第21話「また明日も頑張ろう」
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「いくわよ、タロー。」
「ああ、頼む。・・・うっ・・・」
「すっごい・・・タロー、こんなにも硬くなってるわよ。」
「アーニャ・・・うっ・・・そこ、やばい・・・!」
「ふふ、ここがいいの?もうタローの弱点はいっぱい知ってるんだから。」
「初めての時から思ってたけど、やっぱりアーニャはうまいな・・・うああっ!」
「そうかしら?でもこんなこと、タローだけの特別よ?」
「アーニャ、そろそろ・・・!」
「まだダメよ、我慢しなさい。」
「うああっ!もう、無理・・・!」
バアアアン─
「朝っぱらから隊員いっぱい居る家でナニしてんだクルァ!!!」
翌朝。
勢いよく部屋のドアが破壊され、血相を変えたイルシャが部屋に入ってきた。
寝相が悪かったのか、寝起きで背中の張りが気になってアーニャにマッサージをお願いしていた時の出来事である。
とりあえずドア直せよ?
「なにって・・・マッサージだけど。一体何を想像してるのよ。」
アーニャの冷静なツッコミに顔を真っ赤にするイルシャ。
口をパクパクさせてフリーズしてしまった。
まあ朝から訪ねてくるなんて珍しいし、何かあったのだろう。
ひとまずイルシャをリビングに移動させ、着替えて俺たちも後を追う。
リビングに出ると、涙をめいいっぱい溜めながら正座をして接着剤を片手に扉を直すイルシャと、笑顔でイルシャの目の前に仁王立ちするアルシェ。
野菜の収穫を終えて休憩しているダッカスと、昨日遅くまで弟子につきっきりだったルミエが眠そうに首をかくんかくんと揺らしていた。
他の隊員は仲介所のフォローなどの仕事に出ているようだ。
正直怪力の神子の力でバラバラにされた扉が接着剤で直るとは思えないんだけど、アルシェの笑顔が恐すぎるので言わないでおこう。
背後にゴゴゴゴゴと擬音がつきそうな立ち姿だ。
火には油を注がないに限る。
「理由はどうあれ、他人の所有物を壊してはいけないことくらい分かりますよね?」
「はい・・・ごめんなさい・・・。」
そんなやりとりを見つつ席に着くと、ダッカスが取れたてのキュウリとアーケでもらった味噌をテーブルに持ってきてくれた。
まさか戦国時代さながらの世界で味噌キュウリが食べられるとは。
アーニャは最初は怪訝そうな表情をしていたものの、ダッカスと俺が美味そうに食べるのを見よう見まねで最初の一口。
目を細めて頬っぺたに手を当てて幸せそうな顔をしていた。
うちの嫁さん可愛いだろ?どやあ。
「ところでタロー、話があってきたのだけど。」
ポリポリ。
「クロース川で闘った時の、フリード軍軍師の1人が目を覚ましたそうなのよ。」
ポリポリポリポリ。
「真面目な話をしてるんだから、食べるのやめなさいよアンタたち!!」
ゴクン。
「いやすまん。つい美味しくて止まらなかった。
朝から不機嫌全開だと寿命縮むぞ?
それで、会話とかできるのか?」
「アンタたちが朝からあんな卑猥な・・・はあ、まあいいわ。
だいぶ衰弱していて会話はあまりできなかったみたいよ。
回復の時間も要るだろうから夕方くらいまでは待った方がいいかもしれないけど、会いに行ってみたら?」
俺とアーニャがジューンへ行っている間に発見され、カッツェ城内に居ることは知っていた。
フリード軍筆頭軍師、そして『生命の神子』エリーゼ・フォークス・リッチ。
心臓を破壊されない限り、どんな傷を追っても絶対に死なないらしい。
まあ、軍が傘下に入ったことも知らない可能性もあるからな。
そのあたりの説明も兼ねて後で会いに行ってみるとしよう。
それまではアーニャとデートついでに見回りでもするか。
カッツェで出来ることはほとんど終わってしまい、俺にできることといえばそれぞれの事業が円滑に回っているかどうかの確認をするくらいで、あとはシャーリーと武器や防具の相談がたまにある程度。
フリード方面からの流通強化は、フリード側で多くの人材を獲得できたのでそちらにほとんど任せている。
なのであとはナスが出来次第、フェルトの農業発展に注力するだけだ。
昨日のうちにスクードにシャンドラ様宛に手紙を届けてもらうように頼んだし、そちらの準備も進んでいる。
若干手持ち無沙汰ではあるが、新婚生活を楽しむにはちょうどいい時間だった。
アルシェに作ってもらったご飯を食べ、未だに直る気がしないドアの修復を頑張っているイルシャを放置して街に向かう。
アーニャと手をつないで歩くのも日課になってしまったな。
もはや繋いでいないと機嫌が悪いのではないかと思ってしまうくらいには、その状況に慣れつつある。
カッツェの人たちともかなり仲良くなれていて、手を繋いでいるのを茶化されたり喜ばれたりすることも多くなった。
こうして街中を歩いていて確かに感じるのが、住んでいる皆の笑顔だ。
フェルト王国にも負けていないほどの平和さを感じられるようになった。
俺たちが考えて実行してきたことの結果、こうして住んでいる人たちを笑顔にさせてあげているのだと思うとやはり嬉しくなるね。
アーニャもそれは同じのようで、常に上機嫌だった。
次の家庭菜園用の種を買ったり、ゆっくりお茶を飲んだり、小物屋さんでアーニャにプレゼントを買ったり。
のんびりとしたデートだが、街の雰囲気を味わうには一番いい。
ところどころで自分たちが作り出した仕事の様子を伺うこともあったけど、そういうことも大切にしてくれる子だから一緒に居て安心できるのかもしれない。
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たくさんやりたいことはできたとはいえ楽しい時間はあっという間に過ぎ、いつの間にか夕方になっていた。
そろそろエリーゼの様子を見に行ってみようということで、カッツェ城に向かう。
生命の神子だと聞いてはいるが、実際にはどんな人なのか。
実際に話して、じっくり見させてもらうとしよう。
カッツェ城に入りシウバ様に挨拶を済ませ、事情を説明すると案内してくれた。
城内の隅の方の部屋。
ノックして入ると、ベッドの上に座って窓の外を眺めている青い髪の女の子が居た。
ベッドの傍らに置かれている武器や防具は彼女の装備だろうか。
窓から見える夕焼けに目を細めつつ近づくと、こちらに振り向く。
かなりやつれたのだろうか、顔はげっそりとやせ細り、服の隙間から見えている鎖骨も主張が激しかった。
しかしその子の青い瞳は一切の澱みがなく、綺麗に澄み切っていた。
「だあれ?」
正直に言おう。
筆頭軍師と聞いていたので、勝手に年上の方だと思っていた。
そこに座っていたのはシェイミと同じくらいの女の子だった。
このくらいの年齢で筆頭軍師にまでなれるのだから、その才は末恐ろしいな。
「クロース川の戦いで指揮をとらせて頂いた、多摩太郎と申します。
現在はフェルト・カッツェ同盟国の発展請負人、といったところでしょうか。
こちらは妻のアナスタシア・クロイツ・フェルトです。」
妻という紹介に俯きながら会釈をするアーニャ。
夕焼けが差し込む室内でも、顔が真っ赤になっているのがよく分かるほどだ。
「タマタロー、アナスタシア、覚えた。
エリーのことはエリーでいいよ。」
うんうんと頷きながら確認するエリーゼ。
しかしこの幼い喋り方からは筆頭軍師という肩書きが想像もつかない。
謎は深まるばかりだ。
「エリーたちは負けて、どうなったの?」
まあ当然の疑問か。
ひとまず現状を1つずつ丁寧に説明してゆく。
ところどころで頷き、疑問に思うことは聞いてくる。
ゆっくりとした説明になってしまったが、きちんと理解できているようだった。
「そんなことをやっている国に勝てるわけないね。
水攻め、びっくりした。」
びっくりしたで収まってしまうあたり、この子の神子の力が恐ろしくもなる。
イルシャが身近に居て見慣れてなかったら、もしかしたら違う感想を抱いていたかもしれない。
人間ってのは常識にとらわれていて、それと違った行動や人物に対して敵意を向けるものだからな。
あれで命を落とさないなんて化け物だ、なんて思ってしまっていたかもしれない。
一通りの説明を終えるとエリーゼは目を瞑り両手の人差し指をこめかみにあてて何やら考え始めた。
宇宙と交信でもしているのだろうか。
現世の漫画でそんなキャラが居た気がするんだが、もう名前も思い出せないわ。
しばらくするとエリーゼは目を開け頷く。
どうやら交信が終わったらしい。
「うん、エリーもタマタローと行動する。」
「その心は?」
「フリードにはクロちゃんとタっちゃん居る。
でも前線はこっち。後ろは2人が居れば充分。」
クロちゃんはおそらくクロスリーで、タっちゃんというのはまだ会ったことはないがもう1人の軍師のことだろう。
そして話を聞いた限りでは運営方法に問題がないから、自分が居なくても大丈夫だろう、と。
なので前線であるこちらに自分が残り、俺と共に行動するってところかな。
「水攻め、思いつくの理解不能。今後のために見たい。」
自分の見識を広げるためにってわけか。
アーニャに一応確認として視線を送ると、頷いて肯定してくれた。
何も言わずに意思を汲み取ってくれるようになってきたのが結構嬉しい。
「分かった、それじゃあ俺が率いてる隊のメンバーと一緒に暮らそう。
もう出歩いても平気なのか?」
「うん。エリー、死なないから。」
そういえばそうだった。
とはいえこんなに小さな女の子、しかも衰弱している状態で歩かせるというのは俺が納得できない。
仕方ないのでおぶって帰るしよう。
ということで俺がエリーゼをおぶり、アーニャは装備を布にまとめてくるんで持ってくれた。
隊の皆は歓迎してくれるだろうけど、フリードには後で手紙を出して報告しないとだな。
まあ筆頭軍師なだけに呼び戻される可能性の方が高そうだし、それまで預からせてもらおう。
家に着いたころにはすでに夜。
リビングに入ると未だにイルシャが泣きながらドアを修復していて、思わずアーニャと共に笑ってしまった。
もう買い替えなさいとアーニャが提案し、明日工事を依頼することとなった。
そして案の定、隊のメンバーはエリーゼを快く迎え入れてくれた。
アルシェのご飯を食べて幸せそうにしたり、アーニャが顔についたソースを拭いてあげたりと和む光景だ。
実際は叶わないと知っているのだが、アーニャとの間に子どもができたら、きっとこんな風景なのだろう。
その光景はとても平和で幸せで。
いつか世界中がこの光景のように、微笑ましい環境になれるといいな。
世の中のお父さんたちってこんな気持ちなのだろうか。
まだここでは16歳で、子どもは居ないけど。
また明日も頑張ろう。
ブックマークや★評価、本当にありがとうございます!
おかげでますます楽しくかけております。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




