第24話「カンド川の戦い」
-----北の大連合視点
タマタローが部屋を出て行った。
最後の言葉の際の表情。
あれは鬼だ。
事情はどうあれ、結果だけ見ればフェルト・カッツェ同盟を引き入れることに成功した。
とはいえあの鬼を手なずけられる者は、おそらく自分たちの中には居ない。
弱小国だった国の、たった1つの部隊の隊長。
その1人の男の剣幕に、国を背負う4人の豪傑が間違いなく萎縮させられていた。
だがそれが味方側についたのだ。
これほど嬉しい誤算はない。
ただ、あの感情に任せて動くと間違いなくそのうち命を落とす。
それは4人の共通認識であった。
「ウチはあの男を助けに行くぜ。
こんなところで死なれちゃ困るんでな。」
ミラが3人に言うと全員がほぼ同時に頷いた。
北の大連合を束ねる盟主の4人が、他国のたった1人の男を死なせまいと動く。
こんなこと後にも先にも二度とないだろう。
既に出発しているタマタローを追うように、4人で馬を飛ばす。
まさか自国をおろそかにして他国の戦に加勢する日がこようとは、誰も思っていなかった。
-----通常視点
ビスープ王国から馬を飛ばしてフェルト王国に到着。
ひとまず街が燃えているなどの最悪の事態は免れてはいた。
普段は兵士が訓練をして遅い時間までにぎわっているはずの王宮周辺は静まり返っていた。
街に攻め込まれてはいないようだが、シャンドラ様は無事なのだろうか。
寄り道というわけではないのだが、俺にとってもお義父さんだ。
安否の確認はしておきたい。
「アーニャ、タロー、無事だったか。」
王宮に入って王の間へ到着すると、疲労感を隠しきれていないシャンドラ様に出迎えられた。
普段傍に居るカーデラ様達は見当たらない。
報告通り戦に出ているのだろう。
アーニャがシャンドラ様に何があったのか聞いているうちに、パソコンで地図を開く。
戦場になっているのはどのあたりだ。
フェルト王国の東側だとは思うのだが、カンド川を超えているかどうかでも準備の時間が変わってくる。
予想できるのはカンド川を挟んで向かい合っている状態だ。
しかしそれだけでは急襲されたと認識するには難しいだろう。
ということはカンド川を超えられている可能性は非常に高いと言っていい。
それなら橋まで迂回したりしなくても問題なさそうではあるが、戦力的にどこまで耐えられるか。
夜も更けてきた頃だし、兵の疲労は間違いなく守り続けているこちらの方が大きい。
ここに来るまでにイルシャ達と遭遇しなかったということは、先に合流しているものとして考えよう。
問題なのは作戦にかける準備の時間がないこと。
攻めてきている敵の戦力がどの程度かも分からない。
イルシャが居ることでなんとか耐えられるのであれば、俺たち3人が到着すれば統率も利くようになり優勢に持っていけるだろう。
逆にイルシャでも耐えられそうにない場合、こちらは相当なダメージを覚悟しなければならないな。
「ひとまずカッツェ城に向けて出発してもらったわよ。
最悪フェルトを捨てる覚悟はしないとね。」
自分が生まれ育った国だというのに、しっかりと前を見据えるアーニャ。
当然俺が分かってあげられない程の寂しさや悔しさはあるだろうに。
アーニャの強さに、少しだけ元気をもらえた気がする。
俺たちは再び東を目指して駆け出した。
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カンド川に近づくにつれ、戦特有の大きな声や剣戟が響いてきている。
おそらく予想通り、カンド川を渡られた場所が戦場だ。
アーニャとアイコンタクトを取りながら移動していき、戦場から少し離れたところで馬を止めた。
「自分が先導します。お二方は後をついてきてください。」
シェイミが言うなり駆け出し、2人で後を追い戦場へと向かう。
近づくにつれて聞こえていた音が徐々に大きくなってきた。
しばらく進んだところでシェイミが木の陰に立ち止まってこちらに止まるように手で合図を送ってきた。
トランシーバーからの通信が入る。
『この辺りが戦場の端だと思われます。イルシャ様もいらっしゃいますね、合流しますか?』
シェイミに見えるように頷き、進軍再開。
イルシャ1人を取り囲む敵の後方から斬りかかり、3人で一点突破を図り無事に合流することができた。
「イルシャ、大丈夫か!!遅くなってすまない!」
「タロー・・・!もう・・・心配したんだから・・・!」
心から安堵の表情で俯くイルシャ。
その頭を撫で、もう大丈夫だと声をかける。
アーニャとシェイミが前に立ち、イルシャが落ち着くまでの時間稼ぎをしてくれた。
「貴方たち2人は先に団長さんを助けに行ってあげなさい。
わたしもシェイミと後で追いかけるから。」
「分かった、頼んだぞ。」
「うははは!アリ一匹の追跡も許さんから任せておけ!」
シェイミもそれに頷き、俺たちをかばうような位置に立つ。
今日は動きっぱなしでアーニャに疲れが見え始めたが、最前線で闘っているカーデラ様の方が疲労困憊だろう。
急いで救援に向かわないと。
2人で剣戟の音がする方へと走る。
遠くにホリィとナージャが隊を率いて応戦しているのが見えた。
「タロー様、ご無事で何よりです!カーデラ様はこの先をまっすぐです!!」
「分かった、皆も無事で居ろよ!!」
どこまで戦場が伸びているんだ。
もうかれこれ10分以上は走り続けている。
アーニャも俺も肩で息をしていて、到着してすぐには闘えるとは思えない状況だ。
だがたくさん世話をしてくれたカーデラ様の危機。
疲れたからと臥せっているわけにもいかない。
受けた恩を返すために、必ず助ける。
そこからはどれくらい走ったのか分からない。
そろそろ体力も限界に差し掛かってきた頃。
カンド川がようやく見え始めたあたりで、その後ろ姿を確認できた。
「カーデラ様!!」
俺からの入れ知恵であるファランクスの陣形により橋を塞ぎ、これ以上の進軍を止めているカーデラ様部隊。
中にはジャークや、離れた位置から弓を放つダッカス達の姿もあった。
「お前ら、そんなに息を切らせてわざわざここまで来たのか。
とりあえずはファランクスで牽制できているから、少し休んで息を整えろ。」
膝に両手をつき地面に顔を向けると汗がとめどなく地面に落ちて行った。
アーニャも地面に座り背中よりも後ろに両手をついて荒い息をしていた。
くそ、これじゃあ助けにきたのか邪魔しにきたのかわからねえ。
動けないなら、せめて何か作戦を考えないと。
川幅の広いカンド川にかかる大橋。
その両端で牽制し合う両軍。
こちらはファランクスによる密集陣形で通る隙間をなくし続けており、それを解除した途端に敵はなだれ込んでくるだろう。
その隙を伺っているといったところだな。
なら、橋を落とすのが一番手っ取り早い。
しかしそれが可能なイルシャは戦場の一番後ろに居て、簡単に火を起こせるわけでもない。
ファランクスの陣形を組みつつ橋を破壊するのはなかなかに厳しいだろうし、そんな隙を敵が見逃すはずもない。
どうすればいいんだ。この状況を覆せるだけの作戦は何かないのか。
「困ってるなら手を貸すぜ、タマタロー!」
背後からの声に振り向くと、俺たちの傍で馬を止め颯爽と降り立つミラさんがそこに居た。
先ほどまでビスープ王国に居たはずだが、わざわざ追いかけてきてくれたのか。
隣に立ったミラさんに事情を聞き、北の大連合盟主4人が助太刀に来たのだと教えてくれた。
カーデラ様も驚きのあまり目を見開いているほどの事態なのは言うまでもない。
「あーでもこれ、見合ってるなら橋落とすのが一番手っ取り早いよなあ。
ウチ護ることしかできねえんだわ。」
先陣切って大暴れしてそうな見た目に反して護りが得意とは意外だ。
となるとやはりイルシャの力は必要になる。
橋を壊せるだけの攻撃力をもっているのは、うちの軍では彼女だけだ。
どうにかして合流できないものかと考えていると、その願いが通じたのか後方からイルシャ、ホリィ、ナージャがそれぞれ馬に乗って駆けてくるのが見えた。
「タロー!助太刀するわ!」
「さっきの敵はどうした?」
「なんか北の大連合の盟主を名乗る人物がいきなり来て、変われって言われたのよ。
シェイミがこの人は信じて大丈夫と言うものだからタローを追いかけてきたってわけ。」
「私たちも同じです。
最初は疑心暗鬼だったのですが、イルシャ様にそいつらに任せて前線に向かえと言われたので言われるがままに来ました。」
「まあウチも含めてそれなりの実力者だ、信じていいぜ。」
ミラさんが満足そうに言う。
助けを求められた数時間前とは真逆の行動だな。
盟主たち自ら危険を冒してここまで助けられたら、NOと言えないじゃないか。
攻められた時点でやり返すのは決めていたとはいえだ。
まあそれは置いておこう。
この場においては大きな助っ人だしな。
ようやく呼吸も落ち着いてきたところだし、動くとするか。
「イルシャ、この大橋を破壊したい。危険だが頼めるか?」
「未来の旦那のためだ、仰せのままに。」
「タマタローも隅に置けねえなあ。きっちりウチが護ってやるから安心しろ。」
その言葉に頷くと、イルシャが左手1本でミラさんを抱えた。
俺たちにはなんら驚くことのない光景だったが、ミラさんは何が起きているのか分からないといった表情だ。
見た目は普通の女の子だもんな。
そんな子が相当鍛え上げて装備までしている自分を片手で持ちあげたのだから不思議に思うのは当然だろう。
イルシャは驚くミラさんを抱えながら高々と跳躍し、一瞬で自軍の上まで到達した。
やはりと言うべきか、その瞬間を狙われて次々と矢が飛んでくる。
さらには今まで橋に入らず待機していた敵兵が橋になだれ込んできた。
弓を撃ち落そうとするイルシャをミラさんが制し、そのまま腕から飛び出した。
「嬢ちゃんは破壊することだけ考えな!この程度ならウチだけでお釣りが来るぜ。
『金剛─鉄壁』!!」
ミラさんが両手を前に開くと、黄色いオーラが頭上から地面までを覆った。
空中に居るのだからその長さは5メートルはあるだろうか。
敵から放たれた弓矢はそのオーラに当たると次々と弾かれていく。
さらには橋の上を進軍していた敵もその壁よりも先には進めなくなっていた。
完全に自由の身となったイルシャが自由落下の力も利用しながら橋に落ちてゆく。
着地の寸前、頭上に掲げた剣を振り抜いた。
ズバァァァン─
その光景はまさしく一刀両断。
支えを失った大橋は強い川の流れに悲鳴をあげ始め徐々に崩れていく。
それを確認したミラさんが徐々に後退し、イルシャを確認して跳躍。
イルシャは飛んできたミラさんを掴み、残された少ない足場を頼りにこちらに飛んで戻ってきた。
「ふう~・・・やるな、嬢ちゃん!タマタローの嫁候補なだけはある。」
「うははは!そちらこそ見事な闘気だったぞ。」
ガシッと握手する2人。
その姿に軍からは大きな歓声があがった。
大橋は破壊され、フェルトと東を繋ぐ道を断った。
完全に護りきったと言っても過言ではないだろう。
カーデラ様の指揮のもと、警戒しながら徐々に弓の届かない距離まで後退してゆく。
やがて完全な距離を取り、ようやく一息をつくことができた。
北の大連合盟主たちとも合流し、隊の無事を確認。
思っていたよりもこちらの被害は少なく済んだようだ。
この時、むしろこの程度の被害で済んだことを疑問に思わなかった。
直後俺たちは、疑問に思わなかったことを大きく後悔することになるとは思いもしなかった。
カンド川の戦い。
この戦い以降フェルト王国の発展に大きな支障がでてしまう。
タローにとっても、忘れたくても忘れられない戦となる。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




