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第18話 アイスウルフの襲撃

 北のある国の王族には昔、魔人が居たと言う。

 その者は大きな竹の箒で空を飛び回り、多種多様の魔物を飼っていた。


 その魔物らは魔人の言う事だけを聞き、他の者の言う事は一切聞かず迷惑ばかりを掛けていた。建築物や農作物を荒らし、果てには子供にも怪我を負わせる……その事もあってか、周囲の人々は魔人を忌み嫌っていた。


 しかし、誰かに忌み嫌われようと魔人にはやる事があった。



 賢者の石。



 それは、万物を制限なく生み出せるという神の石。

 魔人はそれ以外に何も必要としなかった。賢者の石を作り上げるなら、何をしてでもーー。


 魔人は賢者の石を作り上げる為に、何も躊躇はしなかった。周りの人々に迷惑を掛けても、命を材料にしても。


 人々は魔人に抵抗するが、魔人の魔法は人々を、いやーー街を容易く氷漬けにする程の威力を持ち、普通の人なら敵いもせず、逆に被害を大きくする事が多かった。


 そんな時、噂を聞きつけある者が街へ訪れる。



 勇者。



 あらゆる剣技、魔法を使って魔に連なる者を屠る選ばれし者。


 勇者は最も容易く魔人に致命傷を与えた。



『善良な民がお前に何をしたと言うんだ!! 何もしてない筈だろう!!』

『……は、何も知らない小童が……知ったような口を聞くな!!』



 魔人は勇者から身を守る為か、それとも一矢報いる為か、自身を凍てつかせる程の魔法を放った。




『ーーーよ、ーーー!!』と。




 しかし勇者は真正面から魔法を破り、魔人を倒した。

 魔人には罪を償わせる為に死ぬ事も出来ず、人を殺す事も出来ない魔法を勇者に掛けられた。

 そして国の処分として、魔人の足首の腱には十字の傷を負わせ地面に這い蹲らせるという、貴族として最大級の罰を与えるのだった。



 ~~~



「んー……」

「どうだ? ツクヨ?」

「いや……特には、別に」

「そんな筈はないと思うんだが……」



 坑道から出て十分程、アレク達はイカラムに歩きながら坑道から持ってきた本を調べていた。


 今も尚、歩きながら読み進めているツクヨではあったが何の成果も得られていない様だ。



「あんな所から無理矢理に持ち出すから何かあるのかと思えば……お前は何を考えているんだ」

「そうだな……悪い」



 あんな危険な行動をしておいて、貸して貰ったのがただの絵本だなんて馬鹿馬鹿しく思えるだろう。



(未だに蒼白の煙……オーラが出てるんだけどな……)



 絵本から出るオーラはツクヨのオーラと相まって巨大とも言える大きさになっている。

 


(俺も読んだが特にコレと言った物は無かった。最後の魔法の詠唱部分に何かあるんじゃないかと思ったりもしたが、ツクヨに同じ詠唱をして貰っても何も起こらなかった……失敗だったか?)



 これは坑道の奥に居た者に返さなければならない物。またあの者に会うと考えるとーー。



「おい、何だあれ!!」



 俯きながら歩いていると、後ろからのメイドの言葉に顔を上げる。


 いつの間にか見える所にイカラムの外壁のその下まで見える場所まで来ていて、急いで大きく吹き溜まりになっている雪の影へと隠れる。


 そこには門を引っ掻き、体当たりを繰り返す埋め尽くす程のアイスウルフ達の姿があった。



「あの豚が先に着いてたみたいだな……」

「どうするんだ? スブデ様が先に街に入ってるなら確実に門前は警戒されてる筈だ……そうなったら私達は……」



 メイドは意気消沈したように顔を俯かせ、それに合わせたかのようにツクヨも続く。



「まず門前にあんなにアイスウルフが居たら入る事なんて……」

「いや、それは大丈夫な筈だ。街には入れる」



 此処まで来るにあたって、何匹かアイスウルフの気配が近くにあった事があった。しかし、アイスウルフは襲ってくる事無くイカラムの方へと向かって行った。


 恐らく、坑道に居た奴が"襲われない"ようにしたのは本当のようだ。


 今の問題はメイドが言った事。



「ツクヨ、その防寒着の中に小さな双眼鏡があった筈だ。貸してくれ」



 護衛が来ていた防寒着の中に偶々見つけた双眼鏡をツクヨから貰うと、アレクは外壁の方を伺う。



「………ハハッ!」



 そして、ある者が見えて思わず吹き出す。



「な、何だ急に……」

「どうかした?」

「二人とも……もしかしたら何とかなるかもしれないぞ」



 アレクは二人に犬歯を見せ獰猛な笑みを向けた。



 ◇



 アレク達がまだ絵本について調べながら歩いている頃、イカラムの外壁内は小規模な戦闘が行われていた。


 馬車を助ける為にと門を開けた結果、予想通りと言ったところか。馬車と共にアイスウルフが雪崩のように押し寄せたのだ。



「グッ!!?」

「おい! 大丈夫か!!」



 中で襲われた市民、対応した兵士が負傷をし、辺りには所々に血痕が残されていた。


 アイスウルフを何とか討伐した兵士、ガイ達は直ぐ様元凶であろう馬車へと向かう。



「スブデ様!! タインです!! どうかなされたのですか!?」



 馬車の窓は締め切られており、タインがドアを強く叩く。すると、その中からグッタリとした護衛達が出てきた後に、肩を落として悲壮感を漂わせたスブデが降りて来る。



「何があったのですか!?」

「……ーーでゅふ」

「え?」

「全部『魔王』がやった事でゅふ!!」



 スブデの悲痛そうな金切り声がそこら一帯に響き渡り、全員が動きを止めた。



「ま、魔王ですか?」



 近くに居たタインは焦りながら問い掛ける。

 魔王なんてただの創作話や昔話でしかない。それらを恐れているのは飯を食べるのすら苦労している年老いた老人だけだ。


 ただの戯言だと思っていたタインにとって、未だに目の前で叫ぶスブデに呆然とする。



「『魔王』がアイスウルフの大群を呼び寄せたんでゅふ!! 『魔王』は何処に居るでゅふ!!? アレにどれだけの金が掛かったとーー!!」

「お、落ち着いて下さい! 話は詰所で詳しくお聞きしますので!!」



 これ以上騒がれては問題だと、兵士が無理矢理にスブデと疲れ切った様子の護衛達を連行する。それを見てハッとしたタインが急いで後を追って行く。スブデとの繋がりを断つ訳にはいかないと思っての行動だろう。


 その光景を後ろから見てたガイは、一人密かにほくそ笑む。



(やっぱりアイツが……でも姿が無いって事は既に街の中に? いや、普通に考えてまだ入ってないだろうな)



 イカラムの門は今の様な緊急時か、昼時、時間通りに来る行商人や高貴な者の乗る馬車が通る時にしか開かない。


 スブデ達よりも先に街に入るのは現実的ではない。


 ガイはまた外壁の上へと向かい雪原を見渡した。



(まだ此処らへんを彷徨いてるか……だが、こんなアイスウルフが居たんじゃ……)



 街に入る事は難しい。普通に入るならアレらをどうにかしなければアイツらは街に入る事無く、凍死してしまうだろう。



(それなりの長さの縄が有れば城門から離れた場所を登って来れると思うが……こんな人目のある場所で魔王を助ける事は出来ないだろう。どうするーー)



「おい!! アソコ見ろ!!」



 そんな時、先程鐘を鳴らせなかった若い兵士が雪原を指差す。指差した先に二人、メイド服姿の女と商品として魔王と共に居た白髪の少女が走っているのが見えた。


 背後からはアイスウルフが数匹迫っているのが見える。


 魔王は、居ない。しかしアイツらなら何かを知っている事は確実だとガイは大声で呼び掛ける。



「おーーーいッ!! こっちだーーーッ!!」



 急いで縄を用意して、自分の位置を知らせる為に手を振りながら城門から離れる。二人は此方に気付いたのか、徐々にガイの方へと向かう。


 ガイは外壁にあった突起部分に縄を結ぶと縄を下ろし、自身も直ぐに外へと降りた。



「俺の身体を絶対離すんじゃねぇぞ!!」



 ガイは二人を背負い込むと、縄を豪快に登って行く。そして外壁の半分程まで来て、アイスウルフが通り過ぎたのを確認して一息着く。



「アレクが今、遅れて門の前に来る」

「ーーあ"ぁ?」



 突然、耳元でツクヨの声を聞いて少し声を荒げる。しかしツクヨは冷静に告げた。



「アレクが目立っている内に、私達三人がスブデの契約用紙を破棄する。協力して」

「はぁっ……何だ急に!」



 喋ると共に肺から空気が漏れる。


 急な話にガイはついて行けず、悪態を吐くばかり。それでもツクヨの様子は変わらなかった。



「最初はアイツよりも先に気付かれずに街に入って、隙を見て契約用紙を破棄するつもりだった。でもアイツは先に入って、遅れを取っている……」

「あの豚の事か……なら別にアイツを置いて来る必要は無かったんじゃないか?」

「それだと貴方は助けなかったでしょ? 良いから協力して」



『冷静』というよりも、寧ろ熱を帯びたツクヨにガイは思わず喉を鳴らした。



(コイツ……檻の中に居た時とは違ぇな)



 何処か弱気で大人しかったツクヨの面影は今はもう無い。話し掛けても、何をしようと口を噤んでいた少女に、ガイは認識を改める。



「それも踏まえてどうにかして現場を掻き乱さないといけないというのがアイツの判断だ。私からも……頼む。自由が欲しいんだ」



 ツクヨの言葉を無視して登り続けるガイに、今度はメイドが続く。


 コイツは何だろうかと思っていたが、話を聞き直ぐにスブデの奴隷だと予想がついた。


 ガイの答えは決まっていた。



「ここまで来たんだ。最後まで付き合ってやる」



 アイツが生きているならと、ガイは保守的な考えを捨てる。

 子供と言えど魔王と呼ばれる者、あの時の殺気に近い迫力は今でも鳥肌が立ち、あの真剣で何が何でもやり遂げる、そんな瞳からは信じるに値すると自分の直感が言っていた。


 ただ、気になる事が一つ。



「アイツが目立ってる内にって何をどうやって目立つつもり………」

「ヒいィィッ!!?」



 言葉を続けようとして、上方から悲鳴が上がり見上げる。

 そこには双眼鏡を構えた老兵が、ある方向を見て驚愕したかのように目口をカッ開いて硬直していた。


 ガイはその方向、門の前方へと視線を向けた。そして、今までの自分の表情が無かったかのように消え失せ、口角が自然と上がるのが分かった。



「おいおいマジかよ!」



 黒一点。



 その小さな黒は俯きながら、集団……最早軍隊と言った方が良いかもしれない数のアイスウルフの軍隊へと整然と近付いて行く。



「おい! 止めなさい!!?」

「早く離れるんだ!!?」



 悲鳴のような忠告が為されるが、その黒は聞こえてないと言わんばかりに歩を進める。

 もう直ぐアイスウルフに襲われてしまう、そんな予想がつき、見ていた者は顔を顰めた。



 しかし黒は襲われる事なく、アイスウルフの波を割った。歩みを進める度、アイスウルフ達はそれを避け、遂には軍隊の先頭へと立つ。


 黒は、足を前後に大きく開いて腰を低く保ち捻る。その後、右手を引いて胸を大きく張った。



「な、何をしてるんだ?」

「何が起きてるんだ? 何であの子は襲われないんだ??」



 謎の行動を繰り返すそれに、兵士達が困惑していると、気を取り戻した双眼鏡を持っていた老兵がしわがれた声で叫んだ。



「ま、『魔王』だッ!?!!?」



 老兵の双眼鏡から見えた少年。それはオッドアイの少年。



「ふッッッ!!!」



 アレクは勢いよく息を吐き出すと同時に、門へ向かって掌底を叩き込んだ。

「面白い!」

「続きが気になる!」

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してくれたら私のやる気がupしますᕦ(ò_óˇ)ᕤ

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