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イノチノマタギ  作者: 凪雨タクヤ
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足枷の天秤

僕は夢を見ている。

決して明るくない場所。

辛気臭いような部屋だ。

窓の外は白くて、壁を伝ってきたアイビーが少しだけ顔を覗かせている。


<よくあんな状況ですんなり事態を受け入れられるな。>

意地悪な魔女が話す。


<キミのような人間に・・・いや人間ではないのか。人と関わることを無意識に避けているキミはニンゲンですらない。とてもではないが人の間に立てるような存在ではない。>

意地悪な魔女が告げる。


「僕は人間だよ。少なくとも今はそうだと言えるよ。」

僕がそう答えると、意地悪な魔女は知らん顔をする。


<何を持って人間だとしているんだ?あのオークの言葉に惑わされたか?まだ多くは語り合っていないというのに。>

意地悪な魔女は、かつて夢の管理人と名乗ったこの魔女は、今や僕の真相意識で自分を責め立てるために存在しているような状態だ。かつて榊凪斗を利用し強大な存在を召喚することを企んだ狂気の夢の妖精はそこにはいなかった。


辛気臭い光が伸び縮みする歪んだその部屋に、引出しは存在していない。

ただそこに僕、榊凪斗の意識と夢の管理人だった愚かな魔女と、そして鎖と十字架で強固に固められ開くことを知らない扉が存在するだけだった。


<この道化師モドキが。中途半端な存在のまま、灰色にまみれて生きていくのか?せっかく綺麗な絵具だったのに・・・。全部の色が混ざってしまった結果がこの有様だ。灰色だ。黒でも白でもない。0か1かでもない。そんな量子みたいな重ね合わせのキミに価値を見出すことなんてできるのか?>


「虹色を混ぜ合わせたら灰色になるなんてよく知ってるじゃないか。それを覚えてくれているだけで美しいキヲクだと思うけどな。」

どこか希望的な意味合いを塗り交ぜて話す。


<フン。もうキミには興味がないんだよ。私はただ永久に永劫に無限に夢幻を司る存在として役目を果たすだけだ。>

意地悪な魔女は、そっけない態度を維持する。


「ありがとう。」

榊凪斗は振り返ってそう言った。


トレーラーの中で目を醒ました。

揺れる社内で横たわり夢を見ていたようだ。

身体を起こして丸眼鏡を付ける。


「メガネ、丸いのが似合うんだね。」

フレデリカはにっこりと笑っている。

顔の形のせいか似合うメガネがこれくらいしかない。サングラスを付けようとしてもどこか抜けたような印象になってしまうので、顔につけるのは本当にマスクかこのメガネくらいだった。


「うん、気に入ってるんだ。なかなか似合うのが無くて。」

「ねぇ、眼鏡って不思議じゃない?」

「何が?目の悪い人が良い人みたいに見えるようになるのが?」

「ううん?呼び名が。もちろん光を屈折させてるとは言え世界が綺麗に見えるようになるというのは不思議と言うか素敵な話だけど。」


世界が綺麗に見えるというのはあまり榊凪斗にはない発想だった。

どちらかと言うと彼は見たくないもののために眼鏡を付けていたからだ。

眼鏡を付けたら、肉眼でしか捉えられないこの世の不条理とかが見えなくなるような・・・後ろ向きな理由だった。


「呼び名?メガネの呼び名が?」

「そう。漢字で書くと『眼』に『鏡』って書くでしょ?」

そうか、漢字という概念はこの世界にあるのか。自分の世界の日本語とは意味合いが違うと言うもののカタカナだけで話すことになってはいささか不便だと感じるところだった。文字通り便りを書くのにも苦労するところだっただろう。

「ホントはレンズだとか光を屈折させるものなのに、鏡と書いたら光が反射してしまいそうなイメージじゃない?光が目に入ってくるから見えるのに、わざわざ反射させるような言葉を使うなんて。」


フレデリカは吸血鬼という種族だ。

この世界における吸血鬼がどんなイメージなのか知らないけど、何か知性めいたものを感じる一方、この子には無邪気さというか純粋無垢な印象を受ける。骸や邪とは縁がないような無垢さと無邪気さを感じた。


「コーユー言葉を作った人たちって何を持って言葉を作ったのか気になるわよね~。それこそ言の葉って、なんで葉っぱなのかな~とか。」

「リカちゃんは好奇心旺盛なんだね。素敵だな。」

フレデリカはえ?と少し驚いて、すぐに笑った。

「リカちゃんとか素敵とか・・・。褒めても何も出ないぞ?」


「君の笑顔が見れたじゃないか。」

それは自然と出た言葉。

自分の口から出たとは思えないような気障な言葉だったが、悪い気はしなかった。


「イチャイチャしてるところ悪いが、そろそろつきそうだぞ~。」

ガーランドが横やりを入れるように告げる。

ここで何をするのかと僕は聞く。

「魔性測定。まぁ凪斗のステータスとか健康状態とかを確認ってところかな。」

「ませいそくてい?ステータスっていっても魔力みたいなものなんてないと思うんだけどな。」


自分に特別な力があるなんて思ってもいない。だけど特別な背景、いや特別という言葉では少しニュアンスが変わるのだが、独特な背景があるとはいえる。

ガーランドは視線を逸らさずに話始める。

「いや、マタギには大きな力があるんだ。だからこそ選ばれた人だけがこの世界に召喚される。まぁ人格に難がある場合がやはり多いが、オマエは見たところ今までで一番できた人間だな。」

「僕なんかできた人間じゃないよ。」

「だいたいマタギに選ばれる人間は特殊な背景があったり、想いが強い人が選ばれるんだ。自分の世界ではどんな人間だったんだ?」


ガーランドは興味本位で聞く。

この旅団の人たちは皆優しいので、むしろこちらがこの世界やらこの人たちのことを知りたいのだが、先に質問されている。嫌な過去を話すのは堪えるから、良い思い出を答えることにする。

「割と普通の人間だよ。学生だったんだ。これから未来を選ぶところだった。」

「ほぉ職に就く前とかってことか。それはいいな!どんな職に就きたいんだ?」


そこまで話すと、途端にガーランドの顔が強張る気がした。

「ガーランド!自分達のことも話しなよ!凪斗くんの方がこの世界に来たばかりでわからないことだらけなんだよ?」

フレデリカが話に入る。

「それもそうだな。すまんが凪斗、あの見えてる塔がロッド王立魔法大学の神殿だ。ここでオマエのことを色々知りつつこの世界とか俺たちのこととか色々喋らせてもらうから、一旦ここでやるべきことをやってしまおう。」


窓の外を見ると、横に大き目の川と滝が流れており、その崖の中腹あたりまで伸びた塔と魔法学校と呼ばれていた建物が数件そびえている。滝つぼからはしぶきが上がっており、水は透き通っていて青みがかかっていた。


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