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イノチノマタギ  作者: 凪雨タクヤ
12/31

森と、そして夜と青春と②

ハルカちゃんは私のお気に入りのぬいぐるみを褒めてくれて以来仲良くなってよく遊ぶ友達。

パワーナスビさんという、腕の筋肉がムキムキのナスビのキャラクターのぬいぐるみで、鞄につけていたのをハルカちゃんが褒めてくれたのが最初の会話のキッカケだった。


彼女は私のこんな趣味にも付き合ってくれるすっごいいい子!

でも、彼女の秘密を私は知ってしまっている。

ハルカちゃんは・・・レオ君のことが好きなんだ。


私の片思いの子なんだけど、ハルカちゃんもその子が好きで・・・。

でもハルカちゃんは私にとって大切な友達で・・・。


最近はこんなことを考えると頭がパンクしそうなので、このことを考えそうになったらいつもの趣味に没頭することにしている。


「おい、アキハちゃん。またその地味な本使ってんのかよ。気持ちわりぃな。」

クラスのカースト上位の子、サーシャちゃんだ。

取り巻きの女の子二人といつも一緒にいる。

「その気持ちわりぃ呪文みたいな奴ボソボソ喋ってんじゃねーよ!レオ君にお前のツバが飛ぶだろうがよ。」

ガッとサーシャちゃんが私の分厚くて黒い本を突っぱねる。


「ちょっとサーシャ!アキハちゃんに謝りなさいよ。」

ハルカちゃんが私を庇う。

私と違って成績も優秀で人がいいハルカちゃんは、顔も広いので彼女達も手が出しづらい。

「ハルカ、アンタもいい加減こんなナメクジみたいな奴に構ってないで友達作ったほうがいいぞ。レオ君だってこんな子とつるんでるアンタを好きになるとか思わないんですけど。」

「余計なお世話なんだけど。」


ハッ!キモ。といってサーシャちゃん達は私の陰口をわざと聞こえるようにしゃべりながら離れていった。

「アキハ。大丈夫?」

ハルカちゃんが労わってくれた。

「うん大丈夫。それより放課後の授業って防犯訓練だったよね。包丁とか用意しないとじゃない?」

「あぁ~そうだった・・・。私忘れたわ。」

「なら私のを使って?多分使わないし。

え~そう?悪いわね。貸してもらうわ。」

そう言って、"ハルカちゃん"は正門のほうに走っていった。


「まったく、ハルカちゃんもあわてんぼうだな。」

そう言って、私は窓の外を眺めた。気持ちの良い風が吹いている。

時計の針は12時を過ぎていた。



警備兵の遺体を供養した後、さらに山道を進む。もともとは人通りのある道だったのか、ところどころに石でできた人工物の跡が残されていたりする。

左肩に重みを感じる。

革製でできたホルスターに、警備兵の形見のハンドガンを据えているので、ずっしりと感じる。


道中で、また数体のゾンビを倒したが、最初に襲われた時ほどの量ではなかった。夜目の効くフレデリカが先頭を切り、そのまま戦闘を繰り返していく。ゾンビや魔獣といった脅威があっという間になぎ倒されていく。


彼女が取り出す大鎌は、特別性の金属なのか、異様なオーラを放っていた。赤黒く奇妙に光るその風貌は、吸血鬼にこそ似合うが、とてもではないがヒーローやヒロイン側の装備とは思えなかった。


「そろそろなはずだ。」

ガーランドがそう言うと、前方に連なった大きな建物が現れた。ツタだらけの正門もある。


門の前に、ゾンビがいた。

ただ、他と明らかに違う様子だ。

目は闇夜の中でギラギラと光り、手には包丁のような凶器を持っている。元は女学生だったようだ。

皮膚の肉がただれて骨がむき出しになっているところがある。


ゾンビになってかなりの時間が経っているようだ。

グゲェ!とうなり声を鳴らして襲い掛かってきた。

他のゾンビと違って速い!


フレデリカが攻撃をはじき、僕らの近くにステップして距離を取る。


「姉さん!コイツ、何か嫌な予感がする・・・!私達全体と距離を詰めたがってる!」

リカが言った途端、僕らに向かって飛びかかってきた。

ネネ姉さんが手をかざすと、光の防壁が展開された。

特異ゾンビがにじり寄ろうとするが、防壁に阻まれてジリジリと音を立てている。


瞬間、バチッと小さな電気のようなものが得意ゾンビに走り、ぐにゃりと体が歪んだかと思ったら、あたりを巻き込みながらかなりの威力で爆発した。

手榴弾が数個同時に爆発したような、凄まじい威力と轟音で、姉さんの防壁がなかったら全員木っ端みじんになっていただろう。


パサっと特異ゾンビが生前つけていたであろう、小さなぬいぐるみの破片が落ちる。

ガーランドが手に取る。

「ついに本陣に近づいてきたって感じだな。」

「えぇ、明らかに魔力が込められてたわ。しかも膨大な量の。グレネードいくつ分なのよあの爆発。」

リカが呆れたように言う。

「どうやらこの建物に大元がいるみたいだな。皆、気を引き締めてかかれよ。」


あんなものが建物や死角から飛び込んで来たらと思うと背筋が凍りそうだった。

リカたちはそれでも、小走りで建物の入り口付近に取りつき、すぐさま銃でクリアリングしていく。

さすがにあんなに大きな斧や鎌をブンブンと振り回すわけではないらしい。

リカが先頭を行き、暗闇に目を凝らしながら少しずつ進む。

チラと見えた横目が深紅に光っていて見とれてしまった。

バキという転がっていた木の板を踏みつける音でハッとし、僕も警戒する。


「凪斗さん、銃は出さないの?」

ネネ姉さんが気にして声を掛けてくれた。

「う、うん・・・。さすがに訓練もしてないからね。」

いくらもといた世界で動画やエアーガンを触れていたとは言え、いきなりこんなCQBに参加させられるなんて聞いてない。

ゾンビどころか自分の手か仲間の誰かに当たるのがオチだ。


「気になさらなくても、いざとなったら私達ごと撃ち抜いていいんですよ?」

ネネ姉さんが言う。

冗談じゃない。わけのわからないといっては失礼だが、いきなり飛び込んだ世界で、あって数日とは言え僕を受け入れてくれている人たちを撃つなんてごめんだ。ただでさえさっき目の前で警備兵が死ぬのを見たばっかりなのに。

「いや・・・それはさすがにできないですよ。」

とだけ返した。


「ガーランド、やっぱり妙よ。」

とリカが切り出す。

「凪斗達の話もあえてスルーして、こちらから音を出していたのに、一向にゾンビが襲ってこない・・・。あの正門を超えてからよ。」

「あぁ、そのようだな。地雷みたいな罠があるかもしれない。ゾンビだけと思わせておいて、無機物のトラップを仕掛けているとかな。」

僕らが歩いているのは元職員室か何かだった場所だろうか。○○室と書いてあるのだけは理解できるが、文字が霞んでもう見えなくなってしまっている。元居た世界の学校によく似ているので、わけのわからない感情で襲われる。闇に包まれた学校の独特な恐怖と、圧倒的な力を持つ味方のいる安心感。

それがスープにでも入ってどろどろとしたような不思議な感覚だった。

今更ながら、僕がここにいる理由が見当たらない。


「ねぇ、姉さん。本当に僕ついてきてよかったの?だいぶお荷物になってる気がするんだけど・・・。」

「当然よ?確かに怖い思いをさせてしまっているけれど、凪斗さんが近づくと宝玉は反応するわ。」

宝玉が反応してもこちらがわからなければどうしようもないのでは?とも思ったが、それだけではないらしい。

「それに、凪斗さんは世界の救世主として、何が起きているかを間近で見て置く必要があるの。それは起きている問題だけじゃない。私達がどんな存在で、どんな対処をしているかも。」

「直接、僕の目で刻まないといけないんだね。」

姉さんはニコっと笑った。


しかし直後に、おぞましく不気味なものを目の当たりにする。

2階を制圧しに行くと、教室だった部屋がある。

そこには30人程度のゾンビが整列して、黒板の方を向いてただ立っていた。

ぼんやりと虚空を見つめて漂っているようなその光景に、一行は愕然とする。

僕達に気づくと、ゾンビが一斉にこちらを向く。

リカはその教室に銃口を向けながらゆっくりと動いていく。

「リカ、俺が最後尾につく。先頭を頼む。」

「了解。」

二人は銃口を逸らさずに会話し、配置を変える。

より僕に攻撃が向かないようになった。


-だけどバカね。標的がどこにいるのかまるわかりじゃない-


どこからともなく声が響くと突然、轟音と共に地面が崩れた。

僕とネネ姉さんが1階に落ちていく。

同時に教室内にいたゾンビがガラスを割って飛びかかってくる。

リカとガーランドの発砲する音が聞こえる。

ドサ!と音を立てて一階に尻もちをつく。


ウアッ!と声が漏れる。

「姉さん!大丈夫!?」

とすぐさま姉さんの方を気遣う。

えぇ大丈夫と姉さんは応える。

姉さんの手をとりすぐに警戒するが上の階からゾンビは降ってこない。

リカたちが発砲する音だけが聞こえる。


廊下を向くと、少し離れたところにポツンと一人少女が立っていた。

黒髪を編み込んで、本のようなものを抱えている。

それを見つけると、ネネ姉さんの形相が変わり、

「凪斗さん!彼女を追います!」

といい走る。

突然のことだったが脊髄反射ではい!と返事をして姉さんについていく。

少女は突き当りの教室に入る。


中に数体のゾンビと共に立っていた。

「ハルカちゃん。残念だったなぁ。大切な親友なのに・・・。」

そうつぶやく彼女の手には、怪しく光る宝玉がはめ込まれた真っ黒な本が佇んでいた。


「アナタが、今回の事件の”黒幕”というわけですね。」

ネネ姉さんが呼びかける。

しかし、少女はコチラに見向きもせず何かボソボソと喋っている。

「その本がどうやら元凶みたいですが、貸していただけますか?そのまま燃やすので。」

姉さんがそう話すと、明らかに反応が変わった。


こちらを振り向くと、ニタァと気味の悪い笑いを浮かべる。

「先生、ごめんなさい。もう学校には持ち込まないので。」

か細い少女の声だ。

僕達のことを先生と呼んでいる。

この少女は、このゾンビたちを使って壮大な”おままごと”をしているのだ。

生きている人も巻き込んで、自らの都合の良い解釈をして学生生活を『演出』している。

そう理解すると、より一層おぞましさが際立ち鳥肌が立つ。


「先生、それでもアキハちゃんの魅力なんだからこれくらい許してくれてもいいじゃないですか。」

この少女から先ほどのか細い声とは違う、凛々しい女子生徒の声が発せられる。

すると、少女は左側に立っていたゾンビの方を向き

「いいのハルカちゃん。私が悪いんだから。先生ごめんなさい。今日持ち帰りますから。でもアレ?おかしいな。ハルカちゃんいなくなっちゃったよね?あ!ハルカちゃん!ここにいたんだ!よかった~。心配したよ?」

そう言い、ゾンビの頭を撫でていた。


この時の僕の感情を説明するのは難しい。言葉だけでは足りないようで

ただただおぞましさと気持ち悪さが頭を突き抜けていく。

この少女をここまで曲げてしまったのは何なのか。

それとも最初から、生まれた時から壊れていたのか。


でも僕は、彼女の側から話を進めることにする。


「ねぇ、アキハさん。その本見せてくれるかな。先生も気になるな。」

「凪斗さん!?」

ネネ姉さんが心配するが、すぐに僕の意図を汲んだようで、黙っている。

「校門でキミのお友達が落としてしまったんだよ。これと交換してくれないかな。」

そういうと、僕はガーランドが拾っていたぬいぐるみを目の前に出す。


「アレ・・・?それって・・・。」

「君の大切な友達のものだよね。持ち主に返したいんだけど。」

「それはハルカちゃんの・・・。アレ・・・おかしいな・・・。」

少女が頭を抱える。

「ハルカちゃん・・・ここにいるのに。でもさっき校門に向かって・・・。」

彼女の中に矛盾という概念があるかも疑わしいが、僕はその一瞬をつくことにした。


-彼女、死んじゃってるんでしょ?-


「「「「「うるさい!!!!!」」」」」

少女は何かが吹っ切れたように目が血走り叫びをあげる。

宝玉が光り、嫌なオーラがほとばしる。


「このまま壊れたままでいられれば、幸せでいれたのに。」

冷たい声で少女は言う。

人格がほぼ破綻しているのか、先ほどのか弱い様子は見受けられない。


「この子の正体ともいえる脅威が出てきましたね。」

ネネ姉さんが構える。

少女から閃光が走ったと思うと、じりじりと火花をあげて電撃が当たる。

しかしすでにネネ姉さんの防壁が働いている。

漏れだしたエネルギーで外壁が崩れ落ちると、その破片を操ったのか、真っすぐ僕らに向かって飛んでくる。

ガキン!という防壁に当たる音が響く。


突然少女が走り出すと、ゾンビが飛びかかってきた。

咄嗟に姉さんは手を掲げ、指輪が淡い青色に光ると、地面から巨大な氷が飛び出しゾンビを貫いていく。

そのまま手を走り出した少女に向けて魔法を発動させ、氷を出現させるがギリギリ当たらない。

少女は廊下の暗闇に消えていった。


「凪斗さん、追います!」

「リカちゃん達は?」

「彼女たちは大丈夫。必ず合流できます!」

「わかった!」

すぐさま少女を追いかける。

どうやら裏手の体育館に逃げ込んだようだ。


玄関の扉は壊れており、中に入ると少女が何やら祈りのようなものを捧げている。

周囲にはずらりと配置したゾンビがゆらゆらと揺れている。

先程と似たような嫌なオーラが漂っていた。


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