取り囲む優位の末路
風の街「スーディ」についた凪斗は、役所で見かけたメイド型アンドロイド「ビーマム」に囲まれながらファミレスのような店に連れていかれる!しかし!ガーランド商業旅団の一行はそのアンドロイドを連れたニイジマという女を怪しみ始めたのだった!!!チュィーンドギャンドギャン!!!
懐中時計を取り出すと、これはまた妙なことになっていた。
長針はグルグルと動きを止めずに回り続けている。一方で短針は7のあたりを指して微動だにしない。
僕は眉をひそめるが、気にせず懐に時計を戻した。
「凪斗さん、こちらの世界はいかがですか?」
ニイジマが飲み物を渡しながら僕に問いかける。
「はい。いろいろ大変なこともあったんですが、世界のデザインが綺麗で素敵だなって思います。」
「ウフフ。面白いご意見ですね。”世界のデザインが綺麗”だなんて。」
僕は本心からそう思っている。
「えぇ。人も町も、なんというか生き生きとしているなって思います。」
「それは何よりです。」
僕の両隣にずらりと並ぶアンドロイドは片時も僕から目を離さないのがなんだか不気味だ。
もう少しだけ生き物っぽく振る舞ってくれると気が楽なんだけど。
僕に対して顔だけを向けて、まぶたひとつ動かさずに凝視してくる。
「このアンドロイドたちは、"ニンゲン"じゃあないんですよね?」
「当然、機械ですので生命はありませんよ?もっとも"そんな風に振る舞う"ことができたら、周りから見れば人間かもしれませんけどね。」
僕の中の空間が白く照らされていく。
人が言う人間ってなんなのかな。ニンゲンみたいに振る舞えればニンゲンなのかな。
イノチがあっても、なくっても。
血液の変わりにガソリンが流れていても。電気が走っていても・・・というか人間も神経系は電気信号だから、意外とヒトも機械と変わらないのかもしれない。
そんなことを考えてしまうとつい意識が遠くを見つめるような感覚になってしまうので、ひとまずここは考えるのをやめて、違う話題を振ることにした。
「ニイジマさんはどこからいらしたんですか?」
少しの沈黙が流れる。
僕は心の中で、え?と声を漏らすが、間を置いて
「まぁ・・・ちょっとここからは遠いところ。とだけお伝えしておきましょうか。」
ニイジマは顔色変えずに答える。
カウンターから男性のウエイターが来て、カフェオレを置く。
僕の分だけの飲み物が置かれる。
これだけ人の形をしたものがずらりと並んでいるのに、飲み物を注文したのは僕だけだったのだ。
「あのニイジマさんは何か飲まなくていいんですか?」
「いえ、必要ないんです。それよりもアナタのほうが味わって飲んだ方が良いですよ。」
「はい?」
「しっかりと味わって飲める最後の飲食物になると思いますから。」
ニイジマの笑顔とメイド型のアンドロイドの微動だにしない顔に影がかかっていくようだった。
不穏な空気が一気にその場を満たしていった。
他の客は首を垂れて、こちらと目を合わせようとしない。
そういえば、この店に入ってからこの奇妙なアンドロイドの一行に誰も見向きもせず、なんの興味もないかのようだった。
いくらこの珍妙な世界とはいえ、ここまで武装したメイド型のアンドロイドが集団で入ってくれば少しは慌てる人もいてもおかしくはなかったのだ。
僕は、あの・・・と声を掛けるが、ニイジマがハンズフリーの機器のようなものをポンと指で叩くと、何やら会話をし始めた。
「ハイ、予定通りです・・・仕上げにかかります。」などと口ずさんでいる。
通信が終わったのか、また先ほどの笑顔を思い出したかのように作り出した。
しかし先ほどの穏やかな印象は全くもって存在していなかった。
「榊凪斗さん。私はこの街を案内するためのスタッフではありません。」
「えぇ・・・なんとなくそうなのかなって。」
「この店のスタッフやお客も全員、我が社の諜報員や特殊部隊員で構成されています。」
僕は沈黙する。
後ろから僕に銃を構える者が二人感じられる。
「当然、このメイド型機体BMOMたちも、我が社の傑作の最新鋭戦闘アンドロイドで、アナタの捕縛用に随行させております。」
「マタギを・・・捕らえて研究してるとかですか。」
ニイジマはウフフと笑いを挟んでから
「まぁ、そんなところですね。」と言った。
さらにニイジマは続けて言う。
「凪斗さんは完全に詰みだということです。抵抗してもいいですよ?それなら華麗なダンスパーティとしましょう!」
そして一体のアンドロイドが「最後ニ何カ、ゴ所望デスカ?」と続けた。
リカちゃんになんて言って詫びればいいんだろうという気持ち。
そして、僕に未来を託した人を思った。人生というものはこんなに上手くいかないのか。
考えた末、何かが吹っ切れた気がした。
僕の魂がぐにゃりと歪み、一瞬時の流れが遅くなる。
あの意地悪な魔女が語り掛けてくる。
<よかったじゃあないか。これでオマエも檻から解放される。>
いや、彼らは捕らえると言っていたから・・・しばらくは殺されることはないんじゃないかな。
<オマエ、案外諦めが早いんだな。しぶとく生きているクセに。さっきこの女が言ってただろ。詰みなんだよオマエは。ゲームオーバーだ。おしまいだ。>
これで全部終わりにするのか。虚しい終わり方だな。でもこれでいいんだろうか。彼は今の僕を見てどう思うんだろう。笑うかな。泣いてくれるかな。
<バカだなオマエ。なんも反応しないに決まってるだろ。無表情だよ無表情。感傷に浸ってないでさっさと死ねよ。>
僕が死んだら・・・
「全部、丸く収まるのかな。」
僕はそうつぶやいた。
「ハイ?」とニイジマが首を傾げた。
-風の街スーディの街頭-
フレデリカが先頭を切って街中を駆ける。
「ネル!奴らの匂いはわからない?!」
フレデリカは明らかに焦りの表情を見せている。
ガーランドは、己の失態を自覚したのか、何かしら覚悟を決めたような様子だ。
彼は気づいたのだった。あのビーマムとかいうアンドロイドが身に着けていたロゴが、ドランド帝国の民間軍事会社「ガウスの鉄槌」のものであると。
「ダメ。奴ら追跡対策を入念に練ってるみたい。まるで手がかりがない・・・。」
旅団の一行に絶望が迸った。
「リカ・・・今回は俺の失態だ。だがまだこの街を出るにはまだ時間がかかるはずだ。それまでになんとか」
「ガーランド。奴らがプロならどんな手段で脱出するか大体想像がつく・・・。ナギトは多分・・・。」
「ナギトさんを諦めるんですか?!」
「そりゃないぞ!こんなところでオイラ達の旅が終わるなんて!」
突如、銃声が響き渡った。
大口径の弾丸を間を置いて何発か響く。続いてガトリングのような音や、別の銃声も合わせて鳴っているようだった。
旅団は現場に急いだ。
一行が足音を立てるのに合わせて、ズドンズドンという重たい銃弾の音が空を伝った。
時折爆発音のような音がする。
ネルは銃声が鳴り響く場所に近づくにつれ、火薬や何かが焼け焦げたような匂いが強くなっていくのを感じた。
旅団が現場につく。
あたりに人は比較的少ないようだ。頭を守りながら小走りで逃げていく。
野次馬がぞろぞろと出来ている可能性もあったが、その場合流れ弾で死亡する人が出てきそうだったので、
一行は安心しつつ様子を伺う。
ファミリーレストランのような建物が、ところどころガラスが割れたり、銃創がついていたり、一部が燃えていたりする。
すると、突然ガシャン!という音と共に片腕を失ったあの「ビーマム」アンドロイドが変わり果てた姿でガラスを突き破って道路に転がる。
ジジジ・・・という電気がショートする音とともにビーマムはすぐに沈黙した。
フレデリカのアイコンタクトでガーランドと同時に中に突入した。
フレデリカが天井を蹴って獣のような速さでポジションを取り銃を構えると、そこにはネットでぐるぐる巻きになった男が二人と
散乱したイスやらテーブルやらが殺伐とした空気を醸し出していた。
そしてあのビーマムのメイド型アンドロイドの死体がゴロゴロと転がっている。
ガタガタと震えて言葉を出せない人もいる。
ネルとネネ、テツが入るとネルが店の奥を指さす。
裏手口のドアが開きっぱなしになっていた。
一行が裏手を出ると、背の低い雑草が少し生えているくらいの空き地になっていて、奥の雑木林に続いていた。
-スーディの雑木林の先-
ニイジマは討ち入り後の志士のように髪を振り乱して、化粧を汗と涙でどろどろに溶かしながら走って逃げる。
途中で呼吸が乱れて咳き込むが、足を止めるわけにはいかないと必死で逃げ続ける。
左手で木の枝につかまり、右手でポンとハンズフリーの通信機をオンにする。
通話先は上司のような存在のようだ。
「少佐・・・!!!!ガハッゴホッ・・・。あれは・・・あんな存在は・・・!!」
ザザという音がする。
「あのマタギは・・・バケモノです!!!!ニンゲンじゃあない!!!」
さらに続けてザザという音がする。
「ハァ!??なんの変哲もないニンゲンですよ!!!魔法でも機械でもなければ魔獣でもない!!!ヒトなんですよ・・・ゴホッ!!」
さらにニイジマはよだれを垂らしながら続ける。
「あの機体はウチの特殊部隊500人の戦闘データをアップロードしてたんですよ!!??それなのに・・・あ、ありえない!!」
ザザザという少し荒い音が鳴る。
「ハァハァ・・・全機体は消失!回収を頼みます!!た、た、助けてください!!」
すぐに後ろから"僕"が現れる。
僕は左手に「ビーマムだった」機体の頭部を持って、銃を前に構える。
「あの・・・ニイジマさん。一応どこから来たかだけでも言ってくれれば・・・。」
僕はポイとメイド型アンドロイドの頭部を捨てる。
「ひぃいいいい!!ごめんなさい!!でも機密事項で・・・ど、ど、どうすれば・・・!!」
僕は銃を構えるのをやめて頭をかきながら
「あー・・・じゃあいいですよ。それどころじゃなさそうだし。帰ってください、撃たないので。」
と言った。
ニイジマはまた悲鳴をあげながら途中でバランスを崩して転びながら逃げ帰っていった。
雑木林の木々が葉を揺らして風になびきながら、少しの沈黙が訪れる。
するとすぐに後ろから複数人の足音が近づいてくる。
一人だけ体が大きいので足音も低く大きく、わかりやすい。
僕は振り返りながらリボルバーの弾薬を取り出して、ホルスターに銃をしまった。
「ナギト!!!無事だったの?!」
「ナギト!奴らは敵だったんじゃないのか?」
リカとガーランドが心配と驚きを混ぜたような表情で凄んでくる。
「うん!どうやらあのメイドさんたち、未完成のまま送り込まれてたみたい。僕でもなんとかなっちゃったよ。」
フレデリカはガーランドと一瞬目を合わせたが、それでもあの店内の状況を見る限り通常とは違うレベルでの戦闘が繰り広げられていたことは理解していた。
僕は少し歩みを進めて、ネルの前で少しかがんで笑顔を見せる。
「ネルちゃん。ありがとう。危険を察知してすぐに引き留めようとしてくれたよね。」
ネルは俯いて黙って振り返って「別に何もしてない。」と言った。
僕は、それでもありがとうと伝えた。
「まぁ何はともあれナギトが無事でよかったってことだな!」
何故だろう。いつもテツがその場を和ませてくれる気がする。
この光景もなんだかお決まりの流れみたいだ。
「でもナギト、今回はあの力は・・・出さなかったの?」
フレデリカが恐る恐る聞く。
「あの力ってのは、村で空を切り裂いてたあれか?・・・やっぱりそれもナギトだったんだな。」
ガーランドは何か納得した表情だ。
「正直あれは僕にもよくわかってないんだ。でも、今回は出さなくてもよかったみたいだね。」
「みたいだねって・・・。」
フレデリカが不服そうな顔をする。
そこから僕たちは、あのビーマムというアンドロイドや現場に残されたものを採取して、
マタギを狙った組織のことを調べてみようということになった。
走ってきた雑木林の道を戻る。
さきほど戦闘が起きていた煙を吐いている店が近づいてきた。
すると警察機関のようなものと野次馬がぞろぞろと店を眺めていた。
ぐるぐる巻きにされていた先ほどの男が拘束され、収容車に押し込められていた。
その中に白髭の目立つ、位の高そうな男がいた。
僕らはその男から、今回の事件に関わった者の正体と、次の宝玉のありかの情報をもらうことになるのだった。
コイツ!!!一体何者なんだ!!魔法使えないくせに!




