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女神と番  作者: 紫月 あやめ
出逢い編
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-3- はじめての共鳴

隊長視点

 女性魔術師が入隊するらしい、と周りの者がざわついている。


 エレインのことは知っていた。魔術師は希少な存在だが、その中でも女性魔術師は百年に一人いるかいないかと言われている。古くから女性魔術師は女神信仰の象徴とされており、男性魔術師と扱いが大きく異なる。

 彼女が「発掘」された時、世間は賑わった。軍人の家系の貴族であり、身分は申し分ない。と、学生時代に過去の新聞記事を確かめた。彼女のことはトップシークレットとなっているようで、写真など掲載されていなかったし、名前も公表されていなかった。


 軍に入隊してから、仕事の特性上、彼女の噂が流れてきた。魔術も座学も優秀な才媛である、と。軍人の家系に生まれ、幼い頃から政府の管理下で育ったのだ。とても「良い子」に育ち、政府か宗教の広報官にでもなるのだろうか、と少し皮肉っぽい考えを抱いた。

 男性魔術師は数は少ないながらも存在しているから、私はそれなりに自由に育ったものの、彼女はきっとがんじがらめに生きてきたに違いない。


 当然かのように、軍部の魔術師隊に入隊するとのことだった。既に隊長を拝命していた私は、噂通りの彼女のプロファイルを見た。しかし、但し書きがついている。魔力の器は大きいが不安定である、と。

 魔力は男性性エネルギーと女性性エネルギーに分類される。月のものに影響される女性魔術師は、女性性エネルギーの担い手である。男性性エネルギーと女性性エネルギーをうまく統合できれば非常に安定した力を使えるが、それは極めて難しい。柔軟さと脆さは、紙一重だ。






 ――感情が薄い。


 エレインを見て初めて抱いた感覚は、これだった。肩にかからない銀色の短い髪、灰色の瞳の彼女は、まるでロボットかのようだ。彼女が生まれ育った環境に思いを馳せた。

 だが、魔力の質に惹きつけられた――性格は魔力の質に出る。言葉にするのが難しいが、清廉、という言葉が一番ぴったりくる。今までたくさんの魔術師と出会ってきたが、このような感覚は初めてだった。

 

 私がエレインを観察しているのと同様、エレインも私のことを「非常に」観察していた。魔力の質が合っているのかもしれない。魔術師とは繊細な生き物で、感覚が鋭い。


 文献とは異なり、彼女に女性性をあまり感じなかった。ただ、持っていないわけではない。彼女はそれを抑圧しているだけだ。随分こじらせていそう……いや、生まれ育った環境からして、そうなるのが必然なのかもしれない。


 入隊式の間中、私はエレインのことを観察していた。たかが部下一人のことなのに、どこかおかしい、と私自身感じていた。どうしても、気になる。式典が終わる頃には、魔力の相性を確かめたい、という意志が固まっていた。






 式典後、私はエレインを探した。彼女の声は想像していた通りだった。よく通る、澄んだ声だ。

 エレインは素直に私を観察していたことを白状した。こちらも同様のことをしていたが、それはあえて白状しなかった。が、彼女はそれに気づいているだろう。彼女はプロファイル通りに見えた。能力が高い。


 握手のために手を差し出したが、エレインは躊躇した。私は、この一瞬で分かると、確信していた。少し戸惑った後に、エレインが私の手を握る。


 私の魔力が吸い取られるようにエレインに移動した。そして、私から失われた魔力を、彼女の魔力が水が流れるかのように私の体に補填した。

 彼女の魔力に安らかな心地よさを感じたのは束の間、私は交流を遮断した。彼女の手を離す。


「――失礼。そんなつもりはなかったんだが」


 初めて出会った人間に、こんな握手で魔力を渡してしまうなんて、どうかしている。しようと思ってしたわけじゃない。勝手に吸い寄せられたのだ。

 エレインは自らの手を驚いたように見て、指先をひらひらと動かしていた。


「こちらこそ。……こういうことは、よくあるのですか?」


 涼やかな声だが、戸惑いを含んでいた。灰色の瞳が揺れる。


「……珍しいことだな」

「あ、えと、私もしようと思ったわけではなくて――」

「分かっているから、安心してほしい」


 若い彼女は頷いて、私の魔力の残骸を探すように腕を撫でていた。


「……不愉快なら、元に戻すが」

「いえ、大丈夫です」


 彼女は手を振って、大げさすぎるほどに拒否した。


「わたしの方こそ、もし不愉快でしたら――」

「大丈夫だ」


 私も即答した。






「――なんだあれは」


 エレインの魔力はじんわりと染みるように体に広がっていき、私の魔力と共鳴して、増幅しているような感覚を抱いている。今も観察を続けているが、こんなことは人生で初めてだ。

 彼女の性別がそうさせるのだろうか? 女性魔術師とは初めて出会ったから、分からない。だが、他の隊員は、彼女の魔力に対して私ほどに興味を持っていないように見えた。そして、実際に彼女を観察していても、彼女の魔力は他の者には異常な動きを見せていなかった。


 異常に動くのは、私だけなのか――?


 襟を正して、椅子に座り直した。なにも、今日明日でどうにかする問題ではない。ゆっくり構えて行こうじゃないか。きっと、エレインは、あの現象をあまり理解していない。


 しかし。それにしても。


 エレインの魔力があまりにも心地よすぎる。……ハラスメントを決してしないように、私は己を律した。

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