トリカエサマ
ガーランドが手を顎に当てて考えている。
(そのトリカエサマというのがこの村人たちにでっち上げられた傀儡の神だとして、ヤバいのは村人のほうか?どこか虚ろな目をしているのも妙だが、その神様や裏に何があるかを突き止めない限り手を出せなそうだ。)
「うーむ。そのトリカエサマに何か問題があるかと思ったが・・・この情報だけでは判断できないな。」
村長は語気を若干荒げて
「とんでもない!この村を救ってくださる方です!それならば直接お会いになってみるのが良いです」
と言った。憤慨しているというよりも、畏れ多いから気をつけろという様子だった。
「それは話が早い。早速会わせてもらおうか。」
とガーランドが言う。
しかし、ふと横を目にすると、ネネ姉さんの様子がおかしい。
手を額に当て、苦しそうな様子だ。
「姉さん大丈夫?」
フレデリカが肩に手をやる。
「ごめんなさい。急に気分が悪く・・・。私トレーラーに戻った方が良さそうかしら。」
この中でより神聖なエルフの王女が気分が悪くなっている時点で嫌な予感しかしていない。
ガーランドがトレーラーに連れていくので、僕とフレデリカで先にトリカエサマの神殿へ向かってくれということになった。
「トリカエサマの神殿なら、崖沿いの坂を上がって頂上にある建物です。くれぐれも不敬の無いようお気を付けください。」
村長がお辞儀をするのを後にして、ガーランドがネネ姉さんの手を引いてトレーラーに向かう。
僕とフレデリカは崖の頂上にあるという神殿に向かった。
「リカちゃん。この村、やっぱり僕好きじゃない・・・というかかなり嫌いな部類に入ると思う。」
あまり人気がなくなったところで正直な気持ちが漏れ出した。
「うん。アタシもだよ。あの村人たちの不気味な笑顔っていうか、考え方みたいなのがどうにも気色悪いね。言葉にしづらいけど。」
坂を上がっていくのでハァハァと息が漏れながら会話をする。
でもフレデリカは体力があるからか吸血鬼だからか全然息が上がらない。
「あるときね、全国の幸福度調査を実施したとき、この村の幸福度が異常に跳ね上がったの。そして同時に、この地域での失踪者が倍増・・・。どうにも裏がありそうでしょ?二度調査員を派遣したけど異常無しという結果になった。だけど三回目の調査員がこの村に向かったきり連絡が途絶えたの。だから今回近くを通りかかったアタシ達に王国から声がかかった。異常があるところに宝玉が存在している可能性が高いっていうのもあるけどね。」
フレデリカが一瞬僕の方を振り返って、ついてきているかを確認する。
僕が多少息が上がっているのを見て少し足を止める。
「まぁそのトリカエサマっていう神様自体が危険かどうかはこのあと判断できそうね。こういう場合は大抵人間のほうが危険だったりするんだけど。」
リカがそういった瞬間。前方から若い青年の声がした。
「いや、その神様も十分危険だぜ。」
ハっとして坂の上を見上げると、黒いコートに身を纏った青年がたっている。
髪型はショートヘアーよりも長いくらいだが、何か青くて”プルプル”している。
左腕に腕章をつけており、「06」の文字が刻まれている。
不機嫌なような口と目でこちらを見下ろしてくる様は、なんとも近寄りがたいものだったが、不思議とここの村人のような気持ち悪さは感じなかった。
「アナタは・・・ナイトオブレイヴンズ、レイヴン06のD-スライム!?」
ナイトオブレイヴンズ。また知らない単語が出てきたが、名前からして騎士団のエリートなのか。
リカちゃんは警戒しているが、敵国の兵士なのかもしれない。
「久しぶりだな、贖罪の吸血鬼。性懲りもなく男を連れてるのか。」
青年が一歩ずつ近づいてくる。
「リカちゃん、知り合いなの?銃を抜いたほうがいいのかい?」
「おいおいィ警戒されてんな。まぁ王国に指名手配されてるから仕方ねーか。」
フレデリカは焦っていた。
目の前に予想だにしない脅威が現れたのだ。
追放されているとはいえ、彼はこの王国屈指の特殊部隊「ナイトオブレイヴンズ」の隊員であったのだから。
「アナタが王国から指名手配されている以上放っておくわけにはいかないのよね・・・。」
しかし、護衛対象がいるとなれば話は別だった。
僕がここにいる限り、フレデリカが下手に動けないことは明白だった。
瞬間、レイヴン06の姿が消えた。
「まぁ、俺も一回やり合ってみたかったんだよな。」
彼は僕達の真後ろにいた。速すぎるッ!
瞬時に銃を抜こうとしたが、その前に僕は殴り飛ばされてしまう。
彼の腕は人のものとは思えないような曲がり方をして僕の胴体にヒットした。
まるで関節がないように、クリオネが獲物を捕らえるときの触手ようにグニャリと曲がったのだ。
崖下に転落しそうになるので、咄嗟に生えていた苗木くらいの木を掴んで耐える。
しかしみぞおち近くに当たったことで、手に力を入れて握力を強めようとすると内臓に響いてきて、ギリギリ落ちないようにするので精一杯だった。
フレデリカが隙をついて殴り返すが、拳が当たった部分は先ほどの腕のようにグニャリとへこむだけで、ダメージを成してない。
(クッ!やはり物理攻撃は効かないってわけね!)
フレデリカは彼がスライムだということは知っていたが、不意打ちをされて咄嗟に反撃するしかなかったうえ、有効な属性魔法攻撃を持ち合わせていなかった。
そのまま掴まれて壁に叩きつけられてしまう。
「昔のよしみで教えておいてやるんだがよ、このうえの神殿には行かねーほうがいいぜ。多分後悔するからよぉ。」
フレデリカを押さえつけながら言う。
「あと、俺を追うんならレイヴン02の凪雨さん以上の強さの奴にさせるんだな。アンタも強いのは知ってるが、俺ほどじゃない。」
そこまで台詞を吐くと、フレデリカの拘束を解き、物凄い速さで消えていった。
僕の手は限界だった。体に喰らったダメージのせいでプルプルと手が震えている。
苗木を離そうとした瞬間。彼女が僕の手を取った。
フレデリカがひょいと僕の身体を引き上げる。手は細くて綺麗なのにすごい力だ。
ゴホッゴホッ!っと咳が出て、また体に苦痛が走る。
当たり所が微妙だったのか呼吸が完全にできなくて苦しい。
少しすると回復してきたのかあたりを見渡す余裕が出来てきた。
「リカちゃん。アイツはなんだったの?」
「彼は追放された王立特殊部隊の隊員なの。まさかこんなところで出くわすとは思わなかったけど。」
「体がグニャグニャだったけど人間じゃないの?」
「えぇ、彼は人間の形をしているけど、正体はスライムよ。物理攻撃が全然きかないから、その特性を生かして戦闘のエリートになったってことね。」
あんなにグニャグニャなのに、殴られたときはすごい力だった。
自在に身体を操れるのだろう。
「ナイトオブなんとかとかいってたよね。」
「えぇ、王立特殊部隊ナイトオブレイヴンズ。この国の王様直轄の戦闘エリート部隊で、任務や作戦とかは極秘で管理されてるの。私やガーランドが居たのは正規軍だったんだけど、そこの階級の高い人でも詳細は知らされないみたいなの。」
僕の居た世界で言う特殊作戦群みたいなものか。
そんな部隊の人が追放されるということは軍規違反でもしたのだろうか。
「私だって戦闘力だけで階級があがったくらいなのに、完封だったわ・・・。情けない。」
そんな台詞を吐かれてしまったら、僕こそ情けなくて立つ瀬がない。
どれだけ信頼していて剛力をもっていたとしても女の子に守ってもらうなんて・・・。
そう思ったが、まずは感謝しておくことにする。
「でもリカちゃん、ありがとう。手をとってくれなかったら僕死んでたから!」
「そう?まぁ、今度はそうなる前に手を打つようにするわ。」
しかし、それだけでなく僕は気になることがあった。
”ショクザイの吸血鬼”
とフレデリカは言われていた。
食材っていうのは不格好すぎるので、おそらく贖罪の吸血鬼が正しいんだろうけど、
だとしたら何の罪を贖うっていうんだろう・・・。
気にはなったが、フレデリカのかなりデリケートなところに踏み込みそうだったので、改めることにした。
気をとりなおして、神殿へ向かう。
夕日がかなり傾いて来た。
オレンジ色に染まった太陽をバックに、神殿というには少し小さくて質素な建物が崖のてっぺんにそびえ立っていた。




