第26話「未来を見据えた最良の手を打てる人物」
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夜が明け、カッツェへ移動していたシャンドラ様に全てありのままを報告した。
カーデラ様のことについて話した時の表情は、言葉には表せないものだった。
ただ一言だけ。
「カーデラ、よくぞ王を護ってくれた・・・。」
そう小さくこぼして、フェルト王国へと戻っていった。
その寂しそうな背中は決して忘れることはできないだろう。
生まれた時から一緒に居るのだと以前に聞いたことがある。
それこそ、生涯の友だったのだろう。
若くして妻を失い、生涯の友まで。
この優しい王に、神様ってのはどれだけ悲しみを与えるのか。
もし存在しているのなら教えてくれ。
こんな悲しみを与えられないような人物ってのは、いったいどんな奴なんだ。
シャンドラ様の意を汲んでカーデラ様はフェルト王宮の庭へと埋められることになった。
フェルトに帰るたびに墓参りをするとしよう。
自慢の父親だからな。
いつか平和な世界になったら、一緒に酒でも飲みかわしたいと思っていた。
俺が転生してきた頃を懐かしいな、と穏やかに。
「今は、これで勘弁してくださいね。」
葬儀に参加した俺は、酒瓶を空けて墓にかける。
途中で自分でも何口か飲み、残りを全てかけた。
こんな形で初めて一緒に酒を飲むとは思わなかったな。
「いつか俺が平和な世界を作り上げて、堂々とそっちにいきます。
その時には一緒に笑いながら酒を交わしましょうね。」
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カンド川の戦い以降、あんなことがあっては当然ではあるが空気が重い。
カッツェの街は変わらず賑わっているが、隊の家の中は未だに誰も顔をあげれずにいた。
それはおそらくフェルトも同じだろう。
それだけの功績を残し、皆に慕われた人だったから。
俺も心にぽっかり穴が開いてしまったような感覚だが、意志を継いだのだ。
いつまでも下を向いてはいられない。
以前に隊長の心得を教えてもらった時のことを思い出す。
「どんな時でも部下のために強くあること。
苦しい時でも常に前を向き、未来を見据えた最良の手を打てる人物。
それが俺の考えるリーダーに必要な素質だな。」
その点で言えば、皆の前で絶叫をしてしまった俺に素質はなさそうなものだが。
だがタロー隊の隊長として皆の命を預かっている身だ。
カーデラ様にフェルトの未来を託された以上、俺がここで落ち込んでいるわけにもいかねえ。
まずは今何ができるかを考えよう。
自分だけで考えては後ろ向きな考えも出てきてしまいかねない。
ここは皆を集めて話し合うことにした。
「集まってもらってすまない。
俺も皆も今回の件で落ち込んだり、悔しい想いをしたりしているのは分かっている。
それでもカーデラ様が護ってくれた俺たちの手で、この国をもっと繁栄させていきたい。
だから今自分たちに出来ることから、前を向いて取り組んでいこうと思う。」
当然こんな言葉だけで全員が前向きになれるとは思えない。
それでも少しでも前に歩みを進めてくれたらいい。
皆の表情は未だに暗いままだが、アーニャが静かに立ち上がる。
「アタシはタローに賛成、当然全力でサポートするわ。
タローの成すこと全てを尊重したいって立場もあるけれど、こんな時だからこそアタシたちが下を向いてちゃカーデラ様が浮かばれないもの。
未来を託してくれたからこそ、それに応えて民のために動きたい。」
その言葉に皆が徐々に頷き、徐々に表情にやる気が出始めた。
安堵してふっと笑いかけてくるアーニャ。
本当に俺にはもったいないくらいのお嫁さんだな。
続いてナージャも立ち上がり、現状の確認を買って出てくれた。
「カッツェの現状は特に変化なく、やれるべきことの大半は終了しています。
今の資材の在庫を増やしつつ、フリードからフェルトへの物資や人材派遣などの中継役として活躍できれば、あとは私たちが居なくても問題なく回っていくでしょう。
続いてフリードについては物流に使う道路の建設を急いでいますが、そもそも国自体の規模が大きいため作業時間はまだまだかかりそうですね。
しかしアーケからカッツェまでのルートに限って言えば特に大きな荒れはなく、現状のままでも充分に道として機能するでしょう。
また、今回の件を受けて戦える人員も前線に送ってもらうように手紙を出してあります。
最後にフェルトについて。
カーデラ様の後任は決定したものの未だ実戦経験は浅く、同じレベルでの仕事となるとあと数年はかかる見込みです。
農業についてはアーケからの人員が到着次第開始できる状態になっています。
それが落ち着くまで侵攻がないとも言い切れませんが、ひとまずは人員の補充もされる予定ですので大敗は避けれると思われます。」
ナージャが長々と説明してくれた。
お礼を言いつつ今回のビスープ王国での出来事も共有しておく。
今回の戦で共に闘ってくれたこともあり、同盟とまではいかないが互いに手助けする程度までは信頼関係を築けた。
だが隣接していない土地なだけに早急な対応は難しく、連絡手段も乏しい。
あちらは北の地を捨てるわけにもいかず、俺たちも東の領地を攻撃する気は今のところない。
なのでひとまずはビスープ王国を介しての連絡となりそうだ。
それについては既に承諾をもらっているし問題ないだろう。
すべてまとめると、フリードからの人材が到着するまでは特にできることがない。
それまでは東からの侵攻に警戒しつつ、現状できあがっている事業の底上げをしていくことになった。
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現在の事業で底上げできるものとしたら、牛丼屋がまずは選択肢に入る。
普段から割と安めに設定しているだけあり既に多くの顧客がついているのだが、未だに女性客の入りはあまり芳しくない。
アーニャやイルシャたちのように美味しそうに食べる女性も多いとは思うのだが、やはり肉ということで敬遠されているのだろうか。
こういうところは日本でもリカンダでもあまり変わらないんだな。
確か日本ではサイズの差を作ることで差別化を図って集客しようとしていたはずだ。
小盛を売るために特盛を作ったとか、どこかのテレビでやってた。
実際には特盛の方が売れてあまり変わらなかったらしいが。
女性に人気のあるものってなんだろう。
俺の周りの女性陣はあまりあてにならないんだよな。
いっそのこと牛丼屋以外の事業でも始めてみるか。
こういう時、日本に居た頃ろくに外に出ていなかったことを後悔する。
流行りについていけない自分が悲しい。
だがしかし、そんなものはパソコンで解決だ。
女性人気 食べ物 ポチーッ
パスタにパンケーキ、ああタピオカとかあったね忘れてたわ。
あとはピザやグラタン、コロッケね。
割と材料の調達に難儀しそうなものばかりだな。
街中に置いてあるベンチに腰掛け考える。
材料が簡単で、この時代でも作れそうなものか。
ふと顔をあげると、向かいの茶屋でホリィが団子を頬張っているのが見えた。
相変わらず美味しそうに食べるなあ。
でもそうか、甘いものか。
パンケーキもランクインしていたことだし、それ以外で材料調達が難しくない甘いものとかどうだろう。
プリンはカラメルが難しそうで、アイスはこの時代では保管が不可能。
ダメだ、一旦コンビニから離れよう。
外で食べられて家で気軽に作れない甘いもので、歩きながら食べられるものならなおいい。
パソコンとも相談しつつ、2つの解答が出てきた。
たい焼き、そしてクレープ。
甘いもの好きな男性も居るし、これなら女性受けはいいのではないだろうか。
最初はこちらで売り出し、人気が出てきたら団子屋やレストランに知識を売ればいい。
そうすることでこちらの商売で団子屋からも客を離さず、変な軋轢を生むことはないだろう。
よし、そうと決まればシウバ様とビスープ王国に材料の提供元の相談だな。
一応ナージャとルミエに確認してから進めるとしよう。
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「いいと思います。甘いものといえば団子というイメージを壊せますね。」
「いくらで売れば採算がとれるか計算しておきます。
商品にする前に絶対食べさせてくださいね!」
シウバ様に話をする前に仲介所でナージャと、カッツェ城でルミエの確認を取った。
案の定食い付きはだいぶよかった。
女の子は甘いものが大好きなのは、万国共通だな。
化粧品、衣服やアクセサリーといった類はこの時代では期待できないためか、女性のお金の使い道はあまりないらしい。
金銭を回す商売という意味では大きなプラスを生みそうだ。
あとはシウバ様に相談と、シャーリー大明神様にたい焼き用の型とクレープの棒を大量に用意してもらうだけだな。
いい加減シャーリーに怒られそうではあるが、言い方は悪いが金に物を言わせてやってもらうとしよう。
やれることは少ないと思っていたが、前向きに考えれば意外とできることは多い。
これは嬉しい誤算だな。
アーケからの人員が到着するまで、あと1ヶ月半はあるだろう。
それまでに開業できるよう、準備しておかないとな。
この国の未来のために、今の俺が打てる最良の一手。
カーデラ様とは違う方面ではあるが、国を繁栄させたいという気持ちは同じだ。
俺は俺のやり方で、下を向かずに全力で前に進みます。
それがこの国の未来を託された俺の親孝行だ。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




