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第3話「隊の名前は」


時刻は16時。

施設の子どもたちに別れを告げ、再び謁見に来ていた。


「タマタローよ。何を成すのか、聞かせてみせよ。」


昼間と同じく渋くてカッコいい声で促す国王のシャンドラ様。

弱小国とはいえ平和を掲げる国の盟主であり、民からの信頼も厚いのは街で確認済みだ。

どうせなら、そんな優しい人物をさらに大きな世界へと押し上げてあげたい。

ここに来てまだ数日しか経っていないが、そんな気持ちすら芽生え始めていた。


「はい、雨を降らせてみせようかと。」


その言葉に、初見から俺のことを軽蔑の目で見ていた男がハッと俺にも聞こえるように笑った。

「雨だと?こんなに晴れてるってのにか?!

そんなことできるわけねぇ!!」

「控えよ、オルネス。」

オルネスと呼ばれた男はその言葉に不機嫌そうにしながらも従い、一歩下がった。


「して、どのように雨を降らすというのだ。」

シャンドラが興味津々といった様子で聞いてきた。

どのようにと言われても、特別俺がやることなんてない。

雨の予報は今も変わっておらず、この後勝手に雨が降るだけだ。

それでも力の誇示には利用できる。


「現世で伝わる実家の秘伝でして、部屋に1人で居ないと発動できないのです。

申し訳ありませんが、一度部屋に戻って準備をして構いませんでしょうか?」


「良かろう。

何かあった時のため、アーニャを部屋の前に置いておこう。」


「ありがとうございます。では失礼致します。」


頭を下げ、謁見の間を後にした。

アーニャがワクワクしているのを隠そうともせず着いてきた。


「天候を操るなんて、タマタローってやっぱりすごいのね!」


純粋すぎて心配になるね。

あとは1人で部屋で寝ていれば勝手に雨が降り、俺の評価も勝手に上がるという算段だ。

雨が降った事後であれば、力を使い果たしてしまったとか言い訳も利くしな。

現世も含めて、久しぶりに歩き回ったから眠くて仕方ない。

運動不足でいかんな。

明日から本気出そう。


部屋に到着した際アーニャに、集中したいので2時間は1人にさせてほしいと伝えてベッドに入った。

一応寝る前に念のため、もう一度天気予報を確認。

およそ15分後から急な雨の予報は変わらずだ。


ベッドに横たわり目を瞑る。

枕が普段と違うからかなかなか寝付けずまどろんでいると、外から窓をうつ強い雨の音が聞こえてきた。

その音と部屋の外のアーニャの喜ぶ声に安心し、俺の意識は薄れていった。



-----


2時間後、アーニャに起こされて三度謁見の間。

シャンドラ様と片方の傍付きは満面の笑みで、もう片方のオルネスは悔しそうな顔で出迎えてくれた。


「タマタロー、天候を操るとは恐れ入った。

徐々に功績をあげ、ゆくゆくは我が国に欠かせない男となるだろう。

主はどのような地位を目指しておるのだ。

いきなり大役とまではいかぬが、相応の意見は聞くぞ。」


「ありがとうございます。

前線で派手に戦うよりは、後方支援に向いているとは思います。

ですが外様の身を急に中心に据えると、内部からの不満が出てしまうのも事実。

なので僕が選んだ人物のみで結成する1つの隊の指揮を頂けたら、と。」


シャンドラ様が少々驚いた表情をした。

その程度でいいのか、とも言いたげな表情だ。

内部の不満があると寝返り、謀反といった事案が起きかねないからな。

本能寺や関ケ原といった戦いを知っている俺としては、そういったことは避けて通りたい。


なのでまずは自分の地位の基盤を固め、内外から認められること。

始めはその程度が目標でいいだろう。

その過程でその先の目標は考えたらいい。


「確かに主の言うことも一理ある。オルネスが良い例じゃな。

タマタロー、主に1部隊の指揮を命ずる。

その才覚、存分に揮ってみせよ!」


思わず、「はっ」と返してしまった。

たぶんそれで正解なのだろうけど、戦国時代の殿様からの言葉を受けていた部下というのは、こんな気分だったのだろうか。



ともあれ、この世界に飛ばされてからの第一歩だ。

あとは今の勢力図なんかを作成しつつ、率いる隊に入ってもらう人員を育てていくことにしよう。



-----


その日からの年月はあっという間だった。


まずはその日のうちに、アーニャが俺が率いる隊に所属すると言い出した。

ずいぶんと気に入られてしまったみたいだ。

ともあれ姫様が味方に居るのは心強い。

断る理由もなく、所属第一号が決定した。



1週間後。

刀が出来たとの知らせを受け、鍛冶屋に訪れていた。


シャーリーが「自信作だ」と言う刀を見た瞬間、鳥肌がたった。

実際刀を見るのも触るのも初めてだったが、間違いなくこれは銘刀だと確信した。

黒い鞘と柄がかっこいい。

代金は要らないと言うシャーリーに対し、出世払いでと約束をこぎつけるのに時間はかかったが。

尾張はおそらく関西だろうということで、『童子切』と名付けておいた。



1年後。

刀を得てすぐ、戦い方に不安のあった俺は国王に対し、道場の設立を進言した。

身分や年齢に関係なく剣術の指南を受けれる場所としてだ。

実力がものを言う世界なだけに、平民だから、農民だからというだけで埋もれてしまうのはもったいない。

そんなしがらみを取っ払うためのものでもあり、自分の戦い方を教わる場所でもあり、隊へのメンバーを探す場所でもある。


そういったものを事細かに書いた文章を提出すると、驚かれはしたもののあっさり許可が下りた。

ネットに転がっていた企画書のテンプレを当てはめただけだったが、言葉で説明するよりも効果はあったようだ。


そこで1年かけて仲良くなった、3人の腕自慢を仲間に引き入れることに成功した。

農家三男のジャーク、平民次女のホリィ、孤児だが実力は頭1つ抜けているスクード。

全員が家の事情に不満があり、自らこの道場の扉をたたいた。

彼らの動きは他の面々とは違い、鬼気迫るものがあった。

必ず兵になるのだという気迫が伝わってきたのだ。


当然のように全員俺より強い。

俺の実力は平々凡々で、集まった全員のうちのちょうど真ん中程度だ。

最初はアーニャとの繋がりを求めて話しかけてきたらしいが、今となっては全員友達と呼べる仲だ。

剣術はそうでなくても、パソコンによる知識に3人とも度肝を抜かされていた。

そのおかげか俺の正体を聞いても驚かず、隊を率いることになっていると話すと自ら入りたいと言ってくれたのだ。


ちなみにアーニャは、スクードと共にトップ3に入っていたりする。

この姫様は俺の隊に居るよりも前線で戦い、皆を引き連れる方があっているのではなかろうか。



2年後。

色々な知識を教えてきた子どもたちの努力が、結果として表れてきた。


初めて訪れた次の日、ここに居る子たちは先の戦で親を亡くしたりした孤児ばかりなのだとアーニャに聞かされた。

居てもたってもいられず、全員に俺の隊に来て平和な世の中を作らないかと声をかけていた。

子どもに何を言ってるんだと、この時自分で思った。

しかし子どもたちは自分の置かれた状況を理解していた。


自分たちのような子どもを増やしたくないと聞いた時には、頭が上がらなかった。

その日から、それぞれの趣味や年齢にあった特訓をしているというわけだ。



当時最年少の5歳だったルミエには、パソコンでフラッシュ暗算をひたすらやってもらった。

フラッシュ暗算はそれくらいの子どもじゃないと出来ないと、現世のテレビで見たことがあったからだ。

そのおかげで数字にはめっぽう強い少女になった。

これなら数年後には隊の資産運用や、補給部隊も任せられるだろう。


そして男子最年長のダッカスと、女子最年長のアルシェ。

こちらは全員の食事を作っていたということもあり、料理を教えた。

魚の捌き方から、調味料の作り方まで様々な知識を覚えてもらった。

今では2人とも一部の日本食の再現すらできているほどで、この国随一の料理人だろう。

腹が減っては戦はできぬと言うからな。

こういうメンバーも必要だ。


そのほかの子たちには道場で仲間に引き入れた3人やアーニャが日替わりで稽古をつけていた。

身体が成長していくにつれて徐々に実力もあがってきており、俺もだんだん勝てなくなってきたくらいだ。



最後に何より、シェイミという女の子。

この子はとんでもなく影が薄く、小さい身体ですばしっこい。

恥ずかしがり屋で話しかけるとどこかに行ってしまうような子だった。

両親を目の前で殺され、部屋の隅で怯えて縮こまっていたら気づかれずに生き残ったらしい。


そんな子だから心を開いてくれるまで時間がかかるだろうとは思っていた。

しかしある時を境に、急に話を聞いてくれるようになった。

周りにしている特訓に大きな効果があり、自分も一歩踏み出してみようと思ったとのことだ。


その子の影の薄さを利用し、諜報員になってもらうことにした。

最初は怖がっていたものの、情報の伝達は戦に大きな成果をもたらすと説き続けた結果、やってみると言ってくれた。

俺も最初は何を教えればいいか分からなかったが、ラーメンの具材の名前の忍者漫画を読ませたら理解できたらしい。


忍術は使えないにしても情報の収集や伝達、周辺警護など、あらゆる技を身につけていった。

こちらもルミエと同じく数年後、隊の諜報係として大いに活躍してくれるだろう。



3年後。

シャーリーに相当な無理を言って、パソコンと通信ができる機械を作ってもらった。

通信といっても相互で連絡を取り合えるわけでもなく、喋った情報が俺のパソコンに届くように設定しただけのものだ。

シェイミに持たせるための、一方通行のトランシーバーってところかな。

この時代の技術や材料でできるとは思っていなかっただけに、本当に頭があがらない。


こんなものまで作らせるなんて、出世したら覚えてなさいよ。

とはシャーリー談。



4年後。

ようやく子どもたちの特訓も付きっきりでなくとも問題なくなった。

スクード達3人が隊に入ってからというもの、道場経由で隊に入るメンバーが増えていた。

今では隊の人数は50人を超えたくらいで、これなら色々な作戦を使用できる。


そこで本隊を2つに分けて実戦形式訓練を行うことになった。

シャンドラ様が率いる白組、俺が率いる隊が所属し戦士長率いる紅組。


結果は上々。

盤面だけ見れば白組が圧勝だが、シェイミとアーニャの奇襲部隊が本陣の奇襲に成功。

シャンドラ様を取り囲むことに成功し、紅組が勝利となった。



その夜、俺とアーニャは謁見の間に呼ばれていた。


「此度の訓練での働き、見事だった。

戦場のど真ん中で派手に暴れておきながら、まさか同じ隊に奇襲されるとは思わなんだ。

して、そろそろ隊の名前を決めたらどうだ?」


隊の名前か。

そういえばきちんと考えてなかったな。


「タマタロー隊じゃないの?」

「タが多すぎる。せめてタロー隊だ。」


アーニャに対して即座に突っ込む。

これは隊を率いると決まった時点で考えていた。

あとこの際に言っておくが、実際はタマ↑タローではなくタ↑マタローだ。

4年間ずっとイントネーション間違えてるぞ。


ムスッとするアーニャをよそに、シャンドラ様が続く。

「では、タロー隊でよいではないか。呼称がないと呼びづらくてな。」


確かにそれもそうだ。

太郎隊・・・漢字はダメだな、だせぇ。

タロー隊、か。


自分の名前が入っているのが若干恥ずかしいがまあいいだろう。

そんなこんなで隊の名前も決定したのだった。




そして5年後。

遂に初陣の時がきた。


隣国がこちらに攻めてきたとの情報が入り、王国中に緊張が走った。


今までの平和が嘘のように、慌ただしくなる国内。



不思議と緊張も、怖さもなかった。

やるべきことをやるだけだ。


俺とアーニャはシャンドラ様から召集がかかり、軍議へと参加することになった。



拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします!

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