第四話 「エリックと魔物襲来(2)」
エリックさんの家から飛び出た瞬間、はるか前方から砂煙が昇っているのが見える。
そこには数多くの魔物がいることがわかる。エリックさんが遠くの魔物に向かって走り出したのにつられて自分も走り出した。
「エリックさん、あれは何ですか。」
俺は走りながらエリックさんに尋ねた。
「あれはおそらくゴブリンの群れでしょう。ここら辺にはいないはずですが、あの西の森から出で来たとなれば大変ですね。」
必死に走っていると向こうから剣を持って走ってくる人がいる。
俺の父であるウォートンだ。
「大変だ!西の森からゴブリンの群れらしきものが接近中との報告があった!」
「そんなこと見なくても分かる!」
「俺は自衛団に行って皆を集めてくる!」
「父さん、僕は?」
「ロイ、お前は今すぐここを離れろ。子供の出る幕じゃない。」
「いや、村のピンチなんだろ、俺も戦うよ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!!今は遊びじゃないんだ!」
「でも...」
「はっきり言って足手まといだ。避難所に行ってろ。」
「...はい。」
「幸い、ゴブリンたちが来るのにはまだ時間がある。エリック、迎撃態勢をとるぞ。」
「わかった。」
そういえばエビィナから聞いた話によるとゴブリン程度でもこの村の一般人よりも強いって言ってた。そう思い出し、素直に従うことにした。
俺はゴブリンの群れに向かっていく二人を見送った。
その後、俺は避難所に逃げながら、父さんたちが無事であることを祈っていた。
「まさかこん状況になるなんてな。」
「そうだな、互いが群れることがないチビリンとデブリンが群れるなんて。」
「チビリンのすばしっこい攻撃とデブリンの一撃か、これは厄介だな。俺らには多くの仲間がいる。だが油断はすんな、エリックはデブリンを頼む。俺はチビリンをやる。」
「分かった、仲間が来るまで耐えよう。」
そうして丘の向こうから見えてきたのは50体程度のゴブリンの群れだった。
「数、多くないか」
「予想以上に多いな、エリック、頼む。」
「ああ、“暴風魔法・エアブラスト”!」
そう唱えると同時に、強大な風が生じ、チビリンたちを吹き飛ばしていく。3,4体は飛んでいったか。ひるんだチビリンたちにウォートンが攻撃を浴びせる。
「ナイス、エリック!今度は俺の番だ。自衛団の団長の力見せてやるぜ。“即剣・火炎焔切り”!!」
ウォートンの刀に炎をまとったかと思うと、ものすごい速いスピードで4体のチビリンを消し炭にした。
その勢いにゴブリンたちは一瞬戸惑ったが、次の瞬間には襲い掛かってきた。
「まだまだぁ!」
「負けてられないね、“暴風魔法・エアフィスト”」
今度は二つの空気の拳が現れたかと思うとその拳がデブリンに向かって飛んでいて見事直撃し、デブリンを2体倒した。しかしまだまだゴブリンは数多くいる。
「さすがにこの人数差はやべーし、気になることがあるな。」
だいたい10体くらいゴブリンを倒しながら、ウォートンがいう。
「そうだね、魔力もいったん回復したいし。みんながいるところまで下がろう。“暴風魔法・エアロアクセル“」
そう唱え、エリックの魔法の力で走るスピードを上げ仲間がいるところに戻った。幸いゴブリンたちは家畜を殺すことに思考を奪われて追ってこなかった。
作戦会議の場に男たちが80人くらい集まって話し合っている。
「おい、どうすんだよ。」
「見張りの報告によれば、敵はチビリン、デブリン合わせて、50体くらいらしい。今、団長とエリックさんが戦闘中だ。」
「いや、今戻ってきた。」
とウォートンとエリックが入りながら話す。
『団長!』
「今戻ってきた。手短に言うぞ。報告は二つある。一つはチビリンとデブリンは南北に分かれて進行している。」
どうやら家畜を殺して体力が回復して動き出したかと思ったらなぜか挟み込むように攻めてきたのだった。
「二つ目は、予想以上に統制が取れている。おそらくどこかにゴブリンジェネラルがいるだろう。」
ウォートンたちが感じた違和感はゴブリンジェネラルによって引き起こされたものだろうと二人は考えた。この南北侵攻だって少し知能の高いゴブリンジェネラルが考えたものだろうと思ったのだ。
「ゴブリンジェネラルだって!そんなの相手できるのは団長とエリックさんだけじゃないか!ただでさえ厄介なD級のゴブリンがいるのにC級のゴブリンジェネラルがいるなんて。」
「どうすんだよ、団長。」
「作戦がある。聞いてくれ。まずゴブリンたちが二人手に分かれている以上こちらも二手に分かれないといけない。そして俺とエリックは別々にし、ジェネラルが現れても対応できるようにする。異論があるやつはいるか?」
「ジェネラルに遭遇したらどうすんだ?」
「ジェネラルに会ったらすぐに逃げろ、そして周囲のみんなにしらせるんだ。」
「分かった。」
「目標は、殲滅だ。命を大切にしろよ。無理はするな。いいか、勝つぞー!」
「おおー!」
(何も起こらなければいいんだが)
とウォートンは思った。