邂逅
目をゆっくりあけると、木々の隙間から太陽が瞬きながら覗いている。
背中には東京タワーを思わせるような巨大な木の幹が触れている。
空に手をかざす。
どうやら体は繋がってるみたいだ。
まただ。何故自分がまだ生きているのかわからない。
恋人に殺されたはずなのに。衛星軌道から墜ちてきたのに。
それでもまだ僕は生きていた。
どこまでずうずうしく息を吸えばいいのだろう。
そんな風に世界を見上げた。
すくっと立ち上がってあたりを見渡す。
とりあえず、天まで届きそうな巨大な樹。
あとは森ばかりだ。遠くに山が見える。
どうしたものか。
いきなりサバイバル生活を強いられそうな状況だ。
持ち物は・・・財布と・・・。
財布だけだった。
こんな非常事態になったときにここまで頼りない持ち物があるだろうか。
普通こーゆーときはマルチナイフだとかスマホだとか色々あるんじゃないのかな・・・。
どうやら恋人に突き落とされたときに手放した肩掛けのバッグごと落としてしまったみたいだ。
自分の姿はいつも通り、黒のコートに黄色がかった暖かいニット。黒のパンツ。
デートだっていうのに無骨な恰好だ。
いや、正確には”デートだった”なのか。
「・・・。」
彼女のことをふと考える。
どうしてあんなことをしたのだろう。
しかし、考えても仕方がない。
ここは果たしてどこなのか。
そもそも天国なのか現実なのかもわかってない。
少なくとも墜ちてきたときに少しの痛みは感じたってことは現実に近いんだろう。
逆に少しの痛みで済んでいるということは図らずも現実でないような気もするが・・・。
そういえば墜ちてくるときに街みたいなものが見えた気がする。
東に向かってみよう。
そもそも東という概念が当てはまるのかもわからないけど。
とりあえず太陽は一つで、しっかりこの星は自転もしているようだ。
ガサガサと茂みや枯れ葉を踏む音が響く。
しばらく歩いていると獣道のようだが妙に広い道に出る。
もしかしたら人がいるのかもしれない。
淡い希望を抱く。
道沿いに歩く。
あの巨大な樹が目印になるので迷わず済むので助かる。
助かると決まったわけではないのだが・・・。
ふと歩みを止めると、目の前に大きな壁。
その壁は上にいくにつれて幅が細くなっている。
で、よく見たら面が向こう側に向かっている。
つまり壺状になっているということだ。
「なんだ?これ?」
言葉を発すると、壺はギン!という音を立てて”起動”した!
すると壺の胴体の一部が足となり、四本足で動き出した。
ギリギリギリという金属のこすれる音とともにこちらを向く。
明らかに僕を敵視している。
敵対しているということだ。
どうやらこの世界で初めて”歓迎”されるようだ。
「うわぁあ!!」
僕は情けない声をあげながら逃げる。
ガガーン!という轟音をならしながら体をスライドさせながら追いかけてくる。
四足歩行の機械にしてはやけに速い。
後ろに殺気を感じて体をよじる。
パパン!!という発砲音が森に響く。
この壺型ロボ、砲塔がついてるのか!
チラと後ろを一瞥すると胴体の中央あたりから飛び出た銃身から煙が出ている。
本体は先進的(?)なのに銃身はAK-47の先のような見覚えのあるデザインだ。
と分析していても仕方ない!
「どうすればいいんだ!」
ふと大きめの樹の根でできた段差をぴょんと飛び越える。
すると遅れてガコン!という音がする。
振り返ると、段差と木の根にうまいことはまり込んだみたいだ。
しかし安心する間もなく、壺は足の先からチェーンソー状のブレードを出すと、木の根をギリギリと切断し始めた。
「クソ!!まだ安心できない!」
すぐさま走り出す。でもどこに向かえばいいんだ?
このまま永遠に走り続けるんじゃないか・・・。そんな気もしてくる。
さらに広めの道に出る。
突如道の脇から2対の砲身の戦車の砲台が載った大型のトレーラーがこれまたすごいスピードで滑り込んできた。
明らかに人が運転している!悪い人が乗っている可能性はあるが、もう迷っている暇はなかった。
助けてもらおう!
「おぉおーーい!!助けてくれ!!」
手を掲げて叫ぶ。
後ろから壺型ロボットが追い付いてくる音が聞こえる。
運転手は驚いた様子でハンドルを切り、車体を横に向けてドリフト状態に持ち込む。
「テツ!!やれ!!」
運転手が砲塔に向けて叫んだ。
「あいよ!!」
砲手が返事をするとギギー!という音で滑る車体に合わせて照準を合わせ、
ズドンズドン!と壺に弾丸をブチ込んだ。
プシューという蒸気が出るような音と共に、車体は僕、榊凪斗の前で止まった。
振り返ると、壺の胴体に砲弾二発分の大きな銃創が撃ち込まれて停止していた。
「まったく、聖樹の森に墜ちるとはな。大丈夫かい?お兄さん。」
運転手が車体から降りてきた。
やった!言葉が通じる。”日本語”だ!
話し方にも悪意がなさそうで一層安心する。
「えぇ、助かりました。まったくあの機械はなんなんで・・・・うわ!!」
僕は再び驚愕することになる。
運転手は、緑の肌に大きな牙。立派な髭に見上げるほどの巨体。
オークだった。