第7話「農業の知識」
「では続いて、今後の方針についてです。
まずは国の立て直しを図ることが重要で、そのために何から着手すべきかを決定したいと思います。」
シウバ様が新たな王に決まったのもつかの間、すぐに次の議題に移る。
ナージャのこういった手際の良さは素晴らしい。
イルシャが傍に置いていたのも納得できるというものだ。
国の立て直しをするにはどうするべきか。
といっても、帝国内が戦場になったわけでもないので大荒れしているわけでもない。
トップが変わってバタつくだろうから落ち着くまでが範囲内だろうけど、果たしてそれだけでいいものか。
イルシャによると、今までは特にこれといった政策を行っていないらしい。
特別裕福ではなく、かといって貧困しているわけでもない。
普通のどこにでもあるような国だ。
そこに神子の力を持ったイルシャが存在したことにより、周辺国との戦に勝てるようになっただけとのこと。
それなら改善の余地はいくらでもありそうなものだ。
せっかくフェルト王国と友好国になったのだから、それを使わない手はないな。
となると、1つの国ではできないことに力を入れたい。
特徴がそれぞれ違うから、同じことをやろうとしても出来ないだろうしな。
フェルト王国は大きな河が近くに流れている。
しかしカッツェ帝国は鉱山に囲まれている。
こんな具合だ。
待てよ。
それぞれの特徴を生かして、生産力を上げれないだろうか。
「シャーリー、カッツェ帝国周辺の鉱山から武器の素材になる物は取れるのか?」
「取れるわよ。うちの工房も輸入したり取りに来たりしてたから。」
それならカッツェでやることは決まりだな。
次はフェルトでできることだ。
「アーニャ、フェルト王国の農業ってどれくらい普及してるんだ?」
「農業?あんまりしてないわね。食べ物は輸入品が40%くらいね。」
さすが姫様、詳しくて助かる。
だとすると川の水を利用して農業を発展させられるだろう。
そんなことを考えていると、シウバ様が不思議そうな顔をして覗き込んできた。
「タローとやら。
余には今の会話の真意が分からぬゆえ、教えてくれぬか?」
ナージャは顎に手を当てて「なるほど」と、俺のやりたいことを理解してくれたようだ。
しかしアーニャもイルシャも、シウバ様と同じような顔をしていた。
方法はこれから調べればいいとして、脳内で解決する癖を直さないといかんな。
「まず国の立て直しとして、カッツェとフェルトを2つで1つの国として考えました。
理由としては、地形の違いからそれぞれでできることが限られることが挙げられます。
そこで着目したのは物の流通を今以上に強化して、互いの国を豊かにできないだろうか、という点です。」
ここまではついてきているかを確認するためそれぞれの顔を見ると、全員が頷いた。
俺もまだざっくりとしかまとめられていないから、話しながらまとめていこう。
「フェルトに関してはカンド川の水を利用して田畑を作り、農業に力を入れていけます。
カッツェに関しては鉱山に囲まれているので武器や陶器の作成ができます。
それぞれの特性を生かして見合った職業を複数作ることにより、戦えない人でも職業に就けないことがなくなりますからね。
作る職業の中で、この二国をつなぐのに重要となるのが運送業ですかね。
カッツェからは物資を、フェルトからは食物を、それぞれに運ぶための仕事です。」
なんとか形になってきた気がする。
実際にタロー隊にも平民出身者が多かったり、街には隊に入らずに平和に暮らしているだけの子どももいる。
そういった人たちが、戦わなくても自分の力で稼げるようにするための案でもあるのだ。
誰しもが職に就けて笑顔で暮らせる平和な国。
それがシャンドラ様の意向を汲んで、現世も知っている俺が掲げる未来だ。
「ある程度は理解した。しかしタローよ。
それだとその、うんそう?とやらが一方的に得をするように思うのだが。」
「職業によって差がでてしまうのは私も気になるわ。
斡旋しようとする奴が出てきてもおかしくないと思う。」
シウバ様とアーニャが指摘してくれた。
言われてみればそうか。
どうしたものかな。
「それならば、各国で運営する仲介所を設ければよろしいのでは?」
スッと手を挙げて申し出るナージャ。
形は違えど、買い取ってくれる冒険者ギルドみたいなものか。
この時代でそんな案が出てくるとは驚いた。
二次元離れして5年も経つと、そういう発想が鈍くなってダメだな。
全ての物品をギルドで買い取り、必要なものはギルドから買う。
そして運送もギルドで行い、各国のギルド間で売買する。
それを民間でやってしまうとアーニャの言う通り斡旋しようとする奴が出てきてしまうから、ナージャの言った国で運営するというのが正解だろう。
国営なら得た利益は次の発展に向ける資金になるし、無駄がなさそうだ。
となると各国のギルドで大量の人員が必要になるな。
買い取り、販売、運送、管理もろもろやらなくてはならない。
ブラック企業にしないためにも、相応の人数は必要だ。
「余にはそんな発想はなかった。
民が笑って暮らせるのであればその計画、全力で取り掛かろう。」
シウバ様は期待に目を輝かせていた。
力を合わせて何かをやってみるというのは、時代に関係なく楽しくなるものだな。
まず最初に俺のやるべきことは、シャンドラ様へ報告だろう。
決めたことを手早くまとめ、承諾を得たいという文章を添えて書き終えた。
以前道場のために書いた時も思ったが、企画書をまとめている気分だ。
現世で普通に社会人として生きていれば、いつかは通った道だろうか。
まさか戦国時代でやる羽目になるとは思ってもみなかったが。
それをスクードにシャンドラ様の元へ届けてもらうように頼み、見送ったところで今日は解散となった。
短いようでとても長い1日だった。
シャンドラ様から承諾が得られれば、これからもっと忙しくなるぞ。
返事を待っている間に、農業について調べておくか。
田んぼ 水の引き方
っと。
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その夜、あてがわれた部屋で農業について色々調べていると四輪農法というものを見つけた。
色々順番で植えていくと良いらしい。
しかし農業の知識なんてゼロな奴がいきなりこんなことを言い出したら、俺だったら何言ってんだコイツって思うよなあ。
方法は良くても、納得させられないんじゃ意味がない。
あまりやりたくはないがシャンドラ様に一芝居打ってもらうとか、その辺も考えておかないといけないな。
「タマタロー。難しい顔をして何を悩んでるの?」
どうしたものかとパソコンの画面とにらめっこをしていると、アーニャが俺の肩に両手を置き後ろから画面を覗き込んできた。
我に返り声の方に顔を向けると、目の前にアーニャの顔があった。
いつもより数倍近いな。
うちの姫様は剣は優秀なのだが、私生活はガードが緩すぎると思う。
俺だって中身はともかく、この世界では健全な15歳なわけで。
こんな至近距離で可愛い女の子から触れられたらドキッとしてしまう。
「農業について調べてるところだ。
農業の知識がない俺がどんな案を出したところで、実績がないと受け入れてもらえないだろうなと悩んでいてな。」
「確かにそうかもしれないわね。
タマタローに剣を教わるよりも、スクードに教わった方が実践的だし効率的だもの。」
言っていることは間違っていないのだが、もう少しオブラートに包んでもらえませんかね。
コミュ障だったおかげもあって、俺の精神力のステータスはゼロに等しいのだから。
豆腐メンタルと言っても過言ではないぞ。
「私がタマタローの言うようにやってみて、結果が出たら説得力も出るんじゃない?
私も役に立ちたいし、互いにメリットはあると思うわ。」
姫様が農業って、絵的にどうなの。
管理も大変だろうし、できても家庭菜園が限界だろう。
しかし実際その案はアリだ。
アーニャの口添えがあれば、農民たちを納得させることは可能だろう。
そしてシャンドラ様に迷惑をかけることもない。
家庭菜園レベルからのスタートにはなるが、そこから徐々に広げていけばいい。
「分かった。まずは家庭菜園から初めてみるか。」
「何から準備したらいいかしら?」
準備するものか。
家庭菜園 準備 検索。
こうしてあまり農業に適していないカッツェ帝国で、家庭菜園を始めることとなった。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!