第31話「これを楽しみと言わずにはいられない」
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甘味処を開業してから日は流れ。
オープン当初こそ毎日のように手伝ってはいたものの、今となってはほとんど手伝いが要らない程に回せるようになってきた。
週に1度見回りも兼ねて隊の誰かが1日入る程度で済んでいる。
これならもう後はある程度時間が経ってから団子屋にアイデアを売りまくれば、売れる度にお金が入る仕組みだ。
そして今ある場所では新しい事業を開始できる。
このサイクルができあがれば、継続してかなりの収益が見込めるだろう。
現代日本でやろうとすると大手の会社が多額の金額を見せつけて斡旋しようとすると思う。
だがここはリカンダ、時は戦国。
団子屋はそれぞれ自営業であり、今後も顧客を付け続けるためには他の店舗に負けじとアイデアを買うしかない。
足元を見ているようで忍びない気持ちはあるが、俺たちだって遊びでやってるわけではない。
これはビジネスなのだ。
団子屋を潰したいわけではないのでそれなりに安くはするつもりだし、月額いくらという決まりを作ってもいい。
そこはルミエと相談して決めておくとしよう。
さて、そうこうしているうちにアーケからの人員が到着した。
先に到着したのは馬を飛ばして来た兵士だったけど。
あと2日もすれば農業の人員も到着見込みだと言っていた。
ひとまずはフェルト王国復旧のために、そちらに向かってもらうとしよう。
住む場所に関してはフリードに手紙を送った時点で既に手を打ってあり、兵舎と仮住宅の建設は抜かりない。
イルシャがなかなか帰ってこれないのは、そちらの仕切りを買って出てくれたからでもある。
この前試食の日に帰ってきて、その晩のうちにフェルトに戻ってからしばらく会ってないな。
また戻ってきたら謎の成分をチャージさせてあげるとしよう。
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その日の夜、前回よりもやつれた表情でイルシャが帰ってきた。
実際にはやつれているわけではないのだが、まあ理由はおおよそ検討がつく。
「タ・・・タロー成分が・・・ッ!」
「はいおいでー。」
最後まで言わせずに両手を広げてイルシャを迎え入れる。
というかその言い方やめてくれ。
中毒性高そうに聞こえるから。
俺にくっついた瞬間に幸せそうな顔で匂いを嗅ぎ始めるイルシャ。
変態か。
いや、もともとわりと変態だった。
「あら、今日はイルシャ帰ってきたのね。それならアタシはホリィと寝ることにするわ。」
もう見慣れた光景と言わんばかりのアーニャの対応。
普段から一緒の布団でいちゃいちゃしてるから、アーニャは不足していることはなさそうだ。
まあ肝心の一線は未だに超えていないのだが。
だって子どもができてしまったらアーニャとお別れしなければならないんだぞ。
そんなの俺には耐えられない。
脳内で言い訳しつつ、枕を取りにいくイルシャを見送った。
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「タロー、私はいつでもウェルカムだからね。」
夜同じ布団に入った際、イルシャにそんなことを言われた。
昔日本でイエスノー枕とかあったらしいが、この子の中にはノーという選択肢はないらしい。
だがまあアーニャともまだだし、先にというわけにもいかない。
なんでもアーニャが1番と決めているのだ。
「焦らしプレイってやつね・・・!それはそれで・・・ウフッあいたっ」
「うふじゃねえ。」
思わずチョップをかましてしまった。
なんとなくそんな気はしていたのだが、今回のことで確信した。
イルシャは意外にもドがつくほどのアレな奴だ。
普段の言動からは想像もつかないが、2人になるとそれが顕著に分かってしまう。
まあなぜ分かるのかと言われれば、数多くの経験(ただし2次元に限る)をしてきたからだ。
魔法使いにドがつくほどの受け身はハードルが高いぜ・・・。
三途の川の向こうのカーデラ様にまだ来るなと怒られて目が覚めた。
俺だってまだ会うには早すぎると思っているのだが、イルシャと寝ると毎回あの川を見せられるのだ。
もう自分のしぶとさには自信を持てるくらいには慣れたけど。
たまにはシャーリーも呼んでみようかな。
リビングに出るとアーニャとホリィが何やら唸っていた。
何事かと声をかけると、夏も終わって家庭菜園の野菜の収穫ができなくなるから次はどうしようと考えているらしい。
そういうのはジャークに相談すればいいと思ったのだが、今日は仲介所の仕事を確認しに行っているようだ。
こういった仕事の確認を俺以外にもできるようにと進めていた案件だが、建設から携わっているだけあり案外皆すんなりとできるようになってくれた。
今ではローテーションでいろんなところを見に行ってくれている。
脱線したが、明日にはアーケからの人員が到着するので面倒を見る時間もなくなると思う。
なので一旦ストップして、落ち着いたらまた再開すればいいと伝えると納得された。
誰も面倒を見ない植物がどうなるかなど、俺が言わなくても分かるだろう。
明日からフェルトに向かい、帰ってこれるのはいつになるか分からない。
そう考えたら今日中にやれることはやっておかないとな。
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昼間はアーニャとデートにでかけよう。
明日からどれくらいの期間かかるか分からないので、次のデートがいつになるかも分からないからな。
といってもカッツェでは大体のお店には行ってしまっている。
それでもアーニャと一緒なら楽しいことには変わりないのだけど。
せっかくなのでとクレープを買いに行った時には少しだけおまけしてくれた。
2人で半分ずつ分け合いながら食べ、その後は小物や野菜の種など色々見て回る。
ジャークが園芸用品は大体持っているのでそのあたりは必要ないのだが、アーニャも自分のものが欲しいようだ。
自分でやると言い出した以上、面倒を見れる時には自分で見るとのこと。
そういうことなら色々購入しよう。
アーニャのやりたいことは尊重したいからな。
色々と目移りした結果、若干量が多くなってしまったので運送業者を呼んで運んでもらうことにした。
俺たち自ら国営の事業を利用することで、周りにも使いやすくしてもらうにはちょうどいいか。
荷物を業者さんに頼んだあとは、シャーリー工房に向かった。
念のため先にアーニャには伝えておいたのだが、今日はシャーリーを家に招待して一緒に寝ようかと思っている。
もちろん本人がいいと言えばだが。
明日からフェルトで会えなくなるし、自分はフェルトに一緒に行くから仕方ないと許可がもらえた。
「おおお、お誘いは嬉しいのだけど、いきなりすぎて心の準備が・・・」
ナニをするでもないし、ゆっくりと過ごしたいだけだと伝えると恥ずかしがりながらも承諾してくれた。
珍しくあたふたするシャーリーを見れたな。
普段は仕事に一生懸命というか、そのほかに興味がなさそうというか。
比較的冷静な人だと思っていたが、この手の会話には弱そうだな。
まあ今まで実際に恋愛などしたことないと言っていたし、俺のためにお見合いは全て断っていたし仕方ないか。
ひとまず仕事が終わったら家に来てくれるとのことで、先に帰ることにした。
アーニャと手をつなぎながら帰路を歩いているのだが意外にも上機嫌だ。
2日連続で一緒に寝られないものだから不機嫌になってしまわないか心配だったのだけど。
どうしたのかと聞くと、明日からの農業が楽しみで仕方ないとのこと。
家庭菜園でも楽しいのだから、きっともっと楽しいと期待を膨らませている。
残念だがアーニャ。
フェルトの広大な土地に大量の田畑や農場を作るんだぞ。
楽しいと思えるのはたぶん最初だけで、またすぐに「ぐへぇ」とか言い出すだろう。
まあそんなアーニャも可愛いから良いのだけど。
なんだかんだで最後まで頑張ってくれるしな。
その夜、シャーリーも晩御飯から合流。
お風呂に入って寝間着に着替えて俺の部屋に来た。
なんというか、いつもの作業着を見慣れているからというのもあるんだが。
元々美人ということもあり、お風呂上りも相まってとても魅力的だ。
部屋に迎え入れる際、どきどきしすぎて動きが硬くなってしまったほどに。
アーニャもイルシャもそうだけど、現世では考えられないほど魅力的な女性に囲まれている。
まるでやっていたエロゲの主人公にでもなった気分だ。
あの主人公たちはこんなにも幸せな状況に居るというのに、なぜあれほど鈍感なのか。
優越感に浸りたいとかそういうのではないのだが、もったいないと感じてしまうね。
シャーリーと2人して緊張しながらも手を絡ませ、色んなことを話しながらゆっくりと過ごす。
初心な部分がありとても恥ずかしがりながらも、笑顔で楽しそうに話してくれた。
ずっとこうしたかったと、思い切り抱きしめられた時は理性の蓋が吹き飛ぶかと思った。
あぶねえあぶねえ。
日々の疲れからか先にシャーリーが寝てしまい、俺もゆっくりと瞼を閉じた。
今日は三途の川を見ずに済みそうだ。
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翌日。
昼前にアーケからの農業関係者がカッツェに到着した。
教えられる人と作業する人と合わせて、70人も送ってくれたのか。
フリードにも頭があがらないな。
アーケの農業に支障が出ていなければいいが。
俺たちも最後の準備の途中だったので、ひとまず先にフェルトに向かってもらうことにした。
イルシャが居るはずなので、そちらを頼ってもらうとしよう。
残りの準備はジャークが率先して仕切ってくれたので、すんなりと終了。
しばらくカッツェにはルミエとナージャしか残らないことになる。
弟子の事もあるから長くは離れられないのは仕方ないが、家の掃除もやるとやる気満々だった。
ダッカスとアルシェも揃って出発。
2人には農業に携わる人たち全員の料理を作ってもらうことになるから、だいぶ大変な仕事になるかもしれない。
それでも喜んで引き受けてくれた2人には感謝だ。
アーケの料理もこの際覚えてもらえたら嬉しいな。
普段アーケに在中していたというエリーゼも着いてきた。
というより俺の馬に一緒に乗り込んできた。
前にちょこんと座り、俺にもたれかかるように身体を預けてきたのを見て、アーニャもクスクスと笑っている。
ルミエのジト目が若干気になるが、なんでこんなに懐かれてしまったのだろうな。
決してロリコンではないけど、まあ悪い気はしない。
ダッカスとアーニャはやる気満々といった表情。
これから新たな農業を体験できるのが楽しみなんだろう。
かくいう俺も楽しみではある。
この事業が発展したら、どれだけフェルトが潤うだろうか。
今までの事業だけでも生活がガラリと変わったのだ。
これを楽しみと言わずにはいられない。
「それじゃあ出発だ!」
カッツェにしばらくの別れを告げ、フェルトへと帰還する。
次に戻ってきた時には、マイホームに住んだり結婚したりだろうな。
それもまた楽しみで、これからの大きなモチベーションだ。
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