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イノチノマタギ  作者: 凪雨タクヤ
13/31

森と、そして夜と青春と③

すくっと立ち上がると、アキハという少女はこちらを向きまたあのニタァという笑顔を見せる。

そして

「この子たちも、そして私も・・・ずっと夢を見ていられるだけで幸せだったのに。オマエ達が壊した。お兄さん、マタギでしょ?よかったね。こんな世界を救えて。」

まるで皮肉を謳っているかのようだった。


言い終えると同時に彼女の髪の毛がぐんぐんと伸びていく。

編み込んだ髪がほどけ、深海のイソギンチャクのような生き物を思わせるようにグネグネと伸びては周りのゾンビを巻き込んでいく。ジリジリと奇妙な光と共に髪は増大し、本体は宙に浮かんだ状態になっている。抱えた黒い本からさらに力が流れ出ているようだった。


「この子・・・魔獣化している・・・!」

ネネ姉さんがそう言うと、あたりに伸びた髪が束になって襲ってきた。

姉さんの防壁で受け流すが、かなりの威力があるみたいで、逸れた髪が壁にぶつかると受けた部分が凹み、バラバラと崩れ落ちた。


体育館の上部の扉が開く。

ガーランドだった。少し傷が垣間見えるが、無事だったらしい。

「おい!姉さん!大丈夫か!?凪斗も無事か?」

「こっちは大丈夫だけど、このままじゃマズいわ!この少女、魔獣化している!」

少女は高らかに笑いながら暴力と魔力を存分に振るっている。


しかし、よく見てみると妙だった。

僕は、彼女の巨体を構成している髪は徐々に周囲を巻き込んでいくが、髪が侵食していない部分がある。

そこを見ると、うっすらと人の形のようなものが力なく壁に佇んでいるように見えた。

直感的にココに何か秘密があると踏んだ僕は、ここに来て初めて銃を抜く。

両手で狙いを定める。少し息を吸ってすぐに止める。その瞬間引き金を引いた。

ダンッ!っという発砲音と、地面に落ちた薬莢の音が体育館に反射する。


ドゴッ!という音とともに人の形をしたものの腕部分にあたり、だらんと垂れる。

するとそれに気づいた少女であった魔獣は

「ウゥアア・・・!アアア・・・!レ・・・オォグググ!!」

という音を発すると、一瞬動きを止めた。


直後に建物の上部から黒い影が回転しながらすごいスピードで舞い降りると、そのまま本を抱えていた魔獣の腕を大鎌で引き裂いた。

巨体がメキメキと音を立てて倒れていく。やはり本についている宝玉が力の源だったのか、伸びきっていた髪も元の大きさに戻っていく。

ズドン!という轟音で倒れると共に、ムクっとリカが立ち上がる。

彼女の死神にも見える後ろ姿は嫌に冷徹に感じた。


「クソッ・・・」

腕がもがれた少女は力なく横たわっている。

「私達の大切な仲間を傷つけようとしたアナタは許せない。」

リカが少女に告げる。

「クックック・・・テリトリーを侵してきたのはそっちだろう・・・?随分と傲慢だなぁ。さすがは吸血鬼といったところか・・・。」

血反吐を吐きながら少女は毒を吐く。

「そんなにマタギが大事かねぇ。私やその辺に転がるゾンビにだって大切な人間がいた。そこのマタギのお兄さんと同じ命を持ったね。」

「凪斗は特別なイノチを持っている。当然私の命よりも重いのよ。」

「ハッ・・・クソくらえだ・・・。」


切れた腕から血が流れ出ていく。

しかし流れ出た血はすぐに砂のようになっていく。

彼女の身体もアンデッドのようなものになっていたのか、人形のように綺麗に感じた肌もどこか作り物めいていた。

彼女は目を閉じて諦めた様子だ。

フレデリカが本に埋め込まれていた宝玉を取り出す。

宝玉は綺麗な光を放っていた。

「これが・・・宝玉。」

膨大な魔力が込められたすべての元凶。そしてこの世界を救うための鍵。

僕達はその一つ目を手にしたのだった。


「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」」

突然彼女が苦痛に叫び出した。

先程の貫禄のあるような喋り方とは打って変わって、少女そのままの声で泣き叫んでいる。

「痛い!!!!イタイ・・・・痛いよぉ!!!!お母さん助けて!!!ハルカちゃん!!!レオ君!!!レオくぅうううん!!!!あぁ!!!助けてぇ・・・・!!」

僕は口を震わせてただ見ていることしかできなかった。あまりの苦痛と絶望の涙でぐちゃぐちゃに歪んだ顔を見てられなくて、たまらず顔を背ける。


リカが彼女の身体に向かって歩いていく。

そのまま銃を取りだして彼女の頭に銃口を向けていく

「リカちゃん、」

そう僕が声を掛けてすぐ一瞬の間もなく、フレデリカは2発の銃弾を少女の頭蓋に撃ち込んだ。

どうしてそんなことができるんだという気持ちと、もうそうするしかなかったかもしれないという感情。それを差し引いても、僕はどうすることもできなかった。

ゾンビが倒れていくときと違って、撃たれる直前に彼女は悲痛な叫びをあげていた。

それが銃声と共にぱったりと悲鳴が消え、沈黙が訪れる。


人の無残な死を目の当たりにして、涙が出てくる。

「凪斗さん。これが・・・私達のしていることです。」

姉さんが表情を変えずに言う。

「辛いかもしれないが、これが現実なんだ。」

ガーランドも腕を組み、深刻な表情で告げる。


「僕は・・・この世界に来れてよかったと思ったんです・・・。」

本当にそう思っていた。こんな暖かい人たちと旅ができるなんてと胸を期待に膨らませていた。

「でも、こんなことになってしまって辛いですよ。少し・・・後悔してしまった。」

あんな少女の悲痛な最期を目の当たりにすると知っていたら、元の世界に帰ることも諦めて、新天地で平穏な暮らしを目指していたかもしれない。だけど、歩み始めて・・・彼女達を信じて進むと決めてしまった。その決断が正しかったと今この時をもって評価することができなかった。


「ナギト、もう一度決めて。この旅を終わらせるか・・・それとも。」

フレデリカが僕に問いかけた。


-----僕は-----


「僕は、前に進むよ。中途半端に終わらせない。」

僕を言の葉で救ってくれた名もなき警備兵とこの少女と、そして巻き込まれてしまったたくさんの学生達の命を跨いで、僕は進むことにした。

冷たい夜の空気が痛く感じた。



姉さんに聞くと、魔獣化というのは宝玉などの外部的な要因で魔力が異常に増大し、制御できなくなり化け物となってしまう状態のことを言うらしい。

一般に外にいる魔獣は別で、単に魔力を持った動物や生物で、そちらはそちらで危険だが魔獣化した人や生き物は脅威度が格段に違うとのことだった。


ガーランドが無線で村に連絡を入れると、後処理の部隊がこちらに向かっているとのことだった。

僕はあのアキハという少女が魔獣化してさえも手を出さなかった人のようなものが気になって、その場所まで移動する。


僕の予想は当たっていた。

元は男性だった遺体のようで、少し古くなった手紙のようなものが服の内側に刺さっていた。

僕は手に取って読んでみる。


【拝啓、この手紙を拾ってくれた方へ。 僕は多分、もう長くないと思います。これを呼んでいる頃にはきっと息絶えているでしょう。僕がこの手紙を書き残したのは、彼女”アキハちゃん”を救って欲しいからです。彼女は僕と同じ学校に通う女子生徒でしたが、あるとき滅亡教団の襲撃で親友や大勢の友達を無くしました。それにショックを受けた彼女はぬけがらのようになりました。

しかしあるとき、彼女は突然いつもの元気を取り戻したのです。理由を聞いてみると”ハルカちゃんが生き返った”と言うのです。そう言う彼女の手にはあの黒い本がありました。

僕はアキハちゃんに連れられてかつて廃校になった建物に入ると、確かにハルカちゃんがいました。でも彼女の眼は虚ろで、冷静に見れば彼女が死んだままで傀儡となっていることがわかりました。

でも彼女は違った。

ハルカちゃんがどろどろに溶け始めても尚、彼女の目にはいつもと同じあの学生生活が映っていたのです。そしてそれも黒い本のせいではなかった。友達を失ったとき彼女の心はとっくに壊れてしまっていたのです。

我慢ができなくなった僕は、すでに壊れきった彼女を諭そうとしましたがだめでした。返り討ちに合い、もう助からないでしょう。

どうか彼女を救ってください。僕が生まれて初めて好きになったたった一人の女の子なんです。

よろしくお願いします。


-レオ・ティルロン】


この世界には人が悲しむ問題がたくさんあって、そのうちの一つを解決するための旅に出ている。

それを続ける決意をする。

でも人は一度目を覚ましてしまうと閉じずにはいられないという。


夜空を見上げると、たくさんの星と銀河が見える。

見覚えのある星座も見受けられる。

どうやらここは地球と同じ場所にある惑星ということなのだろう。

マルチユニバース的な考えによると、10の125乗分の1の確率で今と同じ宇宙の構造になるらしい。


まるで神様がわざと手を加えて作られたみたい。

でも理屈は簡単で、他にも宇宙が少なくとも10の500乗個あって、そのうちのいくつかは同じ構造になるとからしい。


途方もくれるような、肌に実感できないスケールのお話。

でも、僕はそんな話が大好きだ。


「へぇー!ナギトって何でも知ってるんだね!」

リカが隣で微笑む。

「僕は何にも知らないさ。誰かが教えてくれたんだ。」

「ナギト、星好きなんだ。」

「うん、しかもこの世界の夜はいいね。星や銀河がこんなにきれいに映るんだもん。」

「ナギトの世界だと見れないの?」

「うん。こんなに綺麗じゃないよ。地上に光が溢れすぎていて、皆夜空の星なんて忘れてくんだよ。

空にあるのは満月とか明るい星だけ・・・あとは暗闇だよ。」

「地上に光が溢れているなんて素敵。そっちの世界の方が良さそうだな~。」


そう言いながら深紅に光る眼で空を見つめる彼女は本当に美しかった。


そうして大鎌を持つ金色の髪の吸血鬼と星々を見つめる。

あれはカシオペア座。あれが北極星。

そしてあれが・・・。


そこには見覚えのない、というかあるはずの星がなかった。

「ベテルギウスが・・・ないんだ。」

僕はふと口に出す。


え?どれどれとリカが体を寄せてきた。

彼女の肩が僕の身体に触れる。

いい香りがする。


「あれだよ。あのオリオン座の左上。」

「あぁ、オリオン座ね。神話に出てくる一番重要な星座だね。」

「神話?どんな神話なの?」



【星々を司る神々は、天からこの世界を統治していました。

しかしあるとき世界に闇が溢れ、地上の人々は困ってしまいました。

そのとき神々の中の一人、ジリウスは言いました。

『私の命を使って、この世界に光と魔法をもたらすのです。』

神々は反対しましたが、彼は自らの命を生贄にし、この世界いっぱいに広がりました。

そうして地上には光と魔法が溢れ、夜空にあった明るく紅の色をした星は見えなくなりました。】


「そっか、その神様は人々のために自分を犠牲にしたんだね。」

「そう。この世界のためにその身を捧げたとされているわ。」


遠い昔、僕にもそんなときがあった気がする。

でも結局のところ、僕には何もできなかった。

そうしてまたなんやかんやで命をもらって生きている。

それが正しいことだったのかはわからないけど・・・。


「ねぇ・・・ナギト。もしアナタが、」


するとガーランドがおーいと僕たちを呼ぶ。

どうやら後方支援の部隊が到着して、本格的に後処理を進めるようだ。


「僕達も手伝わないとね。」

「うん!」


たったひとつの紅い星を失くした星々を背に、僕たちは事件の顛末を見届けた。

悲しい物語と運命を背負って。

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