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願いと戯れ

「………実は下心があるのです。」



「ほう。言うてみよ。」



「私、子供の頃から本などで読んでずっと物語の不思議な存在に会ってみたいと常々妄想しておりました。


この年になって子供っぽいなどと笑われることもありましたが憧れだったのです!


特に吸血鬼は様々な伝承、最近では漫画などでも多く題材にされている世界一有名な存在といっても過言じゃありません!」



「ふ、ふむ。」



「そんな伝承だけの存在が!今!目の前に実在しているのです!これが興奮せずにいられますか!」



「わかった、わかったから落ち着け!」



「本当なら私も眷属になってその存在に近付きたかったのですが……


まさか血を吸えない吸血鬼とは…………はぁ。」



「だからあんなに血を吸えと迫ってきたのか。」



「ですから計画変更です。吸血鬼さん!交渉です!」



「交渉?」


「月に一度でいいのです。私は美味しいロイヤルミルクティーを入れます。


だから吸血鬼さんには私とお話をして欲しいのです。」



「話?」



「なれないのならせめて貴方のその体験してきた膨大な【物語】を私に聞かせてはもらえないでしょうか?


貴方の口から語られるそれはきっと、どの本よりも現実で非現実に違いありません!」



「……本気か?」



「本気も本気大本気です!」



「………ふふふ、あっはっはっはっは!なんだそれは、たかだか紅茶ひとつで真祖である余と交渉とは。


随分とナメられたものだな、あっははは!」



「…………。」



「ははは、いいぞ、面白い!気に入った。」



「……え?」



「その交渉承けてやろう。有り難く思えよ女。」



「本当ですか!?」



「このような戯れは本来好かんが。なに、お前の入れるロイヤルミルクティーは存外旨かった。


永き時を生きる余にとっては瞬きにも満たない時間ではあるがその無謀さに免じて暫し時をかけてやろう。」



「ダメ元でしたが本当に承諾して貰えるなんて、ああ。嬉しい…。ふふ。」



「では月に一度満月の日の夜。来るといい。」



「満月の日ですか?」



「ふっ、その方が「らしい」であろう?」



「……ふふ、そうですね。では満月の日の夜に。お茶会を。」






_____________________



【現在】




『…と、まぁあれから数ヶ月。気まぐれから始まった茶会だが存外まだ続いている。


女は余の話を聞くたびに目を輝かせながら嬉しそうに笑っていた。悪い気はしない。


そしてロイヤルミルクティーは旨い。旨いのだが…。」



「ん、そういえば何故なのだ?」



「何故とは?」



「どうしてロイヤルミルクティーなのだ?別に他の紅茶、なんなら紅茶でなくても良かったのではないか?」



「…深い意味はないのですが。吸血鬼さんがよく飲むものと、私が好きなものを合わせたら何かが繋がる気がして…。あと美味しいですし。」



「そこは大事だな。」



「それに紅茶は外せません。私のライフワークといっても過言ではないのです。」



「余には茶葉など何れも一緒に見えるがな。」



「全然違います!ミルクティはアッサムですがダージリンもまた奥深く、ファースト、セカンドフラッシュと、違いを楽しめるとともにグレードや発酵度合い、はたまた農園によっても味が変わるのですよ!それからー」



「ええい、この紅茶オタクめ。」



「褒め言葉です。推し農園教えましょうか?」



「やめてくれ。この前みたいに二時間も語られては堪ったものではない。」


「ふふふ。さて、ところで次はどんなお話をしてくれますの?」



「そうさな、ではあれは三百年前の戦争の時ー」












『どうせ人なぞ瞬きの間に生きて死に去っていくものだ。ならばいまこの刹那、付き合ってやっても良かろう。

女が去るその時まで、戯れに。


ロイヤルミルクティーを飲みながら。』



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