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第22話「待ち受けるのは罠か、絶望か」


-----


その晩のうちにフリードへの手紙を書き、翌日仲介所へ届け出を出した。

内容はこうだ。


『フリード殿。

フリード軍の筆頭軍師である、エリーゼが目を覚ましました。

カッツェのタロー隊の家でお預かりしておりますのでご安心ください。


また、近々フェルト王国にて農業の発展に向けた政策を開始しようと思っております。

アーケに寄らせて頂いた際にお手本にしたいと感じたので、もしよろしければアーケから農業の知識を伝えられる人材を派遣していただけないでしょうか。

それに合わせてフェルト王国内で農業を発展させられるだけの人員の確保が難しいので、可能であればそちらの増員もお願いしたく存じます。


よろしくお願いいたします。


タマタロー』


-----1か月後、フリード視点


「タロー()より大事な案件だ!!

アーケから農業を教えられる人員と人手を集めて、フェルトに至急向かわせてくれ。

その早さをもって我々の忠誠を見せる時だ!」


大国の王と弱小国の1部隊隊長なはずの関係だが、不思議な上下関係が定まっていた。

タローがそれを知るのは、もう少しあとのお話し。



-----通常視点


ひとまずはフリードへの手紙も出したし、それの返事待ちだろう。

おそらくアーケからの人材が到着する頃にはマイホームが出来上がるくらいだな。

そうなるとフェルト王国へ行かなければならないので、新築ほやほやで住んでゆっくりするというのは難しいかもしれない。

まあでも何よりフェルトのためだ。

少し寂しい想いをさせてしまうかもしれないが、アーニャのためでもある。

共に頑張って発展させたら、ゆっくりといちゃつくとしよう。

・・・今でもいちゃついてる感は否めないけどな。


届けを出して家に戻ると、扉の設置作業が開始されたところだった。

今日からアルシェとダッカスが交代ということで、主にダッカスがそちらの対応にあたってくれている。

2人はこの家とカッツェ城の往復がメインになってしまっているが、こうして常駐してくれているのが本当にありがたい。

城での調理担当というだけあり、隊でのお給料とは別にかなりのお給料をいただいているそうだ。

それに家に常駐しているとはいえ買い物には行くし、何より皆が喜んで食べてくれているのが嬉しいのだと以前2人が話していたのを思い出す。

自分の作ったご飯を活力に頑張ってくれていると思うと幸せなんです、とはダッカス談。


その気持ちは大いに分かる。

昨日感じた街にあふれる笑顔で俺たちが嬉しくなったように、皆もやりがいを感じてくれている。

文句なしでホワイト企業だろう。

・・・こんなご時世だし、戦の時だけはブラックでごめんよ。



そんな脳内会話もひと段落したところで、リビングの端っこで交信しているエリーゼを見つけた。

今日はどこと交信しているのだろう。

しばらくその様子を眺めていると、顔をあげて俺を見つけるや否や駆け寄ってきた。


「ビスープ王国のこと聞いた。

後ろに居るのはたぶん北の大連合。

共闘して東の同盟と闘う。だからお金が要る。」


なるほど、それならつじつまが合う。

ちょっかいを出されているというのは確かに想像ではあるが、東の同盟がこちらに攻めてこないことを考えるとそれなりにありそうな展開ではある。

それが事実だと仮定するなら、バランスが崩れる前に共闘して迎え撃とうということだろう。

俺とルミエとナージャが3人がかりで考えて、思いつきもしなかった答えだ。

それを俺が出かけている間の短い時間だけで話を聞き、解答を出した。

エリーゼ、筆頭軍師の肩書きは伊達じゃないな。


「北は断られて追い込まれた。手段はたぶん選ばない。」


その言葉を聞いて心臓が跳ねた。

シェイミに尾行させてしまっている。

もしそれがバレてしまった場合、最悪の状況まで考えられるということだ。

・・・いや、捕虜にして情報と引き換えにするか?

見せしめとして・・・という可能性も否定できない。

どちらにせよ、安否の確認を急がなくては。


しかしこちらからシェイミにコンタクトを取ることは現状不可能だ。

持たせているトランシーバーは、向こうからの一方通行でしかない。

まあこの時代だとそれだけでもものすごいのだけど、今はそれはいい。

どうするべきかとエリーゼに助けを求めようとしたところ、パソコンに通知が入った。


『女は預かった。

返してほしくば日没までにタマタロー1人でビスープ王国に来い。

もし来なければ女がどうなるか、フリード軍に圧勝した軍師様なら分かるよな?ククッ』


通信はそこで途切れた。

考えうるほぼ最悪の状況。

自分が蒔いた種とはいえ、シェイミを危険な目に合わせてしまっている。

怒りに思わずノートパソコンを拳で叩く。

その音に何事かと皆が集まってきた。


「俺のせいだ・・・。」


「タロー、何があったの!?」


俯く俺の肩を両手でつかんで揺らすアーニャ。

心から心配をしてくれているのが分かる。


「シェイミがビスープ王国に捕まった。

俺が追跡の指示を出したばっかりに・・・。」


エリーゼを除く、その場にいた全員に緊張が走った。

青ざめたり口を抑えたり、涙を浮かべる者もいる。

部下1人も守れないで何が笑顔だ、何が平和だ。

自分の無能さに腹が立つ。


「ひとまずは無事だが、日没までに俺1人でビスープ王国に行かなくちゃならない。

今から出ればギリギリ間に合うから行ってくる。」


「1人でなんてダメよ!危険すぎる!!」


「シェイミを助けるにはそうするしかないんだ!!

俺1人の犠牲で戦争が回避されるなら─」


パァァァァン─


一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

だんだんと理解が追いついてくると、左頬がズキズキと痛みだす。

アーニャに平手打ちされたのだ。


「アンタが・・・ッ・・・アンタが居なくなったら、アタシはどうすればいいのよ!!

危険なところに行くのなら、一緒に行かせてよ!!

自分の見えないところで死なれたくない・・・。

もし死んでしまうのなら同じ場所で死なせてよ・・・ッ!

それが添い遂げるってことでしょう・・・?

だから・・・自分だけを犠牲にするなんて、言わないでよ・・・バカァッ・・・!」


膝から崩れ落ち、大粒の涙をこぼしながら絶叫するアーニャ。

その姿を見た瞬間、左頬の痛みよりも心が痛んだ。


何やってんだ、俺。


世界で一番笑っていてほしい人を、こんなに大泣きさせて。

挙句手まで出させてしまった。


さっきパソコンを殴って分かったが、殴られた方もだが殴った方も痛いのだ。

アーニャにどれほどの心の痛みを与えてしまったのだろう。

この世界に来て初めて後悔した。


腕で涙を拭くアーニャの前に正座で座り、おでこを地面に付ける。

人生で初めての土下座。


「アーニャ、ごめんなさい。

あまりのショックで、アーニャのことまで考えてあげられてなかった。

逆の立場なら間違いなく俺も同じことを言うはずなのにな。

本当にすまなかった。

こんな俺とだけど・・・一緒にビスープ王国に行ってほしいです。」


「こちらこそ、叩いてごめんなさい。

アタシもう、タローが居ない人生なんて考えられないから・・・。

だから、一緒に連れて行ってください。」


「ありがとう・・・。」


心からの安堵に顔をあげると、皆がほっとしたような表情をしていた。

皆も心配かけてごめんな。


だけどここからが本題なんだ。

狙いが政策の情報だと言うのならいくらでもくれてやる。

その代わり、シェイミにもしものことがあったら全力で潰しに行くからな。



アーニャが落ち着くまで隣に居て手をつないでいると、ダッカスが装備一式を準備してくれた。

日没まで残りおおよそ6時間。

馬を飛ばしてなんとか間に合うくらいだ。


お気をつけて、と隊員に見送られアーニャと並んで馬に乗る。

出発しようとしたところで、後ろからエリーゼに声をかけられた。


「まだタマタローの戦、見てない。」


「必ず帰ってくるよ。いい子で待っててな。」


その言葉に頷いたエリーゼが、口元をフッと緩ませた。

感情が表情に出ない方だとは思っていたが、笑うこともあるんだな。


皆の信頼に応えるためにも、皆で笑顔で居るためにも、必ず助け出すからな。

待ってろ、シェイミ。


「行くぞ!」


「ええ!」


こうして俺たちは、ビスープ王国に向け出発した。

待ち受けるのは罠か、絶望か。


どんなだろうと、全て打ち砕いてやる。



拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします!

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