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女神と番  作者: 紫月 あやめ
出逢い編
2/61

-1- 入隊式

 真新しい濃紺の軍服の生地は固く、とても堅苦しく感じた。首が苦しい。慣れることができるのだろうか。軍部魔術師隊の制服である。


 わたしは軍人の家系に生まれた。だが、待望の男子はついに生まれず、両親はわたしにその役割を担わそうとしていたし、わたしもそれを望んだ。幼い頃は、親の期待に応えたいものだ。


 わたしには非常に珍しい能力が備わっていた。わたしは()()を持つ。魔力を持つ女性は百年に一人とも言われ、信仰により"女神"と呼ばれることがある。


 女神信仰が根付いているこの国では、女性魔術師は女神に例えられる。だから、そういった浮ついた言葉をかけてくる人は多かったが、反面、裏でなんと呼ばれているかも、わたしは知っていた。

 光が強い分、闇は強くなる。全ての人間がわたしの味方であるわけがない。


 軍人の家系に生まれた魔術師であるわたしの進路は、選択の余地なく、既に決まっていた。






 入隊式の日。無感情で式典に参加したわたしは、壇上に上がって来る隊長――鳶色の髪と瞳をした、軍人らしい体格の男性――の姿を見て、目が離せなくなった。


 なんて安定した――整然とした魔力の持ち主なのだろう。


 魔力の性質は、本人の性格がよく出る。嫉妬深い人間の魔力は泥のようだし、軽薄な人間の魔力は薄っぺらい。わたしの魔力が他人からどう見えるのかは分からないし、知りたくもないが。

 わたしは入隊式の間中、隊長の魔力の観察を続けていた。食い入るように見たかったが、他人の目があるので、そっと観察していた。心が動いている自分に気づいた。ひどく、惹きつけられる。魔力の質が良いからだろうか。






「君」


 入隊式を終え、次のカリキュラムへの待機中に、隊長がわたしに話しかけてきた。目線が合う。何故か、ぴりっと、一瞬金縛りにあったような気がした。彼はわたしより一回りくらい上の年齢に見えた。

 隊長は精悍な顔に朗らかな表情をのせていた。


「わたしのことを見ていたね」

「――大変、失礼いたしました」

「怒っていないよ」


 隊長は明るく笑って、雰囲気を和ませようとしているのが分かった。わたしは本音を話すことにした。これほどの魔術師が、わたしが観察していたことを察していないわけがない。


「あまりに整然とした魔力の持ち主だと感じ、こんな方と出会うことが初めてだったため、つい見つめてしまいました。申し訳御座いません」


 隊長は小さく驚いたように見えた。そして、今、隊長もわたしのことをまじまじと観察している。実は、入隊式で隊長もわたしを観察していたことを、知っていた。だから、話しかけられても必要以上に驚かなかったのだ。


「謝らなくていい。ありがとう。君の魔力も美しい」

「――え――」

「ランスだ。よろしく、エレイン」


 魔術師同士の握手は、お互いの魔力の確認行為に相当する。それを知っているのに、差し出された手のひらを握るのを、一瞬躊躇してしまった。触れても良いのだろうか。隊長は白い手袋をはめていた。

 隊長はわたしの戸惑いに気づいているのか、気づいていないのか、わたしが手を握るのをじっと待っていた。


「――よろしくお願いいたします」


 隊長の手を握った。手の大きさが違って、わたしの手は包み込まれるようだった。次の瞬間、彼の魔力がぐっとこちらに押し寄せてきた。まるで、わたしに引き寄せられるかのように。


 凍り付いていた思考、凍り付いていた心。それが、優しく包み込まれ、揺らいだのを感じた。

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