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第14話 遭難

 冷たい風がアレク達の顔を襲う。

 馬上の上での風は、走っていた時よりも厳しく、冷たく、そして痛かった。


 薄らと残る馬車の跡を追い、アレク達は背後に迫る三匹のアイスウルフから逃げていた。


 馬は速い。だが、アレク達が乗る馬とアイスウルフとの距離は段々と詰まって来ていた。



(二人が乗ってる分だけこっちが……)



 ツクヨがチラチラと後ろを振り返り、此方を気にしているのが分かる。

 ボロボロな自身にパンを譲ってくれた彼女なら、見捨てる事が無いと予想が出来た。


 何か無いかと考え、思い出す。



「おい! メイド!」

「な、何だ!!」

「『魔法』を使え!!」

「はぁ!? 私の魔法は『治癒』!! あの後ろの奴等には効かないし、近くに居ないと魔法はーー」

「それぐらい分かってる!! 馬の疲労を取る為に使えって言ってんだよ!!」



 馬達は野営地に着くまで休み無しで走り続けた。雪が降るという環境というのも初めてで、それらも関係しているだろう。



(疲れが溜まっている筈。『治癒魔法』で疲れまで回復出来たら儲け物だ)



 メイドは「あ、う、うん!」と返事をすると両手を馬の背に向けた。



「……傷よ……治れ」

「傷を治すんじゃないぞ!!」

「分かってる!! だけど『詠唱』事態、私そんな知らないし……」



 ヒヒ~ンッ!!



 この事態に、問題が続く。

 馬は興奮したかの様に、大きく跳ね上がった。前脚を天高く上げひっくり返りそうになるが、何とか持ち堪える。



「おい! 何したんだ……って、おぉッ!?」



 馬は突然立ち止まり、アイスウルフ達へと足蹴りを繰り出した。それは一匹二匹三匹と、的確に相手の顎を砕き戦闘不能にさせる。



「お前……こんな事が出来るなら最初からやれよ」

「わ、私も動物に使うなんて初めてだったし、疲労を取る為に使うなんて……」

「まぁ、結果オーライ?」



 アイスウルフ達の戦闘能力は低い。

 それこそ集団で襲われる事が無ければ、それ程の脅威は無いらしいが、まさか馬の蹴りに助けられるとは思ってもなかったと、アレクは肩を下ろし、一呼吸を置く。



 しかし。





 ガラガラガラッ





 その音に、三人とも振り返る。



「嘘……」



 メイドは目を見開く。

 そう遠くは無い所から聞こえて来る、馬車の車輪が回る音。先程まで居た野営地の方からの音だ。



「豚野郎達が追っ掛けて来てるな……」



 速さは勿論、此方に部がある。しかし、街に着いて自分等がすんなりと入れる訳がない。もしかしたら、入れないという可能性の方が高いと言えるだろう。



「……道から外れて山を降りる」

「はぁ? だ、大丈夫なのか?」



 大丈夫ではない。だが、このままだと結果は見えていた。



「大丈夫かは分からない。だけど、今このまま山を降りるよりはマシだとは思う」



 此方には遠距離攻撃が出来ない。魔法で攻撃すらも出来ないのだ。それに、スブデ達がアイスウルフをこの短期間で討伐したとは思えなかった。



「アイツ等は多分、まだアイスウルフに追われてる。アイスウルフに追われるよりは遠回りしても安全に降りて行くべきだと俺は思う」

「だって、私達はこんな軽装で……山に長居は出来ないんだぞ?」

「勿論、分かってる。だが、可能性は一番高い」



 メイドはアレクの顔を見て、口籠る。


 迷うのは理解出来る。これは賭けだ。普通なら早く街へ入るべきではある……が、それに『魔王』である自分の容姿が引っ掛かってしまうのは確定事項。どうしても時間が取られてスブデ達に追いつかれてしまうだろう。だが二人なら街にーー。



「二人がこのまま街に行きたいと言うならーー」

「私は、アレクに従う」



 途中、神妙な表情でツクヨが呟く。



「おい……」

「一号さん。もし此処で街に行くとしたら、アレクは街に入れないかもしれない」



 雪の中、紅く光る双眼に真っ直ぐに見据えられたメイドは、眉間に皺を寄せてアレクを見る。それに、アレクはただ真顔で見合わせた。


 数秒後、メイドは観念したかのように大きく息を吐いた。


 何の返事も貰ってないがーー。



「二人が良いなら、森に入るが良いか?」

「うん」

「……この状況でダメなんて言えないだろ」



 肩を落とすメイドを横目に、横に方向転換する。



「よし。どれぐらいのアイスウルフが来るか分からない。少し森の奥まで入るぞ」



 アレク達は森の中へと入る。アレクとメイドが乗った馬を先頭に、ツクヨの馬が続く。


 山道の途中から森に入った事もあってか、傾斜が急で整備されていない道に大きく揺れる。早く此処から離れようとなるべく早く、そして静かに駆けて行く。


 スブデ達を追い掛けて来るアイスウルフ達の数は相当な筈。距離を取らなければ巻き込まれかねない。



「ツクヨ、着いて来れてるか?」

「う、うん……」



 一段と急になるほぼ崖の様な場所を通る。一歩間違えたら崖の下に真っ逆さま。

 ツクヨは不安そうに眉尻を下げている。


 その時。


 ツクヨの馬が足を踏み外す。



「ツクヨッ!!!」



 アレクは馬の手綱を離し、一瞬の内に馬の背を駆ってツクヨへと手を差し伸べる。人間業ではないと思う程の動きにメイドは感嘆する。

 しかし、それは爪先程の距離が届かずーー。



 それでもアレクは諦めなかった。

 今度は馬の背を蹴り、飛び出す。



「お、おい!?!何をしてるんだ!!」



 背後から驚く声を聞きながらも、アレクはツクヨの身体を引き寄せると身体を固めた。


 襲う衝撃。

 鋭い山肌がアレクの皮膚を削り破りながら落ちて行く。


 メイドは呆然と馬上から崖下を見下ろす。薄らと白澄む空でも、崖底は見えず、例え雪面であっても痛々しく残る血痕が二人は無事ではないと示していた。



「……ふん。悪く思わない事だな」



 メイドは馬上の前方に座ると、手綱を持つ。そして馬と共に前へと進むのだった。

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