ゲトの里
ゲトの里についた凪斗はこの里で宝玉と帝国兵士のことを調べるために、テツと二人で乗り込むことになった。この地を治める龍神に謁見し、許諾を得るのだが・・・。
-ゲトの里-
龍神が住まうというゲト山のふもとにある里。両脇を岩山に挟まれており
鉄や石炭がよく取れる山で、アーストンなどの鉄鋼業が盛んな都市とは交流が深い。
龍神をすべての種族の始祖だとして信仰する始祖教が広まっており、タイミングがよければ龍神に謁見できることもある。
ゲト山の岩肌に生えるホウエンタケというキノコが絶品。
金髪で短髪の長と思われる男に連れられて里の中を歩く。
この里についてからだが、空はどんよりと曇っていて、明るさはあるが青空は顔を覗かせない。
「俺は実は本来の里長じゃないんです。」
過去を振り返って思いにふけっているような口調で里長は話始めた。
「本当は里の工場で鉱石を加工しているような、ずぼらな人間だったんですけどねぇ。」
先程のガーランド達に見せていた態度とは違って、旅人を案内するように淡々と喋る。
道中で通りがかった加工屋に「よぉザックさん」とか「里長、今日の石炭はどうだい」などと挨拶をされるが、手をさっとかざして返すだけだった。
テツはそこいらに溢れている、精製された鉱石や原石を手にとって眺めながらついてくる。
「ほら、そこが宿屋ですよ。もし日をまたいで調査されるようでしたらあそこをご利用ください。」
「ひとつ聞いてもいいですか?」
僕は聞く。
「どうして里長になったんですか?」
男は少し嫌そうな顔をした。
それを察したようで、テツが話題を変えようとした。
しかし金髪男は思い直したのか理由を話し始めた。
「半ば無理やりですよ。前の里長が急死したんです。龍神の怒りを買ってね。俺はあの人は好きじゃなかったし、好かれてなかったが龍神からの信頼はある程度あったからな。」
どこか遠くを見ている男の顔は曇っている。
「だけどあるときこの里に入った滅亡教団の刺客を間違って龍神の間に通しちまったんだ。それはもう龍神の怒りはすさまじくてな。そいつが生贄になるしかなかった。」
振り返りながら金髪の男は「しょうがなくですよ。なりゆきってやつです。」と続けた。
僕はふと、この人と僕の境遇は似ていると感じた。
そうせざるを得ないんだけど、そんな状況なんだけど、僕は自分のこの使命に何かを見出すしかない。
そうするしかないのだと・・・。
テツと僕は、里の中の水車やてこのような大きな機材、石炭を運ぶためのトロッコやそのレールを超えて里の奥へと進む。
里は大通りに沿って細長く形成されていくので迷うことはなさそうだ。
奥の方はゲト山と呼ばれるこの里の特徴ともいえる険しい岩山への登山ルートにそのまま繋がっている。
通路の脇には龍神を崇めるための祠や鳥居のような建造物が要所要所にある。
木材や作業のためのピッケルなど工具を抱えた上裸だったりタンクトップだったりの里の作業員が行き来する中、身体があたらないように気を付けて進む。
皆どこか浮かばないような顔だった。
「龍神はどんな恩恵をくれるんですか?」
僕がそう聞くと、テツが
「まーこの地を治めてるんだからよほどの恩恵があるんだろうな。」
と合わせた。
すると男は
「何もありませんよ。」
とどこか諦めたような感じで答えた。
「強いて言うなら、帝国や魔獣に襲われないってところですかね。」
「んでもそれっていい恩恵なんじゃあないのか?」
テツが聞き返した。
「まぁもともとこのゲト山ってとこに龍が住んでて、たまたまそこからたくさんの鉱石やら石炭が出た。そういった資源に彼らは興味がないから、俺たちが住み込みで働いて良い場所になんとか交渉している・・・ってな感じなんですよ。始祖教が広まったのはそんな龍神様を崇め奉るためなんだろうけど、俺は好きじゃない。」
少しゲト山を登ったところにある教会に案内された。
教会の門には龍を象った像が両脇に立っている。
ちょっと待っててくれと男が言うと、教会のドアをゴンゴンと強めに叩いた。
中から出てきた司教っぽい(どこかあのトリカエサマの司教を思わせるような・・・)白のローブを着た30代くらいの男性と何かを話してこちらに来た。
「とりあえず龍神様に会ってみると良いと思いますから、こっからはあの神父さんに案内を頼みました。」
金髪男が親指で後ろの神父を指さすと、神父は軽い会釈をした。
教会には龍の紋様があるので、先ほどの話の始祖教という宗教の神父なのだろう。
金髪の男はでは幸運をと本気で願ってるわけでもない不愛想な感じで言うと先程来た道を戻っていった。
「なんか色々つかれてそうな感じだったな。」とテツが言葉を漏らした。
神父が教会の入り口あたりの段差を下りてくるので、僕達もそちらに向かう。
こんにちはと挨拶をすると、「こんにちはマタギの方。」と落ち着いた低い声で挨拶を返す。
曇り空はいっこうによくなるわけではなく、不変だった。
僕は懐中時計を取り出す。
時間は5:42を指しているが、長針がゆっくりと12の方向に動いている。
「素敵な時計ですね。」
神父がまた低い声で言う。
お気に入りなんですと僕が言うと、テツは幸運の時計だもんなと合わせる。
「私は始祖教の神父をしているヘイズという者です。どうぞよろしく。普段龍神と交渉をしたり連絡は私を介して行っています。宝玉と帝国諜報員の情報をお探しとか。」
僕はハイと答える。
「龍神は力も魔力も膨大ですから、宝玉に頼るということはないと思いますが・・・。確かにこの地に帝国の者が潜んでいるとしたら危険ですからね。龍神に予め話しておかないと怒りを招きかねない。」
そこまで慎重にならないといけない相手なのかと心配になる。
もし無礼の一つでもあればすぐに首が飛びかねない、と考えて置いたほうがいいかもしれない。
「何安心しろよ凪斗!もしやばくなったらオイラが喰われればいんだからさ!」
「もしそうなったら、僕は一生ネルちゃんと仲良くできなくなるよ。」
テツは笑ってそうにちがいねぇと言う。
そんな冗談を言えるテツはやっぱり強いなと思う。
神父に連れられて龍神の間へとちょっとした登山を開始する。
目的地はここから階段と登山ルートを少しいったところにあるらしい。
地面は岩と砂利で、ところどころに草が生えているくらいだ。たまにトカゲが虫をくわえながら横切る。
神父から道中いろいろと注意点を言われたが、要約すると基本的には礼儀をしっかりすればいいということだった。
ただ、龍の眼という特質がどうやらあるようで、その者の魂の色というかオーラを感じ取れるらしい。
感情や思考までは読み取れないみたいだけど、多分あの魔女のこととか僕の過去のことについて何か聞いてくることはありそうだ。
また、この里の大まかな歴史も簡単にだが聞くことができた。
大昔この地に住んでいた龍を退治しにきた戦士ゲトという人がこの地の名のもとになっていて、龍と和解して今に至るというのが大筋らしい。でゲトの里の何人かはその戦士の血も引いていて、龍も16代目くらいになるのだと言う。
龍神の間までは意外に険しすぎるということはなく、ハイキングくらいの感覚でいける距離だった。
岩山の合間に作られた広めのスペースで、岩の牙とも呼べる4つの構造物が空の中央に向かって伸びていて、そこにかけられた始祖教の旗がなびいていた。
風がどことなく冷たかった。
スペースの奥側には6帖の部屋よりも大きいくらいの龍が体を休めている。
翼を折りたたんでリラックスしているようだ。少し赤みのかかったくすんだ色をしている翼竜だ。
角が四本生えていて、御伽噺とかでよく見る風体をしていた。僕はホンモノの龍だと感動して見入る。
神父が深くお辞儀をする。
それに合わせて僕とテツも頭を下げる。
「ヴァーラ様、この者たちはマタギとその付き添いのものです。」
テツが小声で、オイラはオマケってことだなと笑った。
龍神にこの内緒話を指摘されないかちょっと怖かった。
ヴァーラと呼ばれた龍神は首をあげて僕達を見下ろす。
そしてこれまた低く通る声で
「お主がマタギか。」
と言った。僕はそうですとだけ答える。
「この里は疲れ切っている。苦労をされたのではないか。」
思ったよりも丁寧だった。もっと頭ごなしにこれまでの行いとかを精査されるものだと身構えていたのが無駄になった感じだ。
「いえ、皆さん良くしてくれましたから。」
「そう簡単に人を信用するでない。人の心は移ろうモノ。それは龍とて同じことだ。」
龍神はまた顔を地面に落として目をつぶる。
・・・。
神父が今回の訪問のことについて説明をする。
「ヴァーラ様。此度謁見に及びましたのは、この里において不埒な輩が目撃されたことと、もう一つはマタギの探す宝玉のことです。」
そう説明すると龍神は目を閉じたまま応えた。
「宝玉については我は何も知らん。」
僕は龍神と聞くからには千里眼だとかそういった全知の存在なのかと勝手に想像していたが、そうでもないらしい。
神父は少し困った感じで自らの衣服を触る。しかしすぐに龍神が顔をあげて続けた。
「不埒なる輩というのはそのマタギのことであろう。」
場の空気が一気に変わる。殺気というよりは絶望の空気。僕の存在自体を蔑視して問い詰めるかのような張り詰めた空気が場を支配した。
龍神は体を起こして、ズドンと前足を踏む。
神父は恐る恐る
「憚りながら、不埒なるものはこのものではありません。」
と伝える。
「そうか?我が龍の眼はそうではないと言わんとしているぞ。」
龍神は鋭い目つきで僕を見る。
「お主、神父から龍の眼のことは聞かなかったのか。そのどす黒いものはなんだ?我の前で隠し通せると思ったのか。」
神父が申しましたと言おうとすると龍神はそれを遮り、ヘイズ、我はマタギに聞いておるのだと凄む。
僕はつばを飲み込んで深呼吸をする。
「マタギよ。お主の魂に憑りついたその闇はなんだ。」
「これは・・・。」
テツと神父が緊張の眼差しで見る。
僕は意を決して告げた。
「─腐れ縁です。」
腐れ縁だと?と龍神が聞き返す。
「はい、なんていうか昔あったことの遺恨がそのまま残ってるっていうか、僕は自分のこんなところも愛していきたいんです。」
そう告げると、龍神が大きな口をあけてグッハッハ!と笑った。
「面白い。呪いとも呼べるその膨大な闇そのものを腐れ縁か!!フッハッハッハ!気に入ったぞマタギよ。我はお主のいばらの道を陰ながらに支えようぞ。」
どうやら難局は乗り越えたみたいだ。
神父が目を手で押さえてから気持ちを切り替えて本題に移った。
「ほう、帝国の者が。しかし我の魔術結界に囲まれている限りこの里に容易に手出しはできん。」
魔術結界という割にはこの里に入るときとかには何も感じなかったが、属性とか相性みたいなものもあるのだろうか。
最も僕は魔法レベルが100だけど魔法が全く使えない落ちこぼれなんだから、感知することなんてできないのかもしれないが。
どうやら他には気になったこととかはなく、神父も左様ですかと返すのみだった。
ふと龍神が「マタギよ、お主の名はなんという。」と僕の名前を尋ねてきた。
すると神父が驚いた表情をする。後から聞いてみてわかったのだが、龍神ヴァーラがマタギに興味を持ったのは初めてだったという。
「榊凪斗と言います。」
「サカキナギト・・・苗字のサカキはあの榊か。良い名だ。これからもその闇と共に歩むのか?」
僕はハイと答える。
「そうか・・・お主に二つ忠告することがある。」
龍神からの忠告・・・もし軽率に考えたとしたらバチが当たるどころかイノチを失いそうなことに繋がりそうだ。
「ひとつは最初にも申した、人を安易に信ずるなということだ。軽々に自らの命を他人に預けることはするな。」
もしかして、ガーランド商業旅団のことをわかって言っているのだろうか。そうでなくても、この世界には脅威がたくさんありすぎるという意味なのかもしれない。
しかし二つ目はもっと具体的な脅威の事だった。
「二つ目は、我が娘"モルドレッド"には気をつけろ。」
「娘?家族の、実の娘の龍神ってことなんか?」とテツが疑問を問いかける
「そうだ、小さいの。我が娘は龍神のプライドと人種差別を絵に描いたような奴だ。もしオークやら滅亡教団を目にしようものなら里ごと焼き払いかねん。そのマタギの闇を龍の眼で見て、少しでも否定的な感情を持ってしまえば最後だ。」
テツは小声でそりゃオイラ身長はねーけどさぁと声を漏らす。
「あやつは人の姿を模して日々を送っているにも関わらず人に対する情など一切持ち合わせていない。我が息子ガウェインであらば多少の器量も持ち合わせていようが、もし娘をみかけることがあればよいか、殺される前に逃げろ。わかったな。」
僕達はまた深々とお辞儀をしてその場を後にする。
神父はそこに残って里のことやらを報告するようだ。
僕とテツだけで下山することになった。神父が別れる前に、翌日山の裏手にある白い花の咲く墓地に向かってみると良いと伝えられた。どうやらそこは帝国の諜報員を複数みかけた場所らしい。
テツと先ほどの謁見のことを話したり、冗談を言い合いながら下山し宿屋につく。
僕の魂の闇についてももちろん聞かれたが、僕の感情の卑しい部分だなどとそれとなくはぐらかしておいた。
やはりヒト族であれば何も問題ないのか快くもてなしてくれる。
部屋につくとトレーラーで待つフレデリカ達と無線で交信する。
「そう。じゃあなんとかこの地を治めてる龍神からお墨付きはいただけたのね。」
ザッというトランシーバーの音が鳴る。
「うん。明日宝玉と帝国兵士を見かけたっていう墓地を回ってみるよ。」
プッシュトゥトークのボタンを離す。
「気を付けてね。ナギトにもしものことがあっても、アタシたちが駆けつけるには時間がかかるから・・・。」
フレデリカの心配そうな顔が想像できた。
その日はゲトの宿屋で眠りにつき、明日の墓地調査に向けて体力を養う。
目をつむったとき、今日の龍神の言葉をふと思い出した。
「我が娘、モルドレッドには気をつけろ。」
僕は今後に起こりうる最悪のケースを考えていた。
だが自分で自分の首を絞めるようで苦しくなったので考えるのをやめて眠りについた。
絶対モルドレッドとガウェインどっかで出てくるやないかい!と思ったそこのアナタ。はい。出てきますよ?




