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女神と番  作者: 紫月 あやめ
出逢い編
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-7- 初めての望み

エレイン視点

 正直なところ、魔術の交換の訓練として隊長と手を握るのが、楽しみで仕方がなかった。これには理性が入る余地はない。わたしの体の奥底からの欲求だ。こういう思いを感じてしまうことを、止めることはできなかった。

 わたしが操作できるのは、隊長の前で「楽しみ」を表現しないこと、真面目に訓練に勤しんで隊長の期待に応えること。


 あまりに魔力の相性が良すぎるのかもしれない。入隊式の日、初めて隊長の手に触れた時から、わたしは温かいものに包まれるような感覚を覚えていた。


 今まで、とりあえず人の期待に応えようと生きてきたが、その実、心の奥底は冷え切っていて、本当は自分が何を感じているのか、よく分からなくなっていたことにようやく気付いた。


 自分のことを本当に考えることなんてせずに、親や国が敷いたレールを歩いていた。わたしは、政府が求める魔術が使えるロボットとなっていた。それが、国がわたしに望んだ魔術師像だった。






 わたしには友人というものが、いたことがない。

 幼い頃に魔術の能力を見出され、特別な教育を受けたという点もあるが、どうしても同世代とうまくやることができなかった。共感ができないというか、そういう感じだ。


 連れていかれたパーティーでも、わちゃわちゃと騒ぐ彼女たちを尻目に、わたしは一人で外に出て魔力で遊んでいた。

 見ている世界が違う。

 わたしは、彼女たちより世界が繊細に見えている。

 植物や動物のエネルギーが分かる。動物の言いたいことが分かる。はっきりと認知できるわけではないが、「なんとなく」そうなのだ。魔術師というものは、そういうものだ。


 男の子、お洒落、恋愛。そういうトピックに興味を持つことはなかった。

 世間のあるべき像とは違うと悟ってはいたが、求められる「女の子像」に染まる必要性も感じていなかったので、求められる「魔術師像」を目指した。同世代男性の集団に入ることもあったが、彼らはわたしを特別扱いしたし、なにか心が通じることもなかった。


 塞がっていた感覚が、隊長と手を繋ぐことによって、溶かされていくようだった。手袋を取った隊長と握手をした時、特にそれを感じた。今まで、どれほど自分に「心地よさ」を感じる許可を与えていなかったのか、握手をしていた短い間に心底思い知った。


 だが。

 それとこれとは話は別なのだ。






 隊長が独身であることを耳にした。「その気になったら、いくらでも女が寄って来るのにね」と言っている隊員がいた。それを耳にして、ほっとした自分がいることに気づいて、その自分を否定した。


 あくまで仕事上の関わりである。仕事が彼との唯一の繋がりだ。上司以上の感情を持ってはいけない。

 実際、隊長はわたしに一定のラインを引いていた。その意味をわたしは悟っていた。隊長の明確な意図を見せつけられていた。


 これ以上近づくなと。仕事以上の関わりは不要だと。


 また、入隊してから時が経つにつれ、仕事というものはそういうものだと分かり始めてきたから、わたしはそれを受け入れた。受け入れるしかなかった。


 だから、わたしは、隊長の手を握り、魔力の交換をすることを楽しみにしていた。心の奥底で。決して、悟られないように。






 自分自身のことをどう考えるのか。どうやって生きるのか。

 感情とどのように付き合うのか。どうやって人と共に生きるのか。


 別に、わたしはそれを隊長から丁寧に説かれたわけではない。言葉よりも姿勢が、雄弁であることが多い。魔力を持つ、持たない、関係なくだ。


 わたしは、彼の魔力に触れることで、今までわたしが見失っていて、見ないようにしてきたことに、少しずつ気づき始めた。


 だから、わたしは、隊長をサポートしたい。外側の世界の人間が指示するままに、望まれるがままに生きてきたわたしが、人生で初めて自分の意志で抱いた望みだった。

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