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プロイセンの老将

「お話中に失礼致します。王太子殿下、それに聖女様」

 二人がルーデンドルフ公爵邸への訪問を決めた時、二人の前に老齢の黒い軍服姿の男が現れた。


 右目に片眼鏡モノクルを掛け、白髪の凛々しい老紳士という風貌のこの老軍人の名は、エーデルラント軍元帥ヘルムート・フォン・モルトシュタイン伯爵。

 今年で六十二歳を迎える彼は、その生涯を軍部一筋で通し、プロイセン軍の軍制改革に着手。国王の下で指揮系統を一元化された軍隊を作り上げる事でフリードリヒ王の治世を外敵から守ってきた、プロイセンが誇る歴戦の名将である。


「これはモルトシュタイン先生、ご無沙汰しております」


「ふふふ。王太子殿下、先生は止して下さい。あなた様に教鞭を取ったのは昔の話です」


 モルトシュタインは昔、レオンハルト、そしてユリウスに戦術や戦略と言った戦争指導者に必要な教養を伝授した家庭教師でもあった。

 その事から、レオンハルトは今でもモルトシュタインに尊敬と敬意を持って“先生”と呼んでいたのだ。


「聖女様もますますお美しくなられたようで見違えました」


 先生と生徒という間柄だったレオンハルトとユリウスとは違い、聖女候補として教会や修道院で暮らしている事が多かったシャルロッテとは、モルトシュタインはあまり会う機会が少なかった。


「ふふふ。相変わらず正直なのねぇ、元帥」

シャルロッテは聖女らしからぬ豪快な笑い声を上げる。


「あはは。聖女様もそういう所は相変わらずのようで」


「ところで元帥、何か用があったのではないですか?」


 レオンハルトが問うと、「おっと、そうでした」と言いながら用件を告げる。

「今夜、九時に大事な話があるので、玉座の間に来るようにお二人に伝えてもらいたいと国王陛下より承りましたので、それをお伝えしようと思いまして」


「父上が? 一体何だろう?」


「きっとユリウスの件じゃないかしら」


「あぁ、なるほど。きっとそれだね」


「では私はこれにて失礼致します」

 モルトシュタインは一礼してその場を立ち去る。


 この時、レオンハルトとシャルロッテは気付かなかった。

 モルトシュタインが背を向けた瞬間、薄っすら不敵な笑みを浮かべた事に。



◆◇◆◇◆



モルトシュタインがレオンハルトとシャルロッテと別れた後。


「ご協力に感謝致します、モルトシュタイン伯爵」

ユリウスが姿を現してモルトシュタインの前に立つ。


「私は王国のために最善と思う道を選んだまで。礼など無用です」


「首尾はどうですか?」


「全て閣下の計画通りです。今夜、外務大臣シェーンハウゼン伯爵の邸で晩餐会が開かれます。そこに主立った王国貴族が集まる予定です」


「つまりそこさえ抑えれば、国権は掌握したも同然という事ですな。やはり外務大臣が主催する晩餐会ともなると、諸侯の集まりが良い」


「左様ですね。シェーンハウゼン伯爵が我等の同志とも知らずに。……しかし公爵閣下は本当に宜しいのですか? 今ならまだ引き返せますよ。レオンハルト殿下は閣下の幼馴染みではありませんか」


「くどいぞ、モルトシュタイン伯爵。私の決意は変わらん。全ては亡きアウグスタ王女殿下のために。そして我が王、カール陛下のために」

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