高等化(ハイレスト)、それは組織の位階を上げる事を意味した言葉。


 イカラムでは今、三つの上位組織に幾つかの下位組織が織りなって平和と平穏を保っている。

 三つの上位組織にはその役割から多くの仕事をこなし、多くを軍事に関わる仕事をしていた。その為、多くの資金と戦力を持ち、王族とも親交があるという噂を持つ。


 その三つの組織に入るには、膨大な資金と力を示さなければならず、力はなんとか……ただ資金だけが足りていなかった。



「そちらは順調だろうな?」

『ふっ、当たり前だ。こっちは随分と待たされた身でもあるからな』

『それを言うなら私が一番待ったと思うけど?』

「まぁ、順調ならそれで良い……それで高等化(ハイレスト)だがーーん?」



 ミズネは後ろを振り返る。



『どうした?』

「外が騒がしい……悪いが少し席を外させて貰おう」

『なら、一時間後にでもまたしましょう。まだ話しておきたい事はあるし』

『そうだな。定例会議までなんせ、あと三ヶ月しかねぇ。高等化(ハイレスト)した、んで直ぐにまた元に戻った……なんて笑えねぇからな』

「一段と作戦は練った方が良いか……分かった。なら一時間後に」



 ◇



 階段下まで行くと、そこには門番が居ると聞いていたにも関わらず誰も居なく、ツクヨ達はホッと安堵の息を吐いた。



「……アイツらも忙しいみたいだな」



 ガイの呟きに、ツクヨも心の中で同意する。


 恐らく、此処に人が居ないのはアレクが……『魔王』が姿を現したから。奴隷として引き渡した筈の『魔王』が逃げ出してしまったからだろう。


 対処に回っており、最小限の者しか居ない。



「このままボスの部屋まで行きましょう」

「そうだな……その前にガイ、お前武器持ってないだろ? これやるよ」

「あ"ぁ? 何だ? 手を怪我してる俺に向かって……何かの当てつけか?」



 ウォッカがガイに渡したのはナイフの様な短い短剣だった。



「手を怪我してるお前だからこそこそれだろうが。少しでも武力は上げておいた方が良いだろ? ほら、君も」

「わ、私短剣なんて使った事ーー」

「少し隙をついて首にプスリ、短剣があるだけで相手に致命傷を与えられるかもしれないんだ。持ってた方が良い」



 ーー確かに。これからは何があるか分からない。二人に守って貰えない危機が訪れる可能性は大いにある。



(それに……守って貰うって考えじゃ私は足手纏いになる)



 それなら外で待っていた方が良かった……少しでも戦力になる為にもーー。


 ツクヨはウォッカから短剣を受け取る。



「頑張ります」

「はぁ、あまり意気込み過ぎてもダメだぞ? テキトーに肩の力抜かねぇと、初動が遅れる」

「ショドーですか……」

「……まぁ、お前がそれを振るって時は逃げた方が良策だ」



 ガイは呆れながらも、扉を開いた。それに続く様にしてウォッカ、ツクヨが扉の中へと入って行く。


 すると広がる、冷たく汚い石畳の通路。

 檻の中、そしてオークション会場に行くまでの道のり、その全ての記憶が呼び起こされる。


 寒く、怖くて、心細い。自分はもう少しでーー。



「辛いなら、帰っとけ。俺達がやっとくからよ」



 自然と呼吸が荒くなっており、入った瞬間に足が止まっていた事もあってかそれに気が付いたガイが、視線を送って来る。


 こんな事になるとは自分でも思っておらず、こみ上げて来る胃液を無理矢理に飲み込み顔を上げる。



「っ……大丈夫です」



 この場所は知らず知らずのうちににツクヨの心に傷を与えていた。


 身体は上手く動かず、寒さと空腹で意識が朦朧とし、手足に繋がれた枷が擦れる。

 自身に自由など無いのだと言っている様で……結局、一生この様な人生を送るのだとツクヨはごく自然と絶望していた。



(だけど……それを今。その鎖を断ち切ろうと此処に来てるんだ。絶対……絶対やってやる!!)



 改めて自身の置かれている立場を理解し、ツクヨは大きく深呼吸して呼吸を整える。

 しかしその途中、石畳を蹴る様な足音が聞こえ、ガイとウォッカはそれぞれ正眼に武器を構えた。


 そして現れたのはーー。



「え、ガイさん?」

「ん? おー、オークション会場振りだなぁ」



 現れたのはオークション会場で進行役を務めていた男だった。



「こんな所で何を………その横に居る者は?」

「あー、昔の知り合いだ。偶々そこで会ってな」

「……そこに居るモノも見た事がありますね」

「これもそこで偶々拾ってな」

「何で武器を?」

「これはーー」



 瞬間。進行役の男は自身が持っていたナイフを手に取り、ガイへと切り掛かる。それにガイは短剣で迎え撃つ。



「……早い話が、裏切ったって事でいいんですよね?」

「裏切ったなんて人聞きの悪い。元々、平気で人を売る奴等と仲良くしていたつもりはねぇんだが……勘違いしたか?」



 甲高い剣戟の音が鳴り響き、二人は距離を取った。



「お前みたいな非戦闘員が俺に勝てると思ってんのか? 早めに降参したら怪我ねぇで済むぞ」

「アンタが手を怪我して兵士を引退したのは知ってんだよ!! だからその短剣なんだろ!? ハッ!! 情けねぇ!! その身体はお飾りかよ!!」



 安い挑発に、ガイは乗らなかった。それは事実その通りだったからだ。しかしだからと言って引き下がれる程大人しくはない。



「あの、加勢しなくても良いんですか?」

「ん? あぁ、アイツなら問題ないさ」



 ツクヨが心配そうに見つめる中、ウォッカは呆れるように眉を八の字に歪めた。



「えっ!?」

「なっ!?!?」



 ツクヨと男から素っ頓狂な声が吐き出される。


 ガイは振りかぶったのだ。

 短剣を、《《投げる様に》》。


 その凄い速さで投げられた短剣は、男の横を途轍もない勢いで通り過ぎ、男は思わずそれに目を瞑る。


 そして、次に目を開けた時にはーー。



「ごふッ!!!」



 目の前に、ガイの大きく太い腕が男の視界を覆い尽くしていた。


 腕は男の首を捉え、ガイは薙ぎ払うかのように腕を振ると、その勢いに男は一転二転して通路の奥で倒れ伏した。



「どんなもんじゃ!! こらあぁぁぁっ!!?」

「アイツの強さは武器一つで測れるものではないから」

「面白い!」

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