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イノチノマタギ  作者: 凪雨タクヤ
16/31

不思議な時計屋「ルプネグルグ」②

「それはお安い御用だ。」

店主はにっこりと笑った。

時間を計る時計が欲しいわけだけど、不思議な時計の話が聞けるのは興味深い。


店主が棚を探っていると、またある時計を見つけたようだが、どうやら様子がおかしい。

あぁこれはなぁ。だめかなぁなどと口にしている。

どうしたんですか?と声を掛けると、店主はすごすごとしながら時計を出してきた。

砂時計だった。店主が時計を置くと、上側に位置している砂が下に落ちだした。


「あぁこれはね、まぁ奇妙な話があるにはあるんだが・・・。」

「何か問題でも?」

「うーん問題というほどではないのだけれどもね。”縁起が悪い”というかなんというか・・・。」

「”縁起が悪い”?」

「うん。この時計は言わば悲壮の砂時計といったところだね。ずっと”間違えた時間を計っていた”ものなんだ。」

時計は砂を落とし続けている。

「時計も間違えるんですか?砂時計なんてやることは砂を落とすくらいでしょう?」


「そうなんだけどね。この時計はある人が薬を飲むのに使っていた。1番目の薬を服用してから一定時間を空けて2番目の薬を飲むことになっていた。だからこの時計を使って毎日毎日決められたとおりに間を開けて二つの薬を飲んでいた。

ところがある日、その人は薬の順番を間違えていたことに気づいたそうだ。本来はその人が2番目に飲んでいた薬を飲むべきだったんだ。

それに気が付いたのは、この砂時計を見つめたとき、時間をはかるときにどちらからはじめても同じように見えるとふと感じたからだとか。そういえば自分の飲んでいる薬の順番はこれでよかったのだろうかと。

その時計のおかげで間違いに気づけたわけだけど、一体この時計はどれだけの間”間違った時間”をはかり続けたのか。」


気づけばその時計の話に夢中になっていたけど、僕はどうにも納得できなかった。


「でも、その時計は自分のなすべきことをしていた。仮に結果が悲しいものや予想していなかったものだとしても、その時計が計るべき時間は間違っていなかった。僕はそう解釈したいです。」

そう話すと、老人はまた少し笑って

「ほほぉそんな風に考えるのだね。君はなかなかポジティブなんだ。結果ではなく過程が重要ということかな?」


結果と過程。どう捉えるかで見え方は随分と変わってくる。この時計はそんなことを教えてくれるみたいだ。

もちろん砂時計である以上使い道は決まった時間を計るしかないわけだが、しかしこの時計が歩んできた歴史はそれなりに価値があるようだ。


「どうでしょうか?あんまり自分がポジティブだとは思わないかな。けどこれだけは言えると思うんです。過程がしっかりしてさえいれば、続けている以上いい結果に辿り着くことができるってこと。その時計はまだ時間が計れますからね。」

まるで自分から出てきた言葉には思えなかった。

恋人に殺されて(?)異世界で迷いながらも宝玉を集める旅をして、なお自分の存在意義を肯定しきれない僕から出た言葉だとは、到底思えなかった。

だけど、僕は今自分がし始めたことを正しいと信じていくしかなかったのだ。


「フッフッフ。やはり面白いね。」

老人は不敵に笑った。

そして、ちょっと待っててと言葉を残して、部屋の隅にあった階段をスタスタと上がっていった。

しばらくすると、何やら20㎝ほどの大きさのケースを持ち出してきた。

君にお似合いの時計があるよと老人は言う。


「この時計は非常に特殊でね。君の旅の役に立つと思うんだ。」

僕はまだ、この老人に自分がマタギだとは伝えていない。

だけどやはりこの老人が只者でないのか、僕の方が普通と違うのかわからないけれども、何かを感じ取って時計を取り出したみたいだ。


「まぁ正直、君が必要でないと判断したら使わなくてもいい。というか使わない状況の方がいいのだけどね。とにかく私には必要ないものだが、君の役に立つこともあるだろう。持って言ってくれたまえ。」

そういうと、店主はケースを開けた。少しくすんだ黄金のような色をしている懐中時計だ。

何故だか懐かしさと厳かな雰囲気を感じる。


開けてみてもいいですかと聞くと、もうすでに君のものだよと催促された。

懐中時計を開けてみる。

普通の時計となんら変わらない。時刻は6時を指していた。

そこで僕はハッとする。


「しまった!夕方くらいには帰ってきてと言われていたんだ!」

リカちゃんの言いつけを完全に忘れていた。

この時計屋に妙に惹かれて、好奇心を刺激する時計の話に没頭していた。


「なんだい、その歳で随分早い門限だね。フッフッフ君のご家族は過保護なんだね。」

「あぁいや、まぁ家族ってわけじゃないんですけど・・・信頼はしてますね。」

「気を付けた方がいい。この世界はあまりにも歪みすぎている。信頼という仮面を掛けなければいけないほどにね。」

「・・・。」


時計屋を出ると、空は濃い藍色に染まっていた。

海岸線を見ると沈みたての太陽の漏れたオレンジの夕焼けがほんのりと残っている。

ガーランド達、もしかして警察組織みたいなところに行方不明届とか出してないかなとか考える。

でもよくよく考えると、彼らは警察組織よりも上の行動権限を持ってるわけだし、それはなさそうだ。

小学校の時に宿題を忘れて学校に急ぐときのような心の裏で焦りつつウォクの宿屋を目指す。


途中でフレデリカに見つかる。

「ちょっと!!ナギトどこ行ってたの?!夕暮れ前くらいには帰ってきてって言ったじゃん!」

ちょっとお母さんみたいだった。

怒りと安堵と心配が混ざったような顔をしている。

「ごめんリカちゃん・・・夢中になっちゃって。ホラ、素敵な懐中時計もらっちゃったんだよ。」

そう言ってカポっと開けて懐中時計を見せる。


少しの間じーっと時計を見たフレデリカに

「ナギト・・・あんまり人にオススメされたものを簡単に買わない方がいいよ。その時計壊れてるし。」

「えっ?」

すぐに時計を見返すと、長針が10の値にあり、短針はピッタリ6の値にある。

ありえない数字というか、さっき夕刻の6時を指していて、時間が戻っている。

6:50を示すのならば、短針も少し7に寄っているはずだが・・・。


あの老人は役に立つとは言っていたが、まんまとハメられたのかもしれない。

だけど、不思議と捨てる気になれない。

もしかしたらそういう愛着が着くなんて魔法が込められているのかもしないけど、

もしそんなものがあるとしたら、僕はフレデリカ達にもそんな魔法を掛けられているのかも。

とにかく僕は、その時計をすぐには捨てないことにし、懐に時計を戻して、

「こりゃ参ったな・・・。ごめんねリカちゃん。君にもらったお金も結局使わなかった。これでみんなにお返しとしておいしいもの買っていくってことじゃだめかい?」

と言った。


「いいけど・・・やっぱりこれからナギトには私がついてく!ストーカーになる!私。」

ストーカーって宣言してなるものではないと思ったが、ツッコまないことにした。

この前キスされたのに、距離感が遠ざかるような物言いは一周回って可愛く聞こえる。


「嬉しいな。」

とだけ返しておいた。



ウォクの宿屋で目を覚ます。

日光がとそよ風が海から入ってきて、心地よい空気を運んでくる。

昨日は皆にこっぴどく叱られた。

中でもネルちゃんの「そのままどっかいってもよかったのに」というのはキツかった。

心配してくれる面々の言葉も重かったが、何より興味を持たれないというのがこんなにも心に突き刺さるなんて。


ドスドスというガーランドの歩く音が聞こえる。

ふぁ~あという声と共にいかついオークがパジャマで洗面台に立とうとする。

身長が高いせいで、洗面化粧室のしきりの上部に頭をぶつける。

イテ!とガーランドは唸るが、そのまま歯磨きを始めた。

すんごい大きなブラシで牙ごとブラッシングしている。


「歯磨き粉足りるのかな。」

ポツンとつぶやいた。


スドン!!ズドン!!

と2発の銃弾を金属製の的に撃ち込む。

だけど1発は右上に逸れて、後ろの土手にザッという音と共に当たる。


「ナギト~~~わざと外してるでしょ!前の戦闘の時精度めちゃくちゃよかったのに。」

全くもって弾が当たらないことにイラつくフレデリカ。

ネネ姉さんは扇子を仰いでニコニコと見守っている。

木陰でテツも手を後ろの土手に添えて僕の射撃を眺めている。

ネルはそんなテツの膝で丸くなって寝ている。

大きな中折れ式の454カスール弾をブチ込むリボルバーの反動は凄まじい。

撃ったあとに手がジーンと震えているようだ。


「ごめんリカちゃん。ホントにセンスないんだって。頑張って練習するから教えてよ。」

リカちゃんがため息をつく。

ガーランドが射撃場に降りてくる。


「リカぁー。どうだ?ナギトは。」

「なーんか全然化けの皮を剝がそうとしないんだよね。こりゃ頑固よ。」

僕はアハハと愛想笑いをする。

「オイラは別にマタギが銃を撃つ必要もないと思うけどなー。ナギト、戦闘とか面倒事は俺らに任せていいからな?」

テツが優しくフォローしてくれる。

こういう気遣いがうまいからネルちゃんに好かれるのだろう。

「まぁナギトがいざ銃を取りだす時ってのはその時点で俺たちの負けみたいなもんだからな。俺たちはマタギ様の手を煩わせないようにするしかないな。」


「それでも、いざとなったとき皆を助けられるようにはしておきたいんだ。何もできない状態で大切な人がいなくなっちゃうのはつらいと思うんだ・・・。」

僕は慣れた手つきでシリンダーにスピードリローダーで弾を込める。

フレデリカが横目でそれを見ていた。

「ま!最低限私達にフレンドリーファイアしなければいいから。銃の取り扱いとか射線管理は覚えてね。」

リカが言う。同時にガーランドが持ってきたお茶菓子を楽しむ休憩タイムとなった。


「リカちゃんって吸血鬼だけど、昼間に外出てもいいの?」

「え?どういうこと?」

リカが間の抜けた表情をする。

「僕の世界では吸血鬼って日の光に当たると灰になって死んじゃうんだよね。」

そう話すと、異世界の一向は総じて笑い出した。

さらに銀の銃弾やニンニクに弱くて、十字架を見せると怖がって逃げていくなんて話をしたら、

より一層皆が腹を抱えて笑い出した。


「おいおい、ナギト。そりゃ本当か?随分世知辛いんだな吸血鬼に対して。フッハッハ!」

「影踏みデスゲームレベル100って感じだな!」

「ちょっとナギトそれ本当なの?どんだけ吸血鬼が冷遇されてんのよ。」

「ナギトさんは人間で本当によかったですね。」


どうやらこの世界の吸血鬼に弱点はあんまりないようだ。

寧ろ人間関係とか精神面とか、一般的な人の性みたいなものの方がよっぽど怖いとか。

吸血衝動もあるにはあるらしいけど、基本的な食事ができていて正常に魔力を生み出せていれば何ら問題はないらしい。

考えてみればここにいるエルフも獣人もオークも、僕に出された同じ料理を食べていた。

体格で食べる量は違えど、味の感覚とかはおおよそ同じなんだろう。


「そういえばナギト、夕べ壊れた時計押し付けられたんだって?オイラが直してやろうか?」

テツに昨日老人に渡された懐中時計の事を尋ねられた。

「あぁ、そうなんだけど。大丈夫。なんか特別な時計みたいなんだ。」

そう言いながら、懐から時計を取り出してカチャっと開けてみる。

9時36分を指している。


「おいおいやっぱり壊れてるだろ。どこでもらったんだ?こんなイカれた時計。」

「えぇ~っと確か、ルプネなんとかって時計屋だったな。」

そういうと、その場の空気が一変した。


「何!ナギト、そのルプネグルグの時計屋に出会ったのか!?」

ガーランドが詰め寄る。

皆が驚いた表情をして、すぐに顔がほころんだ。

「ナギトさん、その時計屋さんは幸運の旅人の前に現れる魔法の時計屋さんですよ!よかったですね。」

「いやぁ~そいつは直すわけにはいかないな!むしろオイラが手を加えたら劣化させちまうよ。」


そういわれてみると、あの時計屋に入る直前に感じた空間が伸びるような感覚もなんとなく辻褄が合う気がした。

ネネ姉さんによると、その時計屋がくれる時計には何かしらの仕掛けや魔法が込められていて、マタギや旅人を度々救ってくれるらしい。


だとすると、肝心のこの時計の機能って・・・。

皆で色々試行錯誤してみたがイマイチわからなかった。

結局時計の機能は使いながら予想してみるとして、とりあえず射撃の訓練を再開することになった。


ズドンズドン!と重たい銃声が響いていた。

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