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イノチノマタギ  作者: 凪雨タクヤ
8/30

獣の少女とエルフの国のお姫様

魔法ステータスの確認が終わり、施設から出る。

外の涼しい風が肌に触れて気持ちがよかった。

皆で階段を下りる。


「ねぇガーランド、ネネ姉さんは今から合流するの?」

フレデリカが尋ねる。

「そうだ、今こっちに向かっているらしい。」

ネネ姉さん?と僕は尋ねた。

「そう!エルフの国のお姫様なんだけどね、いつも私達と冒険するの!今まで実家というか国に帰ってたんだけど。」

「めちゃくちゃ美人だから惚れるなよ凪斗?」テツが付け足した。


エルフの国のお姫様が一緒に旅をするというのは国からしたら不安だと思ったが、そのあたりは寛容なのかもしれないと思った。もしかしたら護衛の人とかがいるとか、金銭面でサポートしてくれるとかなのかなとかそういうことを考えた。すごく美しいという話だけど、僕には×××がいるからなぁ・・・。


「そんなに美人なんだね。楽しみだけど僕、恋人いるからなぁ。」

まわりがハッとした。ほんの数秒、いやコンマ数秒の時間沈黙が流れて、

「えぇー!!凪斗彼女いるのー!!?」とフレデリカが言った。

「残念だったなリカ。もう凪斗寝取るかしないといけなくなったな。」

「もーガーランド!どのみちマタギは元の世界に戻るんだから叶わぬ恋だっての!」


恋はしてるのかと否定しないことに内心照れてしまう。

フレデリカ・ヴィンセント。普通に綺麗だと思う。

と同時にひとつ疑問が浮かんだので聞いてみる。


「リカちゃんは今までのマタギの人を好きになったりしなかったの?」

フレデリカは話題のベクトルが自分に向いてギョっとする。

「え!?えぇーと・・・。」

少し困らせちゃったかなと思ったけど、それでもちょっと聞いてみたい。

「リカは面食いだしロマンチストだからな、マタギが帰るとき泣きっぱなしだったぞ?」

「あんときの顔写真にとればよかったよなぁ。オイラカメラのフィルム切らしてたんだよな!」


ガーランドが言うところから想像するに、感動的な別れというかエンディングがあったのかなと想像する。

僕意外のマタギがたくさんいて、その人達にそれぞれドラマがあったのかなと思うと、まるで自分の先祖が偉大な人ばかりのような気持ちになる。そんな人たちに顔向けできるかなとやっぱり少し自信がなくなるけど。

そんな人達にもきっと苦悩があって、それこそ彼らと別れるのはさぞ辛かったんじゃないかな。とか思いを馳せていた。


「だからガーランドおちょくらないでよ!凪斗も意地悪なんだから・・・。でもやっぱりあの人達と別れるのは辛かったけど、自分なりに踏ん切りつけたって感じかな。それでも何か月か引きずるんだからね?一緒に旅路を歩んだ仲間になるんだから。」

辛かっただろうけど、それが大切な何かを教えてくれるのかもしれない。出会いは突然で、まるでいきなり世界が明るくなったように感じるかもしれないけれど、分かれは突如心の準備も無しに起こることだってある。それを自分の中でどう整理して次の人生に繋げるか。

「本当に・・・辛かったよ?」

フレデリカが悲しげな顔をする。


「さぁ!ネネ姉さんが来るまで車で待とうか。」ガーランドがいきなり駄洒落を織り込んで言う。

「ガーランドつまんない。」

「何が?・・・あそーゆーことか!一瞬気づかなかったぞ。日本語ってのは面白いな」

気づいていなかったらしい。


ガーランドに言われた通りトレーラーの後部の車両に移る。

他の皆はまだ車両の外でわいわい話している。

座ろうかなと社内のシートに手を掛けると、後部のスペースで体育座りをしている少女がいた。

あまり生気のない眠そうな目でこちらを横目で見てくる。

ボロボロの布?のようなものを身にまとっていてみすぼらしく見えるが、その布は不思議と汚れているわけではなく、

ただ単に”破れているだけ”のように見えた。手にはまるで囚人だったかのように引きちぎられた鎖のついたパンクな印象の手枷のようなものがついていた。

一瞬ギョっとしたが、特に危害を加えるわけではなさそうなので話かけてみる。


「あのー、君・・・。」

「・・・。」

「迷い込んじゃったの?ご家族は?」

できるだけ刺激しないように話しかけたいが、どう話始めればいいのか迷いながら問いかける。

よく見ると耳が頭部のハチのあたりから生えているし、尻尾も生えている。

青い髪をしているようで反射したとき青みが暗闇と相まって”映えて”見えた。


「・・・。」

相変わらず黙っている。

「えーっと・・・。」

僕がどうしようもなくて眼鏡を持て余していると、獣の少女がボソっと口を開いた。

「関わらなくていいよ。」

え?と僕が反応する。少女はどこかあきれているような、あきらめているような、無関心といった具合で一向に心の距離を詰めようとはしなそうだ。


「私と関わってもいいことない。ケモノ臭いし。」

「でも、お母さんとか心配するよ?こんなところにいちゃあ・・・。」

「お母さんいないもの。この前死んじゃったから。今はガーランド達が一応の家族。」

よりにもよってこの場で一番踏んではいけない地雷を踏んでしまったと認識する。

そのまま言葉を失ってしまった。なんだかすぐに謝るのも軽率な気がする。

しかし同時に、この子がガーランド達と行動を共にしている商業旅団の一員だということにも気づいた。

つまりこの子は、僕がこの世界で彼らと出会い、このロッド王立魔法学校に来るまでの間ずっとここにいたのだ。

いくら僕が連結された前の車両に乗っていたとはいえ、ここまでの間に顔を合わせなかったのは奇妙だった。


そっか・・・。とだけ言葉を残し、外のフレデリカ達に再度話かける。

「ねぇ、リカちゃん。あのトレーラーにいる子なんだけど・・・。」

「あぁ、ネルちゃん?あ・・・紹介してなかったっけ・・・?」

少しフレデリカは申し訳なさそうにしている。

「おい嘘だろ?ここまでの間にまだ会ってなかったか・・・。すまなかったな凪斗。彼女は獣人のネルだ。少し前に家族を失ってしまってな。俺が引き取ったんだがまだ心の傷が癒えてなくてな。少しずつでいいから話かけてあげてくれ。俺たちもサポートするから。」


正直に言うと、その情報は先に欲しかった。

そうすれば、少なくとも踏まないでいい地雷を避けて、第一印象を下げずに済んだかもしれない。

何よりあのか弱い少女の傷を抉るようなことをせずに済んだかもしれないと思うと心が悔やまれる。


「ごめん、僕色々知らなくて。でも一緒に旅をするんだよね?仲良くしたいな・・・。」

「まぁもし噛みついたらオイラがしつけてやるから安心しろよ!アイツ俺にはなついてんだ。」

どうやらネルは旅団の皆にはさほど嫌悪感があるわけではないが、テツにだけは特に心を許しているらしい。


「お、着いたみたいだぞ。」ガーランドが手を目の上にかざしている。

向こうからググググという車の音と共に数台の車が並んできた。正門の前でとまっている。

全部で4台でうち三台は黒塗りの重々しい車だ。

車体の前方片方に国旗のようなものが立っている。

前から二代目の車両だけワインレッドの少し豪華な車で、いかにも要人が乗っているという形相だ。

あんなんじゃ狙い撃ちにされそうなものだけど・・・。


ガチャっと重たそうな音と共にドアが開いた。

ドアは上に開いてカモメのように羽根を広げている。

まさにガルウイングの高級車という印象。


それと同時に、トコ・・・トコとリズムよく降りてくる。

そこにはどこか緑がかった、それでも純白な髪をなびかせた美しい御姫様が立っていた。

ドレスは外行き用なのか白いワンピースが少し豪華になったくらいのもので、肩が出ている。

すごく清楚なイメージで、立ち振る舞いの一つ一つが洗練されているというか、お淑やかだ。


「綺麗だな。」

自然と口が開いていた。

「ね?綺麗でしょ?」

リカが自慢げに言う。けど、正直フレデリカも十分すぎるくらいには可愛いとは思う。


取り巻きのスーツを着た護衛が、お気をつけてと声を掛けると、姫様がこちらへ歩いてくる。

「こんにちは。フレデリカちゃん、皆さんお久しぶりです。」

見た目を裏切らない、真珠のような声だ。

「おう、久しぶりだな姉さん。道中襲われなかったか?何年かぶりのマタギ渡しだからな。」

ガーランドも顔がホッとした様子だ。

「えぇ、アナタ様に会えるんですもの。こんなところでへばってられませんわ。」

「やれやれ、困ったな・・・。」


ガーランドと特別な関係なのだろうか。

想い人同士のような会話にも聞こえるが、オークとエルフがこんな風に仲良くしているのは

ファンタジーの世界を目の当たりにしているとどこか不思議な気分だった。

実際現実ならこんな感じになるのかなとかそんなことを一瞬考えた。


「初めまして、マタギのお方。私は精霊の国の第一王女、ネネ・アルカンターラ。

エルフのお姫様です。」

面と向かって話されるとどこか呆然としてしまうというか、美しさに圧倒されそうになる。

「初めまして。榊凪斗です。お姫様なんですね!」

ここで、一つ疑問に思ってることを聞いてみる。

「あの、僕達と旅をするってことですよね。護衛から離れて・・・。王女様なのに大丈夫なんですか?」


護衛がお気をつけてと声を掛けるということは、予想と反してこの旅にエルフの国の護衛は付き従わないということだ。少なからず危険が伴うであろうこの旅へ、どうしてわざわざエルフの国の王女様が護衛も無しに同伴することになるのか理解できなかった。


「えぇ、大丈夫ですよ。国の護衛に守られるよりも、この人達に守ってもらうほうがよっぽど安全ですもの。それに、私の国は文化的には国と呼んでいますが、厳密には国としては認められてないというか、併合された国ですし、私一人がいなくなったところであまり損害は出ませんわ。」

「縁起が悪いこと言わんでくれよネネ姉さん。こちらとしてはヒーラー兼任の大魔法使いがいなくなられると相当な損害なんだよ。」

ガーランドはたまったもんじゃないと言わんばかりな口調だ。

「ネネ姉さんがいなくなっちゃったら皆悲しいんだからね?」

「こんな美人がいなくなっちまったら世界から光が失われちまうだろ!」

リカとテツもそれぞれの言い方でエルフの姫を諭す。


今の会話から察するに、このチームに絶対的な自信があるようだ。

本人は回復やら魔法やらを使っていく。

こんなお姫様に毎回治療されるなんて贅沢だ。

一方でいいのかな?なんて遠慮も感じている。


そして、どうやらこれで、ガーランド商業旅団はメンバーが揃ったらしい。

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