兵站元帥物語
本作は、樽見 京一郎様執筆の
『オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』
URL:https://ncode.syosetu.com/n3719hb/
についてのレビューです。本来ならば当該作品のレビューに投稿すべきでしたが、文字数を大幅に逸脱してしまったため、樽見様の許諾を得てこちらに投稿します。
前置きを。
本レビューでは、いわゆるネタバレに触れる。
また、「オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~」作中では、人とその他の知的生命体が明確に区別しているが、全て「人物」あるいは「登場人物」と表記する場合がある。性別も同様となる。
ご承知おきいただきたい。
物語は凄惨な民族浄化で幕を開ける。そこで本作の二人の主人公が出会う。一方は大国の王として、もう一方は哀れな敗残兵として。二人は男と女であった。昨日まで同胞だと思っていた人々から石もて追われた女は復讐を誓い、王は復讐に手を貸すことを約束する。
……開幕から重い話が続くが、全体として陰鬱な印象を与えていないのは、世界観やその場の情景あるいは登場人物の心理的描写が絶妙な間合いに入ってくるためであろう。命を賭して復讐を誓った女の開き直りと王の慈愛があるからかもしれない。第一話は男と女の出会いの場面のみとしては長いとみる向きもあろうが、決して冗長な語り口ではなく、第二話第三話と同様の文章量となるが、私としては長いとは思えなかった。むしろ「読みやすくここまでまとめたのではないか」という印象がある。
本作を特別たらしめているテーマに「兵站」がある。兵站などと一口で言っても、多岐にわたる概念を総括している言葉であり、このレビューで説明するにはとても文字数がたりないし、私にそれを行う能力はない。このテーマについての記述が本格化するのは第二話からであるが、第一話から片鱗が見えている。第二話では王の計画に必要な手駒として騎兵旅団を女に与えることになる。その騎兵旅団を編成するための兵站話から始まり、本作品の世界が広がっていく。
私としては兵站話はというのは、ともすれば小説としては無味乾燥で冗長な説明文になってしまうのかと危惧したが、然に非ず、物語の一部としてしっかり組み込んである。世界観の提示、登場人物の心情描写や状況説明の一部として読み込ませる部分として成立している。
戦争に欠くべからず兵站ではあるが、ここまで重点をおいて記述し、かつ物語の一部として成立させている小説はそうそうないであろう。
本作の物語としてのアイディアは、ネットで小話の種となってしまった「エルフの森(村)を焼く」があるのだろう。しかし、そのような小さい種を植え育て世界樹のごとき域にまで達しているのは、ひとえに作者の力量が優れていることを示している。
一読者として完結が待ち遠しくある作品である。