人を殺せるガラクタ
「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」」
突然彼女が苦痛に叫び出した。
先程の貫禄のあるような喋り方とは打って変わって、少女そのままの声で泣き叫んで・・・
嫌な記憶と共に目を覚ます。
昨夜あんな事件があったからだ。
ゾンビも人の形はしていたけど、不思議とそこに魂がないと実感できていたのでそこまで脳裏に焼き付いている感じはない。
だけどあのアキハという少女は、苦痛に顔をゆがめて苦しんでいた。
もし忘れることができるのであれば早いところ忘れてしまいたい。
妙な体のだるさと共に起き上がる。
顔をこすり眼鏡をかけると、近くにネルが居た。
いつものぶっきらぼうのようでどこか眠たそうな顔で僕を見ている。
「あぁ・・・おはようネルちゃん。」
「・・・。」
相変わらず無視の状態だ。
しかしせっかく二人きりなので、初対面時のお詫びをする。
「この間はごめんね?つらいことを聞いちゃった。僕も知らなくて・・・。」
「別にいい。」
「え・・・?」
僕にとって、ネルが容易く返事をしてくれることは意外だった。
ずっとだんまりが続くと思っていたから。
少しずつでもスキンシップを繰り返しても、心をある程度開くまでは時間がかかると覚悟していた。
「アナタの方がずっと苦しそうだった。」
どうやら夢に見ていたことが様子に出ていたらしい。
「あぁ・・・そうだね。ちょっと昨晩僕も心にくることがあってね。」
「・・・。」
彼女が何を考えているかは検討も付かない。
しかし最初のこともあってあまりネルのことを深ぼって聞くのは憚られる。
会話のネタに困るかなと心配したところでテツが上がってきた。
「お?凪斗起きたか!ネル、よく言いつけを守ってたな!後で肉ガムやるぞ!」
テツが有益な情報を漏らしてくれた。どうやらネルは”ニクガム”というのが好きらしい。
あまり敏感に話のネタにがっつかないようにしつつしっかりインプットしておく。
「それより凪斗、村の人達がお礼がしたいってよ!オイラはもう報酬なりなんなりをたんまり受け取ってきたからな!オマエも行って来いよ!」
僕は体を起こしてそのまま玄関へ駆けていく。
宿の中は受付の人がいたくらいで入口まで人はいなかった。
夕焼けの光が差し込んで放課後を思い出すような雰囲気だった。
玄関を出ると人だかりができている。
数々の村人がガーランド商業旅団にお礼を言っていたり、返礼品を渡している。
一部の人は涙を流しているようだ。
そのうち一人が僕に気づくと、たちまちマタギの方だと騒ぎ立て始めた。
たくさんの村人が駆け寄る。
握手を求めてくる者。
身近な人が犠牲になり、仇を討ってくれたと涙ながらに話す者。
自身が所持している畑でとれたグレープで作ったワインをくれる者。
(僕、そんなにお酒好きじゃないけど・・・。)
最初はただマタギというだけでもてはやされていい気持ちではなかったが、
今回はひとつ問題を解決して少しだけ誇らしい。
ふとフレデリカの方を見ると、何やら老婆に銃を渡している。
”あの銃”だった。
老婆は
「そうかい、あの子の銃はマタギの方を守ったのかい・・・。」
どうやらあの警備兵の母親のようだ。
彼の銃を家族に返しているところのようだった。
「あの子は誰よりも正義感が強かった。だからこそ無茶をするんじゃないかと心配していたけど・・・。」
老婆は布に包まれた銃を抱える。
僕は老婆のもとへ行く。
「あの警備兵さんのお母さんですか?」
「あなたがマタギの?あの子の最期はどうでしたか?」
涙は流していなかった。どこか諦めている様子にも感じる。
「あの人は立派でした。僕なんかよりも全然。たくさん救われたんです。言葉でも、その身を挺してでも・・・。だから」
そこまで言ったところで老婆の態度は豹変した。
突然僕の胸倉を掴む。
地面に落ちた銃がガチャリと音を鳴らす。
「じゃああの子を返してくださいよ!!あの子はたった一人の私の息子なんですぅ・・・うっううう・・・。この世に何人もいるマタギの人とは違うんですううぅう・・・。」
「ナギト、大丈夫?」
リカが飲み物を持ってきてくれた。
宿の裏手の土手に腰かける。
うんと僕は返す。
「さっきの人、警備の人のお母さん。可哀想だったけど、あまり重荷に思わなくていいからね?マタギを守れたことは何よりの誇りなんだから。」
「正直に言って」
僕は続ける。
「正直に言って、安心してしまったんだ。マタギが何よりも価値の高いものじゃないってわかって。」
リカはただ僕を見ている。
「どんな人にも大切なものはあって、それを守るために僕がいるんだとしたら、僕も納得できるんだって思ったんだ。狂信的にマタギを神様みたいに崇めて、自分の子供でさえも生贄にするような人たちだったら、僕はこの世界を救う価値がないと思っていたと思う。」
リカが僕のとなりに座る。
しばらく沈黙が流れた。
そよ風の音が大きくなる。通行人は歩いてどこに向かうのだろう。
遊んでいる兄妹が虫を追いかけて前を通り過ぎていく。
その後に二人の親とみられる人が徒歩でついて行った。
「この世界でもね。」
リカが口を開いた。
「たくさん戦争や種族間のいざこざがあったの。ガーランドはオークだけど、少し前は迫害の対象だったの。」
僕はただ話を聞く。
「でも、そんな種族も人類の内だと認められて、戦争の末に言語も統一されていってね・・・そうして今の時代が出来上がっているの。紛争や魔獣の被害とかはあれど、ドランド帝国とも和平条約が結ばれて、世界は総じて平和だって言えると思うんだ。」
リカは少し黙ってから
「私、どうして今の話したんだろ。」
と言った。
僕は少し考えてから空を眺める。
「それでも、僕達の旅には意味がある。小さくても存在している紛争や魔獣の被害を食い止めるために、宝玉を集めて神殿へ向かう。もし途中で投げ出しても、誰かがやるかもしれない。だけど、そうじゃないってことじゃないかな。きっとリカちゃんも僕も、今日みたいに冒険したり、感謝されたり、時には罵倒されたり・・・。でもそうやって旅を続けて、自分がそこで生きた証を人の心に残す。」
きっと、結果に寄らず意義がある。
「みたいな・・・ね。」
そう僕は思ったのだった。
ナギト。とフレデリカが僕の方を向く。
「これ、やっぱりアナタに渡すわ。」
そう言って彼女が取り出したのは、昨夜彼女が扱っていた銀色のリボルバーだった。
「え?でもコレって・・・。」
「うん、昔の仲間の形見。だけどね、ナギトが彼と同じこと言うもんだから。それに今必要な人が持つべきだなって思って。」
僕はそのリボルバーを手に取る。
彼女の持つもう一丁のリボルバーと同じく、中折れ式の口径の大きい銃だ。
ずっしりと重みを感じる。
銃身には「454casull LP-43」の文字が刻まれている。
「わかった。じゃあ旅が終わるまで預かるね。」
「うん、扱い方は教えるね。」
僕はもう一度銃を見返す。
この銃の持ち主はどんな人だったのだろうと思いを馳せる。
どんな気持ちでこの銃を手にして、どんなものを・・・いや、どんな「人」を撃ったのだろう。
誰の、何を守るためにこの銃を使ったのだろうと考えた。
答えがわからなくても、その必要があった。
「ねぇ、ナギト。」
僕は彼女の方を振り向く。
突然、唇を奪われた。
何の前触れもなく行われたその行為に、僕の頭は混乱する。
「え?」
と僕が声を漏らすと、彼女は微笑みながらも口を手で隠しながらどこか申し訳なさそうにしている。
「恋人さんいるのにごめんね・・・。私戻るね。」
そう震えた声で言うと、さっと飛び上がり宿の方に戻っていった。
僕は彼女の後姿を一瞥してから正面を向く。
彼女は、他のマタギのことが好きだったんだろうか。
彼女は、他のマタギにも同じようにしたのだろうか。
彼女は、この銃の持ち主のことをどう思っていたのだろうか。
彼女は僕にキスをしたのではなく、この銃の持ち主に対して決して届かないキスをしたのではないだろうか?
そう考えながら、夕焼けを反射させてオレンジ色に光る銀色の銃を眺める。
僕はリボルバーを下向きに折り曲げてシリンダーを確認してから、再度銃身を戻す。
両手を広げながら土手に倒れ込んで、
「なーんか・・・。やっぱり大変なことに巻き込まれちゃったな。」
と口に出した。




