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イノチノマタギ  作者: 凪雨タクヤ
24/31

過去とつなぐ想い

夜道の中、トレーラーのタイヤが路面の状態を伝え、エンジンの音が車体越しに伝わってくる。

「ねぇ、リカちゃん。この世界って結構技術も文明も進歩してると思うんだけど・・・。」

僕の左隣に座ったフレデリカはネネ姉さんが淹れた紅茶をこぼさないように気をつけて啜りながらこちらを見る。

ボトルホルダーに紅茶のカップをはめこんで、うんと返事をする。

「写真って存在しないの?」

「ん?いやあるよ?」


僕が聞きたかったのは、写真という概念があるかということではなかった。

「あーいや・・・なんていうか、ガーランド商業旅団にはないのかなって。」

そう。前のマタギと僕みたいに旅をしたとして、記録に残さないということはあるのだろうかとふと思ったのだ。

フレデリカは少し上を向いて考えてから

「うん・・・写真とかには残さないかな。」

とだけ答えた。


ネルとテツがお互いが覆いかぶさりながらソファで寝ている。

ガーランドはあくび一つせず黙々と運転していた。

そして少しの沈黙が流れたあと、再びフレデリカが口を開いた。

「ナギトはさ、昔付き合ってた女の子のこととか忘れられないタイプ?」

「え?」


いきなり恋バナの展開になった。

まぁそれもわかる。

今までフレデリカ達が支えて来たマタギのことは言ってしまえば元カレみたいなものなのだ。

ということは自動的に僕もそんな立場になるんだろう。

いつの日にかは・・・。


「アタシ達ってさ・・・こう、なんていうかな。」

彼女は悲しそうな顔を一瞬した。

同時に白くて冷たい月の光が車窓から流れ込んできて、彼女の顔を美しく照らした。

「冷たいのよね。」

「・・・。」

「やっぱり軍人だったからかな。罪人とか魔獣だったら、ニンゲンだろうがブッ殺してきたワケじゃない?」

愛想笑いのような笑顔を浮かべて、自分達をけなすような言い方だった。

月の光が雲に隠れて、僕達を照らすのをやめる。

「そんなアタシ達がそんなさ、幸せにピースしながら映ってる写真なんか車に張ったりするなんて、図々しいって思わない?」


良く見えなかったけど、フレデリカはいい顔はしていなかっただろう。

僕はふと懐中時計を取り出す。

おおよそ2:45を指していた。

懐中時計を懐に入れて、僕は喋り出す。


「もしさ。」

フレデリカがこちらを向く。

「もし、僕が過去に大きな過ちや罪を犯してて、それでも誰かのために幸せに生きようとしないといけないとしたら・・・。それって滑稽かな?」

フレデリカは慎重な感じで、何かあったの?と聞いた。

「大したことじゃないんだけどさ、僕のこのイノチって言ってしまうと伝わりづらいんだけど、誰かに託されたようなものなんだよね。」

月の光がまたフレデリカの顔を照らす。彼女の吸血鬼特有の深紅の瞳が光を反射して、赤い宝石のように輝いていた。

「そりゃあこの体の両親やそのご先祖様から託されたイノチのバトンっていえばそうなんだけどさ。僕の場合だとちょっと違うっていうか。」

「もしかして・・・ナギトってみなしごだったりする?」

フレデリカが恐る恐る聞く。

「いや!そんなことはないよ!友人や家族には恵まれてるんだ。」

僕は暖かい気持ちで言う。


「恋人さんも?」

フレデリカから少し意地悪なフリが飛んできた。

ここでそうだといってしまったら場違いな感じになるじゃないか。

だけど僕は、彼女や彼のことを思って「そうだよ。」と言った。

フレデリカは気落ちせずに、「そっか!」と言った。


トレーラーが止まる。

どうやら休憩のようだ。体を少し動かしに外に出る。

夜空の中を月に照らされた青白い雲が泳いでいる。

尾根のようなところで停車していて、向こうの景色までよく見える。

一層際立つ険しい山があって、どうやらそこが目的地のようだ。

「凪斗、夜明けには目的地近くにつくから少し寝とけよ。」

そういうガーランドは伸びをしながら大きなあくびをして眠たそうだ。

下あごから立派に伸びた牙がより一層大きく見える。


すると、テツが起きてきたのか

「ふぇーい」という声と共に足音が鳴る。

「テツ。ネルちゃんはいいの?」

「あぁ。アイツは育ちざかりだからな!いっぱい寝たほうがいいべ」

そっかと僕は返す。


「ねぇテツ。いろいろ聞いていいかな。」

「おう!なんでも言ってみ!」

僕はこのおおらかなテツが何故か好感が高い。人が生きるために必要な、しかもプラスな感情を全て兼ね備えてるみたいで。

だからこそ、彼に聞いて起きたいことがあった。


「テツは、どうしてこの旅に参加したの?」

思えばこの集団は戦闘のプロであって、遺体や惨い光景もすでに何回もあった。

これまでのマタギを送る旅だって簡単なものじゃなかっただろう。

それを想像すると、ここまで優しいヒトが、どうしてこの旅に参加しているのか知りたくなったのだ。

「オイラもともとアーストンって街で機械いじりするしか能のないガキんちょでさ!なんやかんやあってガーランドと出会って、この腕を見込まれて今に至るってトコよ!まぁなんてーか、なりゆきってやつかね?それまではおっかぁやおっとぉに、オマエは街の工場で慎ましく働いてればええとか言われてたんだが・・・。」

テツはこの美しい景色を見ながら、それでも自らの過去を遠く眺めているようだった。

「今のオイラの状況なんて想像つかなかったなぁ。」

彼は今まであったことをひっくるめても、満足な人生を歩んでいるという印象だった。


「で、ナギトはどうなんだ?」

「どうって?」

「この旅。ってもまーつらいよな。まだ宝玉一個なのにいろいろありすぎたしな。」

確かに色々あった。まだ思い返すような段階じゃないというのに、人生何週分の感情の揺れ動きがあったのだろう。

この星に落っこちてきて、滝の魔法学校やカルロ村、苦しみもなんでもトリカエテくれる邪神にメイド型戦闘ロボ・・・。

「なんでもアリって感じだったからなぁ。」と僕は台詞を漏らす。

「でも、ガーランド商業旅団に拾われて本当によかったよ。皆優しくしてくれるから。ネルちゃんと仲良くなるにはまだ時間かかりそうだけどね。」

「アイツは心の壁が世界樹よりもデカいからな!」

はっはっはと声高にテツは笑う。


「オイラさ、妹がいるんだ。ユメっていうんだけど。」

テツ、長男だったのか。

ネルちゃんの扱いがうまいのにもどこか納得感があった。

「ウィースコンって街で魔獣騒ぎがあったときに行方不明になっちまってさ。」

「・・・!」

「オイラは生きてるって信じてるけど、まぁ確率的に難しいってのも理解してんだ。この旅で消息でもつかめたらいいなって思ってんだ。」

ここで励ましの言葉を贈ることもできた。

だけど僕は、おこがましくてもテツの想いを尊重して何も言わないことにした。

するとテツがなぁ!と肩を叩いてきた。


「もしオイラが途中で頓挫することがあったらよ、ネルを頼むわ!」

「ネルちゃんを?僕が一番嫌われてるのに。というかそんな縁起でもないことを・・・。」

「いーや!オイラにはわかんだ。凪斗にとってもアイツは信頼たる存在になるし、アイツにとっても凪斗はどのメンバーよりも大切な存在になるってさ!」

今の状態だとそんな未来が来るのか検討も付かないが・・・。

それでも満面の笑みで僕に託してくれるように話すテツを見ると、そんなこともあるかもしれないなんて思う。

フッと気が晴れたような顔を、きっと僕がしたのだろう。

頼んだぜ!とまた僕の肩を持って、テツはトレーラーに戻っていった。

僕はもう少しだけ夜空と月を眺めてから、車内に戻って寝ることにした。


<オマエは幸せものだな。こんな仲間に囲まれて。>

うん。僕は幸せものだよ。あんな仲間に囲まれて。

<私では不満足か?これでもオマエの女なんだがな。>

ふっと現れた魔女は僕をそっと抱きかかえた。

僕は胸に顔をうずめて寝ることにした。

僕はさ、皆に囲まれて幸せなんだ。キミでさえも。

<ハッ。だからオマエは甘いんだ。過去を見れば私を受け入れるなど、並みのニンゲンなら愚の骨頂だ。>

それでもありがとう。僕の傍にいてくれて。

<勝手に言ってろ。>


僕が目を覚ますと、すでにトレーラーはあの一段と険しい山のふもとまでついていた。

車窓から教会のような少し暗い赤色の建物の壁が見える。

外では何やらガーランド達が里の人たちと会話をしているようだ。

僕はコートを着ずに商業旅団から買った(お金なんて持ってないから譲ってもらったんだ)黒いシャツで外に出る。


「あんたのために言っているんだよ我々は。」

何人かの里の人が少し険悪な感じでガーランドとフレデリカに向かい合っている。

僕が、どうかしたの?と聞くと、里の人から口を開いた。

「おぉ。あんたがマタギの方だね。この方々に言ってあげてくれ。オークや亜人種は龍神に歓迎されないんだよ。」

「それでも我々の大切な役目なんです。」

ガーランドが言うが、里の人は収集がつかなくて困っているような状態だ。

僕は勇気を振り絞って話す。

「僕からもお願いします。この里に現れたという帝国の実態を調べて、宝玉も探さなくちゃいけないんです。」

するとさっきの険悪な感じとかは感じない印象で、まるで自分の子どもを諭すような口調で里の人は

「マタギの方、我々も理解しているんです、アナタの役割は。でも・・・うーんこの人たちを入れると龍神の怒りを買ってしまう。」

と言い、他の里の人が続いて

「そうなってしまったらアナタ方の目的はおろか、我々の命も危ういんだよ。」

と語った。


それぞれ里の人が、どうしたものかとか歓迎したいのは山々なんだが・・・と口々にしている。

フレデリカも目線を僕に合わせたりしているがどうしようもないと言った感じだ。

この世界でも、こんな差別みたいなことが起きているのかとしみじみと身に染みている。

しかもそれが、里の人の意志でなくて、里の歴史や龍神の意志を強く反映しているというところにやるせなさを感じる。


すると里の人の群れの後ろから一人のガタイのいい金髪の男が現れた。

力には自慢がありそうだが、その筋肉は決して大きな存在や戦うためにあるという印象はない。

他の里の人と外見や身に着けているものは変わらず、兵士という感じではなかった。

村人の中の長のような存在なのだろうか。周囲はその人を優先して前に通す。

しかし護衛などは連れていない。

僕の方を一瞥して、一度コクンと軽くうなずくと

「アンタらを入れることはできない。これは龍神ではなく我々の決断だ。」

フレデリカが残念そうな顔をする。そこで金髪の男は続ける。

「だけど協力はできる。亜人種でなければ里の中にも入っていろいろ物色してくれていい。場合によっては俺が龍神に謁見することも進言してもいい。」


この返答は意外だった。もっと差別的な言葉を言われて門前払いということだってできたはずだ。

ここまでの口調からすると、亜人種を差別的に見ているのは上位の存在である龍神で、その加護を受けていて背景に歴史をちらつかせている里の脅威からガーランド達亜人種を守るような、

そんな風に感じるのだった。

「だけど亜人種は絶対にだめだ。お互いの安全のためなんだよ。そちらの一行の中にマタギの方を含めてヒト族は何人いるんだ。その方達だけここの通行を許そう。」


僕はそこで少し考えて、提案することにした。

「ガーランド。ここは僕とテツに任せてくれないか。」

「どういうことだ凪斗。」

「亜人種でなければこの里に入って良い。なら、僕とテツならこの里のことを調べられる。」

僕は亜人種に対する差別をどうにかしようと思ってない。だけどここまで僕をたくさん助けてくれたガーランド商業旅団に恩返しがしたい。

それに僕一人にだってできることはあるはずだ。

「だから、亜人種でない僕とテツが宝玉と帝国兵の情報を探す。危険だと思ったらすぐ戻るよ。約束する。」

ガーランドは少し考えてから、そうかと言い、

「それなら任せる。いいか、ヤバかったらすぐに逃げろよ。」

と続けた。


僕はテツを連れて、里の人に案内される形で里に入っていった。

僕はこの後、この選択を一生後悔することになるのだった。




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