第28話「タロー成分不足」
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朝一番でカッツェへと戻り、昼過ぎにはそのまま物件の紹介を受けていた。
こちらで売るにしても場所がなくては売り出せないからな。
女の子としてシェイミには可愛いと思った椅子や飾りなどの購入を、ジャークには物件購入後の清掃のため清掃用具の購入をお願いしている。
昨日の夜のうちに役割分担を進めていたのでだいぶスムーズに事を運べていた。
今回は人気が出るまでの短期間事業ではあるとはいえ、今後もこういった思いつきを即行動できる拠点として利用できる。
なのでそれなりに広めの物件を購入。
隊の予算はまだ潤沢にあるし、今回の事業で回収できるのは目に見えている。
日本に居た頃はこんな高価な買い物には縁がなかったが、今では隊長兼最先端の事業主だもんな。
人生何があるか分からない。
ひとまず仲介所から少し離れた場所の店舗を無事購入することができた。
ジャークと合流し、早速清掃に取り掛かる。
最近まで使われていた物件なだけあり、そこまで大きな汚れはない。
とはいえ埃などはどうしても溜まってしまうので、それを綺麗に掃除していった。
夕方になるまでには一通りの清掃は終了でき、シェイミが購入してくれた内装の飾りは明日の朝届けてくれる手筈とのことで今日の作業は終了。
フリード国でも仲介所や牛丼屋を立ち上げた経験があるので、もう作業自体は慣れたものだ。
アーニャ画伯の店頭ポスターと配布用のビラで最初の集客さえつかめればあとは問題なく進めていけるだろう。
それに伴って販売員の確保は必須だな。
また仲介所で募集をかけてみるとしよう。
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家に戻ると、今日はルミエが珍しく俺たちより先に食事を食べていた。
売値の計算をしてきたとのことで俺を待っていたようだ。
団子と比較して高くなりすぎず、かつ安くてコストがかかりすぎないようにといったバランスをよく考えられている。
だが話を聞くと、計算したのは弟子たちなのだそうだ。
自分たちで考えて利益が出るかつ、顧客に不満を抱かれないような値段設定を計算した。
これはルミエの普段の教えの賜物だろう。
褒めて頭を撫でてやると、顔を真っ赤にしながら満面の笑みになっていた。
尻尾があったらぶんぶん振っていそうな顔だな。
そんな可愛がりに嫉妬をしていたアーニャちゃんを膝に乗せて可愛がりつつ、今日のご飯を待つ。
アーケからもらった材料がだいぶ尽き欠けてきたとはいえ、作り方はだいたい教わっている。
そのうち皆で作りおきするとしよう。
勝手な偏見だけど、ジャークとか味噌づくり得意そうだし。
こんな電気もガスもない世界でお米に味噌汁、焼き魚とお漬物という完璧な和食が食べられるとは思いもしなかった。
教えたのは俺とはいえ、感動だね。
皆と共に賑やかで楽しい食事を摂り、アーニャと共に風呂に入り部屋に戻る。
甘えん坊なアーニャといちゃつきつつ聞いてみると、明日にはポスターが完成するとのこと。
ビラに関してはシウバ様から人手を借り、現在大量に複製中だ。
こちらも明日の進展具合によっては配り始めるとしよう。
翌朝カッツェ城に様子を見に行くと、ビラは既に300枚は仕上がっていた。
なんという仕事の早さ。
シウバ様の周りには仕事ができ、そして優しい人材も多い。
まだ幼いながら民のためにと頑張るシウバ様を助けてあげたいのだろう。
俺もその1人だけどな。
ひとまず今回はそれを隊で預かり、配布することになった。
自分で始めた事業の様子を見ながら各所でビラを配ること2時間ほど。
そろそろシャーリーの様子でも見に行ってみようとアーニャが呼びに来た。
店頭ポスターも仕上がったようで、どや顔で見せてくるアーニャがとても可愛い。
「鱗の部分はまだ微調整するが、ひとまずはこんなところだろう。」
そう言ってシャーリーは作ってくれた物を見せてくれた。
クレープ用のヘラが20本、そしてたい焼き用の鉄板が3つ。
相変わらず素晴らしい仕事の早さだな。
シャーリー工房の皆さんには特別優待券でもお渡しするとしよう。
作った本人も微調整が必要と言った鱗を模した部分は、確かに若干線が少なく思えた。
どこをどのくらい増やせばいいかと聞かれ、たい焼きの画像を調べて見せるとすぐに理解された。
シャーリーは日本で生まれて技術者として育ち、こちらに転生してきたのではないかとたまに思ってしまうほどには順応性が高い。
頭の作りが俺なんかとは根本的に違うのだろう。
明日には完成させておくと言うシャーリーに礼を言い、店舗の飾りつけへと向かった。
到着するとシェイミとジャークが中心となり、かなりのペースで作業が進んでいた。
店内には座って食べられるように机と椅子が並べられ、作っているところを見れるようにオープンキッチンにしてあった。
そして外にも座れるように長椅子も抜かりない。
そのどれもが女性受けの良さそうな可愛い造りとなっており、シェイミのセンスを信じて正解だった。
この椅子などを作ったシャーリー工房の皆さんには以下略。
紙に手書きでメニュー表を作成し見えるところに張り付け、アーニャが描いてくれた店頭ポスターも飾り、これでだいたい準備完了。
あとは明日試作して試食会、それで問題なければ近いうちにオープンだ。
ナージャに頼んで人材の確保を急いでもらうとしよう。
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全員で家へと戻り食事を摂った後、明日の試食のための準備に取り掛かる。
今日から料理当番はアルシェに交代していたので、アルシェがメインとなって皆でお手伝いだ。
こういう楽しみながらなんでもできるのはこの隊の強みだな。
苺やバナナをつまみ食いしていたホリィにチョップをしたり、生クリームを混ぜる際にクリームだらけになってしまったルミエを皆で笑ったり。
そんな様子をジャークと共に、うちの隊の女性陣がきゃっきゃしているのはやはり良いと陰ながら頷いていたのをアーニャに引かれたり。
色々ありつつも準備完了。
これで明日の試食会を楽しみに待つだけとなった。
部屋に戻ろうとした時、イルシャが疲れ切ったげっそりとした顔で家に帰ってきた。
例の戦のあとフェルト王国に残り、軍の鍛錬やら今後の事業についてのフォローなどにあたってくれていたのだ。
どうやらひと段落したので戻ってきた、というところだろう。
「仕事は別に余裕なのだけど、タロー成分が足りなすぎてこれ以上は無理だわ・・・。」
なにその不気味な栄養分。
そんなにげっそりするほど重要なのか。
アーニャと相談し、仕方ないので俺とイルシャで過ごすことになった。
こんなに簡単に許すとは思っていなかったがアーニャ曰く。
「わかる、タロー成分不足は死に値するもの。
それにイルシャとも結婚するつもりだろうし、今日だけは我慢するわ。」
と謎の死因を力説され、今に至る。
死因はともかく結婚したばかりだというのに自分の呪いもあるからか、2人目3人目と決めていることには理解があるようだ。
最終的に何人であろうと自分を1番に愛してくれると信じてくれているからだろうし、その通りではあるんだけどな。
今はまだまだアーニャとの時間を過ごしたいので子どもは作れないが、家ができて落ち着いたらたくさん愛し合うとしよう。
その晩は枕を持ってきたイルシャにいつもの如く三途の川を見せられ、危うく幸せな未来が閉ざされるところだった。
結局毎回朝を迎えられているので、自分のしぶとさはかなりのものかもしれないが。
とりあえずイルシャがとても幸せそうな顔で寝ていたので起こさないようにしつつ、皆とシャーリー工房へと向かった。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




