合流
榊凪斗は驚愕する。
この大きなトレーラーを運転していたのが、ファンタジー世界では知能も少なく闘争のことしか頭になさそうなオークで服装も革ジャンにジーパンとしっかりした服装、しかも話しているのが日本語だったのだ。
「ねぇねぇお兄さん!大丈夫!?」
突如透き通った光の色をした声が響いた。
トレーラーの後ろをぐるりと回って出てきたのは、吸血鬼だった。
その吸血鬼は”彼女”に似ていた。
髪は金髪でフリルのついた使用人の服を改変したようなスタイリッシュな黒い服装。
顔立ちこそ似ていたが、深紅の目は”彼女”と違い暖かいものに感じた。
凪斗はぽろりと涙を流した。
流したという表現は間違っていたのかもしれない。
彼女の顔を見たら、自然と零れ落ちてきたのだった。
「え!?え!?どうしたの!!???何かアタシひどいこと言った???」
吸血鬼は慌てふためいている。
「おいリカ、泣かすなよ。貴重なマタギのお方だぞ?」
「えぇ~アタシが悪いのかなぁ~・・・。」
彼女はどこか納得していない様子だ。
「すみません。人がいてくれて助かったなって思ったら安心しちゃって。」
凪斗はそれとなく涙の理由をはぐらかした。
「聖樹の森に丸腰で迷い込んだらねぇ~?それは怖いわよ。」
「お兄さん、名前はなんていうんだい?」
オークが迷い子に問いかけるように尋ねた。
「榊凪斗っていいます。榊が苗字で凪斗が名前。あのあなた方は?もしかして人間じゃあないんですかね?」
一応概念としてどんな存在かを聞いておく。
「俺は”ニンゲン”だよ。見ての通り聞いての通り喋れるからな。名前はガーランド。種族はオークだ。血液型はD型。好きな食べ物も言った方がいいか?ドーレ村ってとこの川魚の煮つけに目がないぞ。」
「ガーランド自己紹介長すぎ・・・。」
吸血鬼が毒を吐く。
吸血鬼が毒を吐くなんて、どんな凶悪属性なのかと耳を疑いたくなるが、
オークや吸血鬼がベラベラと日本語を目の前で喋られては、何を疑えばいいのかさえわからなくなると凪斗は思った。
「アタシはフレデリカ・ヴィンセント、」
そうか、この子もヴィンセントって言うのか。と凪斗は思った。
彼はどこか運命や魂の繋がりのようなものを感じていた。
「種族は吸血鬼。血液型言わなきゃダメ?AB型よ。リカって呼んでね?」
「じゃじゃ馬だがよろしくな。テツ!お前も降りてこい!」
リカがムっとする。ガーランドは砲塔のほうに声をかける。
するとニョキっと体を乗り出して、長めの髪で目元の隠れた、タンクトップに黒い煤だらけで工業系といった細身で小柄な男性が挨拶をする。
「ヨォ!ナギトって言ったか?オイラはテツだ。すげーだろこの2連装砲!オイラが作ったんだぜ?」
と言うと、すぐに砲塔内に戻っていった。
少しかすれた高めの声だ。
「まったく挨拶だけで自分はメカいじりか。まぁああいう奴だから勘弁してくれ。」
「よろしくお願いします。ちょっと道に迷っちゃって。すごいですねあの壺みたいな兵器。」
あぁそうだ。とガーランドというオークは何かを思い出したように話始める。
「唐突でびっくりしてしまうと思うんだがよく聞いてくれ。」
「はい、なんですか?」
「君は”マタギ”と呼ばれる存在で、我々の今いる世界とは違う世界から次元を飛び越えてきたんだ。」
「え・・・?」
凪斗は二度驚く。
しかし今回はスケールが大きすぎてイマイチ理解が追い付かない。
「えっと・・・。なんですか?マタギ?次元を飛び越えるって・・・。」
「まぁ無理もない。最初は皆混乱するんだ。とりあえず特別な存在と思ってくれればいい。」
このオークは、”皆”混乱すると言った。
つまりマタギと呼ばれる存在は凪斗以外にも存在しているということだ。
凪斗は、この者たちが妙に自分の存在を疑わなず自然に接してられるかを疑問に思っていたが、ここで納得した。
マタギと呼ばれる存在と何人かあったことがある。またはその現象が一度ではなく、世界的にも知られる現象だということだと理解した。
「君は私たちと旅をすることになるわ。ううん、しなくてはならない。」
可憐な吸血鬼の顔が凛々しくなった。
「アナタには、元の世界に戻る決意はある?それともコチラの世界で生きる意志が。」
僕には、確かめなくてはいけないことがある。
恋人が見せたあの不気味な笑顔の意味を。僕をこの世界へ向かわせた真意を。
そして願わくば、できることなら、その意図を理解してもう一度彼女と共に人生を歩みたい。
僕は決意を胸に抱いて答えた。
「うん、僕は元の世界に戻りたい。そして会わなくちゃいけない人がいるんだ。」
「そう・・・。それなら私たちと帰る方法を模索しましょう?このガーランド商業旅団と。」
そう話すフレデリカの顔はどこか物悲し気だ。