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第19話 門前の戦闘

 イカラムは食糧資源において他国に遅れを取っていた。昔は国の領土を広げ資源を手に入れようと国家間での小競り合いがあったものの、およそ百年戦争は行われていない。

 行商人がルートを開拓し、何とか食糧が手に入るようになり、今となっては年老いた者でさえ戦闘という戦闘を行った事は無く平和に暮らしていた。


 勿論、資源の無い国に攻め込んで来る物好きなど長らく居なかった。

 金属の加工技術はあるにも関わらず、国で一番大事であると言って良い『門』が木製であるのは"必然"と言うべきだっただろう。



 門が何処か湿り気を帯びた軋んだ音を鳴らす。


 何も鍛えてもいないアレクの掌底。それにも関わらず、門が悲鳴を挙げたのはイカラムの気候の所為でもあった。

 一年中雪が降り、百年も手入れもされなかった門に使用されていた木材が腐っていたのだ。


 そして何より、それを実現させたのはアレクの超絶技巧による技術あってのものーー。



(よし……これなら何とかなりそうだな)



 アレクはもう一度手を引き、同じ所に掌底を繰り出した。

 門は先程よりも大きな音を鳴らし表面にヒビが入る。同時に、アイスウルフ達が門へと体当たりを始めた。


 それはドンドンとヒビを広げ、数秒もしない内に門を破壊する。



「よっと……」



 門の瓦礫をよじ登り、街の中へと入ると呆然と此方を見つめる兵や一般人の姿が目に入る。


 誰もが言葉を発さず、何もせず、ただ今のこの状況が信じられないと言わんばかりにアレクだけを見上げている。

 そして視界の端に、大きな男に連れられた二人の少女の姿が目に入った。



(ツクヨ達は無事に侵入出来たみたいだな……こっちに目を引かせないと)



 大きく深呼吸して呼吸を整え、神経という神経を研ぎ澄ませ、背後からアイスウルフが続いて来ているのが分かった。

 アイスウルフが瓦礫から頭が出る瞬間を伺い、さも自分が指示を出しているかのように腕を薙ぎ払う。


 すると予想通り、アイスウルフは雪崩の様に街へと入って行き、そこでようやく街の人達は悲鳴を上げ逃げ惑う。



(さながら、俺は魔物を操る『魔王』にでも見えてるんだろうな)



 アレクは自虐するかのように口角を上げ、瓦礫からゆっくりと降りて行く。


 下は狂乱とした広場が広がっていた。アイスウルフを向かい撃つ兵士達。しかしその数は圧倒的に少なく、一般人にも沢山の被害が出ている事が目に見えた。


 自分には関係の無い者達、スブデとも何も関係の無い者達、だがーー。



「もっと混乱してくれた方が動き易いんだが……」



 アレクにとっては別にどうでも良い事だった。

 善人であろうと、悪人であろうと、自分に何も関係のない者を助けようとは思わない。守りたい者が居るなら誰であろうと見捨てる、それが前世からの決め事。


 迷いは致命的な隙を生む。


 アレクは瓦礫から降りると、近くで戦っていたアイスウルフと兵士の間に割り込む。



「なッ!? うッ! ギャアァアァァァァッ!!?!?」



 兵士から困惑の声が漏れたと同時に、二本貫手(ぬきて)を兵士の両目に繰り出した。


 兵士はその攻撃に反応すら出来ず、真っ暗となった視界と共にやって来た痛みに叫んだ。


 目から血涙が流れ落ちるのを確認し、アレクは兵士をそのままに辺りを見渡した。


 大きな悲鳴が広場へと響いたお陰か、この光景に皆が強張った顔を此方へと向けている。


 アレクは兵士の両目から指を抜き、不敵な笑みを浮かべ走り出した。



「うわあぁぁぁッ!!?」

「く、来るなぁぁぁッ!!!」



 異様な光景を目にしたからか、兵士はアイスウルフとの戦闘を止め、アレクから距離を取ろうと背中を見せる。


 何人かを仕留めながら混乱を大きくして行く、そうすればツクヨ達の大きな助けになるだろうと街中へと入って行こうとした瞬間。



「う、狼狽えるなッ!! 相手は『魔王』と言えど一人だけ!! アイスウルフなど此処ではただのウルフと変わりない!! 訓練通り陣形を組め!!」



 隊長格であろう兵士が叫んだ。

 兵士達はその声に落ち着いたのか、一呼吸置くと近くに居た兵士と3人の組を作り、アイスウルフを容易く討伐して行く。


 此処で落ち着くのは不味いと、アレクは駆け出した。



「ッ!!」

「先にやるとしたら、頭だよな」



 隊長格の男はアレクが近付いてくるのをいち早く察知し、剣を正眼に構えた。


 規則正しい、基礎の構え。

 しかし、それは此処での最善では無い。



「なッ!? クソッ!!」



 男の手に噛み付くアイスウルフ。

 戦闘初心者がよく陥る、視野の狭まり。



「俺に気を払い過ぎたな」



 アレクは先程と同様に貫手で男の視界を奪い、手に付いた血を払った。



(さて……まだまだ時間を稼がないとな)



 アレクの今の最善は、アイスウルフと戦闘を共にする事だ。数は驚異、多くの民の恐怖心を煽ってくれる。

 アイスウルフ達が言う事を聞く訳ではないが、自分達には攻撃を加えない。このメリットは大いに活かすべきだろう。


 アレクはまたも声を張り上げ、まとめ上げようとする兵士を見つけて駆け出す。



 そして一瞬。

 何度も繰り返される行為・光景を目にした兵士達は、数分後には遂に声を上げなくなった。



 呼吸の乱れ、剣の振る音やアイスウルフの鳴き声だけが広場へと響かなくなったのを確認したアレクは、血濡れた指を自身の両目へと突き立てる。



 まるでそれは、声を上げた者の末路はこうだと言わんばかりの警告でーー。



 広場には、冷たい一陣の風が吹き起こる。

 兵士達にとっては、いつもの仕事終わりに起きる爽やかな朝風の筈だった。


 しかしその風は、鉄が錆びた臭いがした。

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