森と、そして夜と青春と①
ガチン、カキン。カシャッ!っと装備を揃える音がする。
ガーランドは肩から12ゲージのショットシェルがずらりとならんだ弾帯をかけ、ポンプアクション式のショットガンと巨大な斧、というよりバトルアックスを装備している。
さらに腰には装備品が連なったタクティカルベルトを巻き付けてある。
見るからに”ゴツい”という感想が出る風貌だ。
彼が歩くと、装備の重さや金属の武器の音が重なり、ゴトっと音がする。
一方ネネ姉さんとフレデリカは一見軽装に見える。
最低限のポーチを身に着ける程度だ。
「ねぇ、姉さんとリカちゃんは武器を持たないの?」
一応聞いてみる。
「え?持つわよ?あぁ!そうそう。私とネネ姉さんは魔粒子ゲートっていう特殊な空間に武器を保持しているから任意で呼び出せるの!まぁ気を失ったりしたら武器とか出てきちゃうんだけどね。といっても私は魔法だけじゃなくて物理的にも装備してるわよ!ホラ!」
彼女がファサっと途切れたミドルスカートをめくると両太ももに括りつけられたホルスターから、手の大きさに似合わない中折れ式の大型リボルバー拳銃が2丁垣間見えた。
片方は銀色で、もう片方は黒色。どちらもイジェクターロッドーの先のラグの部分が四角く飛び出ていて物々しいものだった。
「どう?凪斗?かっこいいでしょ!こっちの銀色のほうは昔私たちのチームに居た仲間のものだったんだけどね・・・。旅の途中で亡くなっちゃったから・・・。形見でもあり守ってくれる武器として持ってるの。」
やはり危険な旅だったのか。という感情と、残念だなという気持ち。
そんな気持ちも持ちつつ。
「そうなんだ・・・。やっぱり大変な旅だったんだね。でも確かにかっこいいね!」
と返した。
「姉さんはその魔粒子ゲートに何を入れてるの?」
「まぁ!凪斗さん、レディの隠れた部分に足を踏み入れようとすると痛い目にあいますよ?」
こんなときにも冗談を言えるのはどうなんだろうと感じつつ、それだけ場に慣れているということだろうなと理解する。
えぇ!ごめんなさいと返事をする。
「私は主に魔法を使いますから、魔法使いといえば杖や本でしょう?凪斗さんの世界ではちょっとわからないんですけど、概ねそんな感じです。」
僕の世界でも不思議な現象や物理的でない超常的な物質はあったけど、本格的な魔法というものはどんなものだろうと興味をそそられる。まだ僕が目にしたのは魔性測定のときの魔法くらいだ。
すると、村の警備兵のような人が訪ねてきた。僕らを現場の森に連れて行ってくれるようだ。
テツとネルに留守を頼んで村を出る。
時刻は夜の10時くらいだろうか?月は出ていない。
虫の鳴く声やそよ風が心地よいが、不穏な空気が漂っている。
警備兵はしっかりとアイロン掛けされた青い服装に警棒やオートマチックの拳銃が腰に刺さっている。
警備兵はガーランドと話をしながら歩いて、アナタ方が来てくれて本当に心強いなどと喋っている。
話を聞くと、村の裏手の森の奥深くにある破棄された学校が怪しいとのことだった。
山道を歩いていくと、村の明かりは見えなくなり、一寸先は闇。
道を逸れた茂みは真っ暗で、その先に何もないのではないかと感じてしまうほどだ。
すると、警備兵がうん?と首を傾げた。
明かりを照らすと少し遠くに人影が見える。こんな時間に妙だった。
光に照らされると慣れない足取りで山の奥に走っていった。
「待ちなさい!」そう警備兵は叫ぶと人影を追いかける。
すると、待って!とリカが声を掛ける。
「なんですか!こんなところに人がいては危ない!すぐに連れ戻さないと!」
と警備兵は言う。
「あの人影、人間じゃないと思う・・・。全然生気を感じなかった。それに多分アレは・・・学生だわ。」
今回の一連の被害者の特徴に合致していた。
「ならすぐに助けるべきです!」
と告げ警備兵は人影を追いかけた。
おい!という引き留めようとする一行を無視してどんどん進む。
すると、うわああああ!という悲鳴が聞こえた。
15mほど先で警備兵が腰を抜かしている。
すぐ目の前に、ゾンビと化した学生の姿があった!
今にもゾンビは警備兵に襲い掛かろうとしていた。
瞬間、頭上をものすごいスピードで何かが移動する。
フレデリカだった。
そのまま空中で手をかざすと、黒い炎とともに命を刈り取る形をした大鎌が現れ、
身体をよじりながらそのままゾンビを引き裂いた。
あまりのスピードで一連の動作が行われた。
皆がリカが一番戦闘力が高いと言う理由が今の一瞬で理解できた気がする。
でも・・・。
「リカちゃん!いいの?ゾンビだけど学生だよね!?もとに戻せないの?」
するとリカは
「元に戻す方法を考えて躊躇していたら、この人は死んでたわ。」
と冷静に返答した。
「ゾンビ状態になってるってことは一度死んでるんだ。体も腐敗しているから蘇生は難しいと思うぞ。」
とガーランドがフォローした。
すぐさまリカが周囲に何かを察知した。
「皆、コイツだけじゃない!周りに何体もいる!!」
すると、あたりの茂みからうぉお・・・とうめき声をあげながらゾンビが一斉に立ち上がってにじり寄ってきた。リカはスカートの内側に仕込んであったリボルバーも取り出して銃弾をブチ込む。
ズドンズドン!と金属を思わせるような重たい音が鳴り響く。
ガーランドもショットガンで距離を稼ぎつつ、近づいた個体は大斧でゾンビを真っ二つにしていく。
「ひぃい!」と警備兵は頭を抱えてうずくまっている。
「凪斗さん、離れないで!」
ネネ姉さんが僕を庇いながら指で大きく空中に紋を描く。
そして姉さんの左手にはめられた指輪がオレンジ色に輝くと、姉さんは手を下から上に扇ぐと
地面から魔法陣越しに巨大な炎の柱が現れた。
ズドォオオ!!という轟音と共に数々のゾンビを燃やし尽くしていく。
姉さんが手をキュっと握ると、ろうそくの炎がパっと消えるように魔法の炎は消える。
リカが空中を舞いながら大鎌を操ると、たちまちあたりは血まみれになっていく。
あっという間にゾンビの群れは殲滅された。
その華麗ともいえる闘い方は圧倒されたというか、歴戦の戦いぶりを感じさせるものがあった。
さらに、彼らが戦闘のプロだということを実感させられる。
「ガーランド。今のゾンビたちの配置・・・。」
「あぁ、今回の敵には確実に知性があって、俺たちを陥れるために布陣を敷いたとしか考えられない。おおよそネクロマンサーといったところだろう。」
今の戦いだけで、敵の正体までたどり着いたのか?
まだ目的地までは若干の距離があるというのに、すでに敵の検討がついたらしい。
「ガーランド、どういうこと?」
僕はたまらず聞いてみる。
「俺たちが最初に目撃したゾンビをAとすると、Aはたった一体で俺たちの前に現れた。
そのAのゾンビを追いかけ、ある地点に誘い込んでから、道の両サイドから方位するように配置していたゾンビを起動させる。どう考えてもゾンビを操る力がないと不可能だし、誘い込むというトラップまがいのことをしている。どうやら敵さんは確実に俺たちを仕留めたいらしい。」
「相手が私達だったのが運の尽きだけどね!」
リカが胸を張って誇らしげに言う。
警備兵が本部?のようなところに無線で連絡を入れる。
そのまま僕らが先行して調査し、後処理を後方の部隊に処理させるらしい。
少し進むと、川が流れていた。
ランタンを置いて、一時の休憩。
持ってきた水を飲んで心を落ち着ける。
随分と大きな木だ。大きな蜘蛛の巣がかかっていて不気味だ。
警備兵と向かい合って座る。
「いやぁ、先ほどは不甲斐ない。マタギの方。
正義感だけが前のめりになって、結局墓穴を掘ってしまった。」
警備兵が話す。
「いいんですよ。僕も何もしてないし。正義感が強いことはいいことだと思います。
何かを考えているだけじゃないくて、兵士さんは行動に移したんですから。」
「そういっていただけると救われます。それだけが取り柄なもんで。」
-違う。僕は何も救ってなんかない。-
-いいや、君は人を救う力がある。-
「どうして兵士さんはこのご職業を?」
「両親の友人が騎士団に入っててね。そこの紹介というか、コネですよ。でも、私には人一倍の根気と正義感があったから天職だと思ったんです。誇りにしようと努力はしてますが空まわることも多くてね。マタギの方、凪斗さんでしたよね。アナタこそ大変でしょう。いきなり救世主なんて立ち位置にさせられて。」
「いやぁもう、ホントその通りですよ。僕なんか力もなければ誰も救えないのに。」
すると、兵士は少し穏やかな表情になる。
「そんなことはないですよ。現に言葉を使ってアナタは私を救ってくれたんです。誰かを労わったり、それができなくても、人は感情を共有するだけで勝手に救われるもんですよ。それが”ニンゲン”のいいところだと思いますよ。」
その言葉を聞いて、僕はどこか心の重荷がほぐれるような気がした。
バキン!!と鎖が千切れる音がした。
「”ニンゲン”ですか・・・そのニンゲンは、」
あぶないっ!!!!
突如、身体が地面に叩きつけられる。
警備兵に突き飛ばされたのだ。
すぐ見上げると。巨大な蜘蛛が警備兵を縛り上げている。
「ぐぁあ・・・!」
苦しそうな表情を浮かべる警備兵。
「そんな・・・兵士さん!」
僕がそう叫ぶ間もなく、蜘蛛は足についた大きな爪で警備兵の胸を貫いてしまった。
力のなくなった体が俯きだらんと垂れる。
彼の腰に刺さっていたハンドガンがカタンと目の前の地面に落ちる。
「あ・・・・あぁ・・・。」
僕が唖然としていると蜘蛛はこちらをターゲットにしたようだ。
「ナギト!!」
そう叫んでフレデリカが大鎌で飛びかかる。
僕は目の前に落ちた銃を手に取り、ダンダン!と2発の銃声を鳴らした。
蜘蛛は地面に叩きつけられ絶命している。
胴体にはフレデリカの大鎌で切り裂かれた後が見える。
その近くに、胸部を貫かれた警備兵の遺体が転がっている。
僕は人が死ぬところを初めて目撃した。
それも目の前で、僕を庇って・・・。
僕は彼が所持していたハンドガンを握りしめて立っている。
リカと他の皆が駆け寄る。
「ナギト!?大丈夫!?」
「うん・・・ケガはないよ。でも・・・。」
僕に救いの言葉を投げかけてくれた人は、すでにこの世にいなかった。
警備兵の目は虚ろだ。
「ネネ姉さん、簡易的でいいから供養と祈りをしてあげて・・・。」
リカはそう伝えつつ、僕を心配しながらも奇妙な眼差しを向ける。
(さっきナギトは銃弾を2発蜘蛛に向けて撃った。銃弾は蜘蛛が警備兵をやったのとおなじ左側面の足の爪にあたって、私に突き刺そうとした攻撃が逸れた・・・。偶然なの?)
フレデリカは、自らが吸血鬼故に尋常ではない身体能力や魔力をもっており、動体視力も当然ながら超人的であった。
「ねぇ・・・ナギト。さっきの銃の扱い・・・。」
「ごめんリカちゃん。君に当たりそうだったよね。咄嗟の事で慌ててたんだ。だけど標的にもあたらなかったし、何よりキミに当たらなくてよかった!もう素人は銃を握らないよ。ごめんね。」
「ううん。無事だったならいいの・・・。」
僕は銃身を持ってフレデリカに銃を渡す。
ガーランドが遺体に手を合わせてからこちらに来る。
「リカ。凪斗は素人だといったが、やはり自分を守る道具は持たせておいていいと思う。」
「うん、ガーランド。凪斗、このハンドガンそのまま持っていて。ホルスターは肩掛けのものがあるからそれに入れて。」
先ほどの銃を手渡される。
僕みたいな素人に渡して大丈夫だろうか?と先ほど必死で発砲していたことを忘れ疑問に思う。
「えぇ?いいの?素人にそんなことして。僕銃なんて触ったことないのに。」
「本当にそうか?」ガーランドが言う。
「お前、さっき銃を撃つとき左手の親指が標的に向いていただろう。ホールドしていた手もハイグリップと呼ばれる深くしっかりと持つやり方だ。リカに銃を渡すときも銃身を持って手渡している。それにさっき発砲したとき弾がリカに当たらないように、しかも蜘蛛の攻撃を逸らすように銃撃していただろ?標的に当たらなかったとか言ったが、コイツの爪に弾丸が掠った後がついてるぞ。」
まるで犯人当てでもしているかのような、尋問をされているような雰囲気だった。
「そんな器用なことできないよ!たまたまだよ。たまたま。元居た世界で動画でみたりトイガンで遊んでいただけさ。」
と両手を掲げる。
「とにかく、俺たちが全力で守るとは言え、自衛の手段は欲しいだろう。弾薬は45ACPだ。商業旅団だけあって在庫は豊富だからな。ヤバくなったらドカドカ撃ち込んでくれ。オマエが素人でないのはさっきの扱いで十分わかった。」
やれやれだな。と思いながら、彼の形見のハンドガンを受け取った。
銃越しに彼の遺体を見て、切ない気持ちと同時に悲しみの感情が湧き上がってきた。
僕は遺体に手を合わせた。
感情を噛みしめてその場を後にした。




