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イノチノマタギ  作者: 凪雨タクヤ
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フタツメ

ネルは土手の上から見下すように僕を見ている。

彼女の服と髪が風に揺れて軽くめくれ上がる。

ボロきれのようなその服はいつもよりも綺麗に見える。

僕は目をこすって土手をあがる。


ネルは無言でエメラルドに輝く宝玉を出して僕に突きつける。

「ネルちゃん、これ・・・。」

「龍神とやらが持ってたって。」

僕は宝玉を取ろうとすると、ガシっとすごい力で宝玉を掴んで取らせようとしない。

意外にこの宝玉が丈夫ということに少し驚く。

そういえば一個目の宝玉もまともに触っていない。

僕がぐっと力を込めて彼女の手から引き抜こうとしてもビクともしない。

僕はネルの顔を見る。

彼女はいつものジト目で、鋭く僕を見ている。


「アナタ、旅を続ける気ある?」

「僕はこの旅を続けるつもりだよ。」

僕は決意を持って答える。

「私が言っているのは、この先同じように仲間に危険が差し迫ったとき、助けられるのかって聞いてる。」

彼女はテツの死を無駄にしないかということも同時に問いている。

僕は一度深呼吸をして

「テツと約束したんだ。もし彼の身に何かがあっても、仲間のことを守るって。」

と言った。

「それは私を守るって約束でしょ。私以外の仲間も大切にして。」


あの夜のテツとの会話はどうやら聞こえていたらしい。

この子は、てっきりテツを見殺しにした僕を責めるのだと思っていた。

でも、ネルは僕が思ってる以上に大人だった。

「私もアナタを支える。これまでつらくあたってしまったのは・・・ごめんなさい。でも、私はテツ兄ちゃんの死を無駄にしたくない。テツ兄ちゃんの死をキッカケにして昨日よりも弱い自分になりたくない。」

僕はネルちゃん・・・と呟いた。

彼女を誤解していたのだ。非力で、テツの死を理解するのにも時間を要するかと思っていた。

だけど彼女は、テツの死を受け止めるだけでなく、それすら乗り越えて僕に手を差し伸べるほどに優しく、たくましかった。

広がった青空から、太陽が僕らを照らしていた。

雨はしばらく降っていないようだ。


ネルは握って離さなかった宝玉を僕の手に載せる。

「私はアナタの選択を尊重する。」

僕は右手で握りしめた宝玉を眺めて

「僕も、君の意志を肯定する。」

と言った。

また風が吹いて、僕らの服を揺らしていた。

土手の草木がサラサラと音を立てた。


僕はネルと手を繋いで街の道路を歩く。

彼女の手は小さく、非力な少女のように感じる。

「ねぇ。ネルちゃんは肉ガムっていうのが好きなの?しょっぱいガムってこと?」

「そのネル"ちゃん"ってのやめて。呼び捨てでいい。」

変わらずジト目で見上げられながら言われると何かを咎められるような気持ちになりそうだ。

だけど今までとは明らかに僕達の関係は近くなりつつあった。

「あぁ・・・じゃあネル。僕にできることあるかい?」

生き急ぐつもりはなかったが、僕を励ましてくれた手前恩返しがてらできることをしたかった。


「まぁなんていうの?テツ兄ちゃんになろうとしないで。それはそれで不快。そうでなくてアナタができることをしっかりして欲しい。肉ガムはまだあるからいい。」

まるで日本刀を何の躊躇もなく目標に振り下ろすみたいに直線的に物事を伝えようとするネルは、僕の目から見ると真実や正解だと思うことをためらいなく選択するようで尊いものに感じた。

「そっか。わかった。」

僕は暖かい気持ちで前を向いて歩く。


前方からフレデリカが現れた。

僕らを見つけると小走りで近寄る。

「あら、アナタたちなんだかいい感じじゃない!テツが見たら喜ぶでしょうに。」

「ネルちゃんが・・・あぁネルから寄り添ってくれたんだよ。まったく僕の方がまだまだ子どもだよ。」

僕はやれやれという様子で首を右手でさする。

「ネル、ナギトに宝玉届けてくれたんだね。ありがとう。」

ネルはうんと返事をして首を縦に振る。


僕は心の中で意を決して

「ねぇ、リカ。リカもありがとう。」

と言った。

僕はどうしてリカと呼び捨てにしたのか自分でもよくわからなかった。

フレデリカはにっこりと笑って「どういたしまして!」と言った。


しかし、すぐに少し暗い顔をしたかと思うと

「ねぇ、ナギト・・・テツのことなんだけど。」

と切り出した。

僕が何だいと尋ねた。

するとフレデリカから、妙なことを伝えられた。

テツの葬儀のことに関してだ。

葬儀は行われないということだった。


この世界では、マタギについていった仲間が途中で亡くなった場合、遺体は保管された状態になり、葬儀はマタギの到達点”マタギノイノチ”にすべての宝玉が揃った状態で行うものだということだった。

僕はこのときこの世界での文化なのかなと思い、そうなんだとか軽く流してしまった気がするが、遺体をわざわざ保管してマタギノイノチに輸送しておいて、旅が全て終わるまでずっと葬儀をしないなんていうのはいささか気がかりだった。

そもそもご家族の気持ちになってみたら納得できないように思えるが・・・。


事情はなんであれ、僕はまたマタギノイノチに向かう理由が増えたのだった。

これで宝玉は二つ目。

まだ二つ目だというのに物事が起こりすぎている・・・。

すでに何人の人が犠牲になり、それを目の前で目撃したのだろう。

テツ、ヘイズ神父、ゲトの里の人々、トリカエサマの村人達、カルロ村のゾンビやあの学生達・・・。

僕はどうして自分が正気を保っていられるのか不思議でならなかった。


「ナギト。次の街はね、旅の疲れを癒すために立ち寄ろうかと思ってるの。」

「癒す?温泉とかってこと?」

僕は心のどこかで温泉に入りたいなんて思ってたのかも。

「温泉!それもいいね!だけどナギト、私達もだけど一番疲れてるのは心だと思うの。」

おっしゃる通りだ。へとへとどころではない。

「だからね、次の"壁の街アライドル"でオペラと流星群見ようとガーランドと話してたの!」


壁の街アライドル・・・。

イメージでは壁に囲まれてるような街なように思えるが、オペラは分かるけど流星群をどうやってみるのだろう。

でも、そういえば僕がこのイーデアの世界に来た時も天体観察をしに行ったんだっけ。

僕はこの広大すぎる宇宙のことを考えると自分のことがとてもちっぽけに見えるから好きだった。


「いいね!行こう!ネルちゃ・・・ネルも一緒に観ようよ。」

ネルは首を縦に振る。


僕達は心を癒すためにアライドルに向けて舵をとった。

しかし振り返れば、ネルとの距離が縮まった時点で癒されていたのかもしれない。

きっとテツが繋いでくれたんだ。


僕は、壁の街アライドルで秘密を一つ打ち明けることになるのだった。

ちなみにこの中で一番薄情なのは凪斗くんです。

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