通り過ぎる脅威
銃をホルスターにしまい、落ちた薬莢を拾って紙袋に入れる。
慎重にいれないと固紙で手を切ってしまいそうだ。
今回撃ったのは30発。リボルバーに6発入るから、5リロード分だ。
皆は各々荷物を持ってトレーラーに詰め込む。
ホルスターは肩掛け式なので銃は外からは見えない。
まるで言葉みたいだと思った。
トレーラーに載って1時間ほど走っただろうか。
まだ日は高いが、大きな崖で陽光を遮られる。
トレーラーが道路脇に止まる。
村がある。
前に立ち寄った村に比べると、屋根が藁とかでできていて、
かなり古い形式だ。
しかし、明らかに雰囲気がどんよりとしている気がする。
「今回の停泊地はここだ。城からの依頼タスクもある。3日ほど滞在するかもしれないからそのつもりで頼む。」
ガーランドは神妙な面持ちだ。まるで誰か1人が犠牲になるのが確定しているような、そんな覚悟のようなものを感じる。
それほど危険な任務なのだろうか。
戦闘地帯から人命救助とか、難易度の高い要求をなされているのか・・・。
しかし危険ということは、ここにも宝玉が隠れている可能性があるということ。
おそらく僕達は、目の前に迫る危機に対応せざるを得ないだろう。
皆トレーラーから降りるが、武装している。
あの夜の森に赴いた時のような装備だ。
「リカちゃん、ここってそんなに危険なの?どんな場所なのかな。」
「うん。この村で旅人が失踪しているそうなの。でも大方原因は想像できる・・・。」
「想像できる?」
「えぇ、この村はとても危険で、それでいて”世界一幸せな村”よ。」
危険なのに、世界一幸せな村・・・。
まったく矛盾している概念が両立している。
聞いてすぐ、素直に気持ち悪い場所だと思った。
多分、僕が最も嫌いな場所の一つだろう。
トレーラーを下りると、太陽の光を避けるように点在している家々が再び目に入る。
しかし崖沿いで空気の入れ替わりがいいのか、カラっとしていて涼しい。
テツとネルを残して調査をする。
一向は一軒の家に向かう。
ガーランドが右手でノックをする。しかし左手は大斧にかかっている。
フレデリカが少し離れて銃に手をかけている。
ガコッという小さな音と共にゆっくり扉が空く。
一瞬皆に緊張が走る。
中からもの優しそうな老婆が出てきた。
あらあらなどと言いながら、思わぬ客人にうろたえていたが、すぐに落ち着きを取り戻す。
ガーランドが丁寧な言い回しで話を伺いたい旨を話すと、家の中に入れてくれた。
「それで?この村で失踪者が出てるという噂はご存じですかな?」
ガーランドが鋭いまなざしで、半ば睨みつけるようにしながら聞く。
しかし老婆は物怖じする様子はない。
「えぇ~そんな話が。大変だことですけどアタクシはご存じないですわね~。
こんな平和な村なのに。」
「先日も旅行者三人がこの村へ向かうといったきり帰ってきてないんです。見かけるとかしませんでしたか?」
リカも王国からの情報を照らし合わせるために尋ねる。
「いやぁ~アタクシのキヲクには全然・・・。トリカエサマの加護がありますからそんな怖いことなんてないと思いますけどねぇ~・・・。」
「トリカエサマ?」
「えぇ、アタクシ達村人の苦痛や悩みを全て”取り換え”てくれる、この村の主とも呼べる方です。」
この時点で、僕の嫌な予感は増しに増している。
話をする老婆は幸せそうな笑みを浮かべているが、どこか光がないというか
まるで考えを放棄しているかのようだった。
「この村はもともと水害や流行り病が酷くてねぇ。アタクシも最愛の夫と息子を亡くしました。
息子はまだ当時10才になるところだったんだけどねぇ・・・。痛い痛いって泣きながら亡くなったんです。アタクシはその日を境に死んだような日を送っていました。夫にいろいろ看病してもらってたんですけどねぇ。なんだかホラ今でも涙が流れてきそうで・・・ウッ・・・ウッウウウううう・・・。」
老婆はひとりでに語り始めたかと思うとボロボロと涙を流し始めた。
「すまんよ婆さん。ホラ泣かないでおくれ。」
ガーランドがそばに寄ろうとする。
「でもねェ!」
ガバっと老婆が体を反らせて天を仰ぐようにする。
「あるときトリカエサマがこの村に訪れました。それはそれは寛大なお方でねェ!アタクシのこんな悲しみや苦しみなんてまったくなくなっちまったんだよぉ。」
僕達はこの家を後にした。
トリカエサマというものの正体はわからなかったが、少なくとも僕はこれ以上聞きたくなかった。
村の中の道をいくと、ローブを着た数人に話しかけられた。
どうやらこの村の人のようで、うえから白くて模様の入ったローブを羽織ってるだけのようだ。
「そこのオークの方々。トリカエサマについて知りたいんだよね。村長の家でご説明しましょう。」
顔を見合わせて、とりあえず行こうということになる。
先程の家とさほど外観は変わらないが、ひと際大きな家に通される。
そこの応接間とも呼べそうな閑静な場所に皆で座ると、村長の取り巻きがお茶を出してくれた。
ガーランドが毒見をするように飲むと、フレデリカとネネ姉さんも続いてお茶を啜った。
僕は飲む気になれなかったので、口をつけて飲むふりをした。
暖炉のパチパチという音が部屋の中に響き渡る中、村長は挨拶をするとトリカエサマについて説明をし始めた。
「皆様はトリカエサマのご加護はご覧になられましたかな?といっても目に見える形で恩恵が得られるのは稀なのですが・・。」
「というと?」
「トリカエサマはその名の通り、我々の苦痛や悲しみを取り換えてくれる神なのです。私も幼少期から病に度々うなされて、右腕が動かなかったのですが、今ではホレ、この通り自由に動かせます。何と慈悲深いことか・・・!となりのソムギさんのお宅は目が見えなかったんだが、トリカエサマのお力でよく見えるようになったのです。視力も1.5を超えておりましてのぉ~もう60過ぎなのにピンピンしておるんですわ。」
この村の人々はその神様の恩恵を受けて平和に、幸せに暮らしている。
それはいいんだ。だけど僕はどうしても聞きたくて口を開く。
「あの、村長さん。そのトリカエサマは、苦痛を取り除いてくれるのはわかったんですが、”代償”は必要なんですか?そのレベルで恩恵を得られるのにタダっていうのはなんかムシが良すぎる気がしたんですけど。」
自分で口に出しておいて、なんだか揚げ足を取るような口ぶりになってしまった。
しかし村長はそんな感情もお構いなくニコっと笑い、
「いやいやお兄さん。トリカエサマは寛大なお方だからねェ。確かに我々も供物は捧げているけども、大事なのは心の中で感謝の気持ちを浮かべることなんだよ」
といった。
僕はその神様が気に入らないなと思った。




