第25話「自慢の息子だからな」
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俺たちはカンド川にかかる橋からある程度距離をとり、身体を休めながら今回の事の発端を聞いていた。
理由は定かではないが、前触れもなくいきなりカンド川を超えて領地に進入してきたとのこと。
周辺に住んでいた農民がいち早く気づき、馬を飛ばして城へと報告したらしい。
その報告を俺の手紙の返事を書いていたシャンドラ様とそれを待っていたスクードが聞き、スクードはすぐさまカッツェに応援要請。
そして俺が居ないことを知るや否や、引き返してビスープ王国へと向かってきてくれた。
カッツェでは俺やアーニャが居ないことで判断に困った面もあったが、イルシャとナージャが中心となり動いてくれたようだ。
一度は街までの侵攻を許しかけたものの、イルシャ達のかなり早めの到着によりすぐさま押し返すことに成功。
そして橋の向こう側と、フェルト側での分断したことにより大橋近辺は膠着状態。
橋よりフェルト側に残った部隊を北の大連合盟主たちが掃討した、といった具合だ。
ひとまず全ての状況は把握したものの、相手の狙いが読めない。
一体何がしたいんだ。
流石の北の大連合盟主たちも、この行動には頭を悩ませている。
自分たちを攻める時はきちんと準備された作戦に乗っ取って動いているのが分かるらしく、今回のように何がしたいのか分からないことなどないようだ。
攻め込んでいる北の厄介な盟主たちをこの場におびき寄せるためかと思ったが、普段からあまり前線に出る方ではなく、今回の俺とのコンタクトは海を移動してカーテルナ山を越えたので東には漏れる可能性はほぼゼロだという。
狙いが一切分からないところではあったが、ミラさんが唐突に口を開いた。
「案外、タマタローをおびき寄せて始末するのが狙いだったんじゃねえか?
いやそんな驚かなくてもいいだろう。
フリードとの戦はこっちにも情報が入っているし、だからこそウチらも会いに来たんだぜ?
正直なところ敵に回るのなら早々に消しちまった方が楽ってもんだぜ。
まあ、ウチらはもうタマタローのことを気に入ってるからそんなことはしねえけどよ。」
俺ってそんな有名人なの。
確かに東とか北とか、他国の人といきなり会うようになったけども。
どうせなら良い意味で有名になりたかったわ。
戦国時代に良い意味があるかどうかは分からないけど。
「まあ確かにタローが来てからフェルトは大いに発展したしな。
そしてそれもまだ底が見えてないときた。
自国に引き入れるか、それこそミラ殿の言う通り始末したくなる気持ちも分からんでもない。」
「ヒヒヒッ、そうなんだよ。
正直に言うとこれからの我らの同盟にとって一番邪魔な存在だぞ。」
!!!???
カーデラ様の言葉に、見たこともない奴が言葉を返す。
北の盟主4人、カーデラ様、俺やイルシャ。
これだけのメンツが揃っていながら、その輪に入られたことすら誰も気付かなかった。
コイツは間違いなく東の幹部クラスの人間だろう。
一瞬で距離をとり、一斉に臨戦態勢に入る俺たちをニヤニヤと笑いながら見る男。
夜に紛れる黒づくめの服。
北の盟主たちよりも明らかに強そうな剣を身にまとうも、装備はそれだけ。
自分の剣に絶対の自信があるのだろうか。
「俺はナカジョウ王国のジェネット・ビーク・アセントラ。
『恐怖』のジェネットとは俺の事だ。」
わざわざ名乗るジェネットだが、それをきちんと聞いている奴などこの場にはほとんどいない。
圧倒的な実力差を前に、そして奴が漂わせる恐怖の予感に全員が委縮していた。
「そうか、貴殿が『恐怖の神子』ジェネットか。
我はフェルト王国騎士団長、カーデラ・ペドロサ・モドリック。
貴殿に一騎打ちを申し込む。」
「お前に用なんてねえよ。タマタローの首を取りに来ただけだ。」
剣を抜き構えているカーデラ様を無視し、その横を歩いてこちらに寄ってくる。
正直に言おう。
足がすくんで全く動けねえ。
かろうじて俺の前に立ったイルシャでさえ、剣を持つ手が震えている。
同じ神子とはいえ相手を恐いと感じてしまっていた。
しかし横を抜けようとした瞬間、カーデラ様は剣をジェネットの前に振り下ろした。
その剣にピタリと足を止めるジェネット。
「死にてえのか、おっさん。」
「死の覚悟もない若造が、なめた口をきくんじゃあない。
もう1度言う。
貴殿に一騎打ちを申し込む。」
その言葉に眉をピクつかせ、明らかにイラついている表情のジェネット。
一騎打ちなんて馬鹿げたことはやめてくれ。
そう思うも言葉が出せない。
口をパクパクと動かせたのが精いっぱいだった。
「お前ら、これから何があったとしても絶対に手を出すなよ。
・・・アナスタシア様、タローの事を頼みます。
そしてフィンクス・・・後の事は頼んだぞ。」
その言葉に手を震わせながらも剣をしまうイルシャ。
泣きながら頷くアーニャ。
やめろよ。
なんでお前らはそんなに素直に聞いてるんだ。
本当の息子のように接してくれた、この世界の父親のような人だぞ。
こんな別れ、望んでなんかいねえんだよ。
「ふ・・・ざけんな・・・!」
身体を震わせながらも気持ちを声に出す。
そのままジェネットの方へ向かおうとした瞬間、イルシャに思い切り地面に抑え込まれた。
俺を抑える身体は震え、精一杯涙を我慢している。
放せと言おうとした瞬間、イルシャは震えた声で絞り出した。
「一騎打ちと・・・聞こえなかったのか、タロー・・・。
カーデラ様の騎士としての決意を・・・無駄にしないでくれ・・・頼む・・・。」
ポタリと俺の顔に雫が降った。
我慢しきれずに流れ落ちた涙。
これほどの悔しさ、みじめさを露わにしているイルシャは初めて見た。
「もう茶番は良いかァ?
そんなに死にてえならおっさんから始末してやるよ。」
そう言い、向かい合う2人。
その場に居た誰もが止めることなどできなかった。
戦いの結果がどうなるかなど、誰もが分かっているはずなのに。
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ドサッ─
カーデラ様の剣に膝を付くジェネット。
明らかにジェネットの方が攻めているにも関わらず、立ち続けているのはカーデラ様だった。
「俺は『恐怖の神子』だぞ・・・?
おっさんは俺が怖くねえのか!?」
「怖いさ。
だが、自分の力不足で仲間を護れない方がよっぽど怖い。
護る者を持っているのと持っていないのでは、大きな差があると知れ。」
単純な剣の腕だけで言えば圧倒的にカーデラ様の方が勝っていた。
にも関わらず致命打となる攻撃を当てられていないのは、おそらく恐怖のせいだろう。
対峙していない俺ですらこれだけの恐怖を感じているのだ。
カーデラ様の感じているのは、こんなものの比ではないはず。
なぜ危険な一騎打ちを挑んだのか、未だに分からない。
イルシャの手を振りほどこうにも『怪力の神子』の力で抑えられてはびくともしない。
今日1日で俺はどれほどの力不足を自覚させられれば気が済むんだ。
「護るのは盟主だけで十分だ。
それ以外の雑魚なんて、枷にしかならねんだよ!!」
先ほどまで苦戦していたカーデラ様をよそに、俺たちの方へ突進してくるジェネット。
一騎打ちを受けたはずではなかったのか。
勝てば官軍とは言ったものの、カーデラ様の決意を踏みにじる行為に俺たちは動揺を隠せなかった。
イルシャと俺の前で止まり、剣を構える。
自分が身代わりとなるように俺に覆いかぶさるイルシャ。
その身体は恐怖に震えていた。
それを見ながらも、ジェネットが剣を振り下ろす。
剣で斬られた時の特有の音が耳を穿つ。
勢いよくイルシャが起き上がり俺もある程度自由になった。
顔をあげると、ジェネットが振り下ろした剣がカーデラ様を襲っていた。
俺たちとの間に咄嗟に割って入ったのだ。
カーデラ様は膝をつき、斬られた部分を抑えるもとめどなく血が流れる。
「だから枷だと言っただろ。甘すぎるんだよ、てめえらは。」
「枷?・・・ガフッ・・・違うな。
俺は国の未来を護っただけよ・・・。
貴様には一生理解できんだろうがな。」
血を吐きながらも笑うカーデラ様。
その背中はまるで1つの山のようだ。
決してここを通さないとでも言わんばかりの背中に、思わず立ち上がっていた。
震える拳を握りしめ唇をかみしめる。
その手をアーニャが両手で包んでくれた。
両目に涙を浮かべ、俺の手を包むその両手を大きく震わせながら。
ドサリとカーデラ様が前のめりに倒れた。
「やっとくたばりやがったか。
これでようやくてめえをやれるな。」
「俺たちはお前に手を出すつもりはない。
カーデラ様の意思を無駄にはできないからな。」
「ならば何もせずに死を選べ。
そうすりゃすぐにおっさんに会えるぜ。」
再び剣を振り上げるジェネット。
俺の腕にしがみつくアーニャ。
アーニャと共に死にゆくのなら、後悔はない。
目を閉じ覚悟を決めた。
しかしその剣は振り下ろされることはなかった。
「ジェネット。独断で侵攻した件についてナカジョウ様がお呼びだ。」
目を開くとジェネットの真横に新手の男が現れて腕を掴んで止めていた。
どいつもこいつも気配なく近づきやがって。
ナカジョウの名のある将ってのは気配遮断のスキルでも持ってんのか。
「ちっ、命拾いしたな。
まあこの程度ならいつ攻められてもうちが負けることなんざ有り得ねえからいいけどよ。」
捨て台詞を吐きながら剣をおさめ、カンド川の方へと向かっていくジェネットと男。
背を向けられた俺たちは急いでカーデラ様のもとへと集まる。
「タロー・・・フェルトの未来は託したぞ・・・。」
「喋ってはいけません、カーデラ様・・・!」
「いや、いい。自分の最後くらい分かる・・・。
お前が来てから・・・フェルトは逞しくなった。
アナスタシア様もよく笑うようになった。
・・・ありがとう。」
弱弱しくも言葉を絞り出すカーデラ様に涙が溢れだす。
もう、なんでとかは言わない。
俺たちを護ることで、国の未来を護ってくれた偉大な騎士にそんな野暮なことを言えるわけがない。
「フェルトを、シャンドラ様を・・・アナスタシア様を頼む・・・。
お前なら、それができる。
・・・自慢の息子だからな。」
そう言いながら血に濡れた手で俺の頬を撫でる。
本音を言えば父親代わりであるカーデラ様が居なくなってほしくはない。
それでも信じて託してくれたんだ。
これで応えなければ、顔向けできなくなってしまうから。
涙ながらに大きく頷く。
「後のことは任せてください。
絶対に平和な、誰も傷つかない世界にしてみせます・・・!
今までありがとうございました・・・お義父さん・・・!」
その言葉に和やかな表情をしたカーデラ様。
俺の頬に触れていた手が、力なく地面に落ちていった。
「ぐ・・・くっそ・・・!
ちくしょおおおおおおおおお!!!!」
その俺の絶叫は、真夜中のカンド川周辺に大きく響き渡った。
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拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
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