第30話「いつもこんなに大変な仕事をしているのか」
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試食会をした日からの準備期間を経て、いよいよオープン当日。
開店準備のために朝から皆で店舗に行くと、すでに数人のお客さんが並んでいた。
10時オープンで、まだ朝8時だというのに早いな。
新しいものに興味が沸くのは日本人と同じだな。
ナージャの面接によってこちらに回してもらった人たちとの挨拶も終え、全体的な流れの確認を行う。
アルシェが調理場に入り、4人に付きっきりで作り方のコツなどを教えていく。
ホールに関してはレジがメインになるので、こちらはルミエが教育の担当をする。
ゴミなどの片付けをジャークとシェイミが中心になって教え、入り口の呼び込みと中とのコミュニケーションは俺とアーニャが担当。
レジをある程度覚えたらレジ1、ホール2、入り口1の振り分けをしていく予定だ。
初日ということで俺たちも全力でサポートに回っているが、ある程度経ったら完全に任せる。
そのためには今の8人の2~3倍は欲しいところだな。
休憩や休みを回すためにはそれくらい必要だし、人件費は経費ではないのでいくらかかってもいい。
日本で飲食店勤務だったり経営側に回ると、人件費も含めたうえで経費は抑えろと言っているイメージがある。
だがその実態は長時間労働、公休の不足、休憩をまともに取れない、などのブラック企業の要素マシマシになる。
なのでいくら使ってもいいとは言わないが、全てがきちんととれる職場にするためなら構わない。
ということをナージャには説明し、納得されている。
人員が増え次第こちらに回してくれるだろう。
あとはお客さんの中でこの仕事に興味が出る人とか居ればいいのだけど。
全ての準備が滞りなく終了し、いよいよオープンの時間間際。
中の作業と説明に必死になっていて気付かなかったが、外に出て驚愕した。
夏と冬のオタクの祭典を想起させるかのような長蛇の列。
試しにシェイミにどこまで続いているか見てくるように頼むと、少し離れた仲介所の前まで並んでいたようだ。
これは朝一から気合い入れていかないと捌ききれないぞ。
その様子である程度の忙しさを悟ったアルシェがたい焼きを既に焼き始め、できあがったら鉄板の上に置いて冷めないようにという素晴らしい機転を見せた。
自分はその作業の指示をこなしながら、クレープの生地を何枚も焼いていた。
「ははっ、すっげえなアルシェ。」
「隊の皆が子どもの頃、食事ごとにワガママばっかり言ってたので大量の作業を最速でこなすのには慣れてるッスね。
僕らには見慣れた光景ッス。」
「もう成長してきたんだから、その恩は仕事で返そう。
さあオープンするぞ!!」
「「おおー!!」」
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現世でアルバイトの経験なんてなかったが、こうして皆で協力してお店を回すというのはとても楽しい。
アーニャが入口から次は何人と俺に指示を出し、俺が店内の食べている様子を確認して何分くらいと返す。
それを受けたアーニャが「席が空くまでによければ先に聞いて作ります」、「持ち帰りもできますよ」などの上手い言い方でお客さんを逃さない。
空いたテーブルはシェイミがすばしっこさを存分に発揮して最速で片付け、ゴミはジャークがまとめて回収。
こと数字に関しては最強なルミエがオーダーを聞いただけでいくらか判断しレジを回し、オーダーを受け最速で指示しながらクレープ生地を焼き続けるアルシェ。
そんな超連携もあり、長蛇の列は瞬く間に少なくなった。
およそ3時間ほど続けただろうか、ようやくお客さんの入りがまばらになってきた頃にアルバイトさんを半分ずつ順番に休憩を取らせた。
もちろん好きな商品の賄いつき、明日希望する人にはアルシェが作るのも可だ。
ホールの様子も問題なさそうだったので、休憩室で話を聞いてみた。
忙しいけどお客さんの笑顔や、美味しいの言葉がとても嬉しい。
きちんと休憩もあり、こんな美味しい賄いが食べられるのだから疲れなんて吹っ飛ぶ。
アルシェさんかっこよすぎ。
ルミエさんの記憶力半端ない。
アナスタシア様の対応がとっても素敵。
などなど、色んな意見があった。
俺自身は大したことをできていないが皆が褒められているのは聞いてて嬉しくなる。
電気もないので16時の閉店まで、俺も皆に負けないように頑張ろう。
15時を過ぎて隊のメンバーも休憩を徐々に回し、最後にアーニャが休憩に入るために俺が交代。
コミュニケーションを取るのはあまり得意ではないが、リカンダに来てからは人と話す機会はかなり増えた。
アーニャ程とはいかないかもしれないが、頑張ってやってみるとしよう。
交代した矢先、シャーリー工房の皆さんが先頭に並んでいた。
「シャーリー、来てくれたのか!」
「ちょうど作業に一区切りついたところで、せっかくチケットも貰ったことだしね。」
「ありがとうな。チケットをレジのルミエに見せてくれれば大丈夫だから。」
「分かったわ。」
中に居るジャークに4人と伝えると奥のテーブルが空いていると、すぐさま案内してもらえた。
そのままレジに誘導し、注文をするシャーリーたち。
前回会ったのが婚約のくだりの時だったので若干の気恥ずかしさはあった。
それに加えて普段見慣れている作業着ではなく私服に着替えてきてくれたのもあり、かなりドキドキしてしまった。
それでも対応はきちんとできたと思う。
顔なじみで最初の1人をこなせたのは大きいな。
この調子でもうひと頑張りだ。
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「ありがとうございましたー!!」
最後のお客さんが退店し、ホール皆でお見送り。
怒涛の1日と言っても過言ではない初日の営業が終了した。
アルシェが指示しながらキッチンの片付けを進めていき、ルミエはレジで売り上げの勘定。
アーニャと俺もホールの片付けに加わり、皆で一気に片付けた。
途中緩やかになった時間があったものの、最初から最後までお客さんが途切れることはなかった。
15時を超えてから終了までの1時間は再びピークと呼べる入りもあり、大忙しだった。
普段の営業時間をもう少し長めにできればもう少し売り上げも見込めるのだろうけど、電気がないんじゃこれが限界だろう。
お昼時は普段はもう少し緩やかになるだろうから、そこで休憩は取ることができると思う。
牛丼屋の経験で言えば、あと2日は同じくらいの忙しさはあるだろうけど。
ひとまずはアーケから来るまで時間があって手伝いもできるし、人員の補充は間に合うかな。
「今日の売り上げは3万2400ベルですう!」
レジの締めが終わったルミエが大きい声で発表した。
現代日本でいえば桁を1つあげればいいくらいの認識なので、単純計算32万ということか。
単価の割にはかなりいったな。
あれだけの行列や第2ピークもあったにも関わらず、全てのお客さんを逃さずに回せたのが大きい。
手伝ってくれた皆にはお給料を上乗せしてもらうとしよう。
にしても店舗で働いた経験などなかったので、だいぶ疲れた。
日本で飲食店で働く人には頭が上がらんね。
何気なく利用していたけど、いつもこんなに大変な仕事をしているのか。
大変な仕事なのにあんなに笑顔で頑張って凄いわ。
こうして働く立場になってみると、見えてくるものって意外と多いんだな。
アルシェの指示のもとキッチンの締めも終わり、火の消し忘れなどもきっちりと確認。
これで本日の業務は終了だ。
「みんな、お疲れ様でした。
初日で大忙しだったけど、頑張ってくれてありがとう!
また明日からもよろしくお願いします。」
最後に俺の締めの挨拶で解散となった。
皆と今日の出来事をあれこれ話しながら家に帰る。
一見完璧に見えていたアーニャやアルシェも、実は小さなミスをしていたようだ。
まったく気付かなかったけどな。
ひとまず初日は大成功と言っても過言ではないだろう。
これから軌道に乗せるまで頑張っていこう。
この味と新しい物がもっと広まれば、かなりの利益を生むはずだからな。
そのビジョンは既に今日1日で見えた。
あとは結果がついてくるだけだ。
達成感と充実感、そして疲労も感じながら家へと向かう。
国のために、間違いなく前に進んでいると確信しながら。
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