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イノチノマタギ  作者: 凪雨タクヤ
7/30

魔法レベル:100、MP:0

大きな塔が目立つ神殿のような、また一方で学校のような風立ち。

ここで技術やら魔法やらを学ぶんだろうか。

またはマタギにとって重要になる施設といったところか。


トレーラーを駐車場らしき場所に留める。

白線が引いてあり、他にも数台自動車やらトレーラーのような車が留まっている。

自動車とか車両の概念はあるみたいだけど、僕の居た世界とは少しデザインが異なっている。


色々目移りしてしまうものが多いが、まずはその景色と建物の美しさに目を取られる。

目を奪われる。なんて表現があるが僕はそんな恐ろしいことはされたくない。

兎にも角にも、その美しい景色の中に僕らは溶けていった。

青い空に似合う白い雲が空高くに伸びていた。


建物の正門らしきところに番兵がおり、ガーランドが何か身分証明のようなものを見せると入口を指さした。

話の途中で僕の方を見て、あのマタギですかと驚いている様子も見えた。

やはりこの世界では”よくある”こととはいえ珍しい存在であることには確からしい。


近くで見ると建物はレンガでできているようだった。

中に入ると受付があって、大理石?でできたフロア。

なんだか自分の居た世界のホテルや綺麗な図書館を思わせる風体だった。

入口すぐの天井は吹き抜けになっていてステンドグラスが色とりどりの光を入れていた。


そして、受付の壁の上には大きな絵。

世界に降り立った人が八つの玉を手にして光が満ち溢れている・・・。

という内容だった。


「これって・・・。」

僕が口を開くと後ろからフレデリカが駆け寄る。

「マタギの絵だよ!つまりまぁ・・・君の使命というか、こうなるよーって絵かな。」

「こうなるの・・・かな。だといいな。」

「なるよ!マタギはこの世界に光をもたらしてくれる救世主だよ?凪斗の世界には御伽噺とかヒーローの話とかない?」

無垢な顔で僕に問いかける。


「あるよ。でも、とても元の世界では僕には光をもたらすなんてことは無理だったから。親の願いというか、僕の名前にもそんな意味が込められていたんだけどね・・・。」

僕は遠い顔をして絵を見つめる。


「そうなんだ。でも大丈夫だよ!凪斗すごいいい人だもん!私のことも素敵だとか言っちゃうんだよ?一番素敵なマタギだよ、きっと!」

彼女の顔は明るく、そして悲しげにも見えた。


「なんだー?凪斗?自信ないのか?」

テツが言う。

「オイラだって昔はなーんもできないガキんちょだったけどさ!今じゃほら、機械イジイジしてればありがとうって言われる身だぜ?」

「いいなぁ。テツはいろんな人を助けてるんだね。」

「なぁーに自分が好きなことをしてたらたまたま役に立っただけだろ。でもそれが大事だと思うべ。」


テツは決して美少年で大きな会社を持っているような偉大な人間というわけじゃないのかもしれないけれど、その時僕は人の持つ美しさみたいなものの一片を感じることができた気がした。


ガーランドは受付で何かを話している。

どうやらそれで何かが決まったようで、こっちだと僕たちに声を掛けて手招きをしている。

受付の奥はまた別のホールで、広い階段がある。

その手前のエレベーターに乗って上階へ行くようだ。


というか、エレベーターがあるのかとも思った。

文明レベルで言えばやはりそこまで僕の居た世界とそこまで離れていないのかと改めて実感する。

エレベーターがほぼ無音で止まる感覚がある。

扉が開くと最上階で、通路に出て端の部屋に向かう。


中に入ると日の当たり方で少し暗い印象になっているような、本や魔法陣がたくさんある部屋。

かと言って陰湿ではなく、むしろ僕の居た世界の西洋のこじゃれた店のような雰囲気だ。

そこには、ローブを着た老いた魔法使いのような老婆、とそのアシスタント?のような少女というか女学生が居た。


「先生、彼がそのマタギの方です。」

アシスタントが老いた魔法使いに伝える。

「あぁマタギの凪斗さんだね。はじめまして。イーデアの世界へようこそ。滝の魔法学校教授のイリズミです。」


物腰やわらかい丁寧な印象だ。

イーデアの世界、と言っているな。この世界のことらしい。


「色々びっくりしちゃったかもしれないけど、この子たちは優秀だから。

冒険に出るっていうことになるのは聞いてると思うけどこの子たちが決死の思いで守ってくれるからね。」

安心してねと優しく伝えるように老いた魔法使いは言う。


「久しぶりですね!イリズミ先生。」フレデリカが挨拶をする。

「あぁリカちゃん。お母さまは元気かい?昔は随分手こずらせてくれたからねぇ。フッフッフ。」

少し意地悪く返しているが、まったく険悪な雰囲気はない。それだけ両者の仲はいいのだろう。


今のところ、この世界は暖かい。

過ごしやすい気候だという意味でも、人の温もりという意味でも。

なんだかもう久しく実家に帰ってきて近所のおばさんにでも挨拶しに来たような気分だった。


しかしこの場所に来た意味をもう少し知りたい。

「あの、まだよく知らされていないんですけど。ここでは僕は何をすればいいんですか?」

口を開きやすい雰囲気だったので聞いてみる。

「あぁ失敬失敬。そうだね。まずここは滝の魔法学校というところでね。主に魔術やら精霊やらの研究が主な施設です。ここで凪斗さんの魔法粒子の濃度や健康状態を調べさせてもらいます。」


つまり僕のステータスを確認するということか。

大抵ファンタジーの世界だとこんなところで特性のガチャみたいなのを回しそうなものだが、

実際のところどんな結果が出るのか緊張と胸の高鳴りが同時並行で発生している。

「つまりは魔法の健康診断みたいなことだな。」ガーランドが嚙み砕いて説明する。


それじゃあ早速だけどと老いた魔法使いが指すところに立たされる。

大き目の魔法陣の真ん中だ。イリズミ先生が何かを念じると魔法陣と僕の体が光り出す。

空中に星座のような紋章が浮かび上がり空間を漂ったり、僕の周りを太陽系の軌道のようにまわり始める。

呪文とか間違えたら呪いとか受けるのかなとか、何かの間違いで元の世界に戻ってしまうんじゃないかなとかそういったことが頭によぎるが、目に見えている魔法が結構美しくて半分見とれていた。


数秒か数十秒か経ったところで魔法が終了する。

するとイリズミ先生の表情が変わった。何かに驚いているような様子だ。

「先生、どうかされましたか?」

近くにいたアシスタントの女学生が尋ねる。

「これは・・・。ハヤセ君、あとで今回の結果をまとめるから、研究室に戻っておいて。」

ハヤセ君というのは女学生のことのようだ。

でもなんだか怖いな、検診したら何か異常があったような、でもその以上が何かわからない以上色々考えてしまうというか。


「なんだなんだ?何かマズイことでもあったんですか?」

テツが尋ねる。

「マズいというわけではないんだけどね。すごく特殊というか、不思議な結果が出たんだ。」

「不思議?」

これから説明させていただくよとイリズミ先生が言うと、手をかざしてスクロールのようなものに魔法?で文字を入れ込み始めた。その結果表のようなものを手渡される。日本語で記述してある。


「いいかい、凪斗さん。君の魔法レベルはまず、100レベル。つまり最大の状態と出たんだ。」

「えぇー!!すげぇぞ凪斗!一体どんな人生歩んできたんだ?」テツが驚愕する。

「イリズミ先生、どういうことなんだ。」ガーランドが続いて尋ねる。


まぁ待ちなさいとイリズミ先生は諫めるように言う。

「このマタギの方は確かに魔法レベルが最大なんだ。魔法学的に説明すると魔粒子の整合率が最大ということだね。だけどこの方の魔粒子の運動率、つまり魔法を出したり詠唱して干渉させる力はほぼ0といってもいい状態だったんだよ。凪斗さんにもわかりやすく説明すると、君の魔法レベルは100だけど、詠唱したり発現させるための力、つまりMPが限りなく0に近いということなんだ。まるで強大なオーラをまとっているのにそれが全く効果を発揮していないというイメージなんだ。」


スクロールにもわかりやすく説明書きがあり理解するのはさほど難しくなかった。

だけど実感はできなかった。この世界は魔法やら科学やらも入り混じった世界らしくて、その世界で僕は魔力を生み出すために宝玉を集めて、でも僕の魔法レベルは最大なんだけどMPが0で・・・。

はっきり言って、首をかしげてどんな反応をすればいいんだろう?と疑問を持つことしかできなかった。


「凪斗は・・・マタギとして役目を果たせるんですか・・・?」

フレデリカが不安そうに尋ねる。

「魔法粒子を増大させるのは宝玉だからねぇ・・・。問題ないとは思う・・・。だけどもっと重要なのは彼が自分の身を守ろうとしたとき、魔法が出せないということだよ。銃や身体能力に任せるしかない。健康状態はいいし筋力や持久力は平均成人男性程度はあるみたいだけどねぇ・・・。」

さきほどの暖かい雰囲気とは打って変わって、一気に不穏な空気になった。


「じゃあとにかくオイラ達が凪斗を全力で守ればいいってことだな!」

テツが明るく励ますように声を張り上げた。それに同調するようにフレデリカがそうだよねと賛同した。

「私達が凪斗を全力で守る!必要なトレーニングは最低限行う!それでいきましょう!」

ガーランドはチームのことをよく理解しているのか微笑んでいた。

イヤな雰囲気は一瞬で払拭されていた。


この先の冒険が不安だなとも思う反面、暖かい人がこの世界にはいるということもわかって、

「まぁいいか。」

そんな風に思った。


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