第20話「東の同盟、北の大連合」
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アーニャと家に戻り待つことしばらく。
すでに居たナージャには大事な話があるからと引き留めておき、ルミエの到着を待っていた。
ルミエも現在では国益を管理しながら後任の育成にあたっており、タロー隊の中でもなかなかに忙しい身なのだ。
最近の忙しさを見るに急な呼び立てだろうともなかなかに時間がかか「お待たせいたしましたタロー様ああああ!!はあ・・・はあ・・・・」らなかったわ。
バアアアンと音を鳴らして勢いよくドアが開く。
全力で走ってきたのであろうルミエが息を切らせて汗だくで入ってきた。
弟子を持つようになってから茶色いベレー帽を被り、黒い長いローブを着るようになった。
おしゃれに気を遣うお年頃にまで成長したんだなと少し嬉しくなりつつ、暑そうだとも思う。
あと元気でよろしいけどもう夜だからね、静かに開け閉めしようね。
ひとまずルミエに水を飲ませ、落ち着いたところで本題を切り出した。
「ビスープ王国から友好関係を求められているんだ。
条件としては、ビスープ側は輸入食品の値下げ、こちらからは政策のノウハウの伝授。
他国に情報が洩れる可能性まで踏まえて、これが釣り合うかどうかを一緒に考えてほしい。」
ナージャは顎に手を当て考え、ルミエは内容を書きだして何やら計算し始めた。
正直に言えば情報が漏れたところで、同じレベルでできるとは思っていない。
シャーリークラスの鍛冶師の存在、そしてタロー隊・イルシャ隊ほどの自由度の高いなんでもこなせる人員の存在がないと、この政策は成り立たないからな。
逆に言えばそれがある国に流れたら同じように潤ってしまうという危険性がある。
そこのリスクが今回の議題というわけだ。
「良いんじゃないでしょうか。
おそらくノウハウが流れたところで運営方法を少しでも間違えればただの大損ですし。
今この国で行われている事はタロー様とイルシャ様、そしてシャーリーさんが居なければ成り立たないと思います。」
「とはいえ同じようなカリスマ性や技術力、人材があればできてしまうのも事実なんですよねえ。
そう考えたらおいそれと情報を渡すわけにもいかないんじゃないかなあと思いますよ。
特に東の同盟国は大量の人員を抱えていますし、最近では北の大連合をも吸収しそうな勢いなんです。」
ナージャとルミエの意見が割れた。
確かにどちらの言うことも正しい。
ちなみに東の同盟とはアグナ・ナカジョウ同盟国。
こちらは現在リカンダの最高戦力であり、間違いなく天下統一に一番の障害となる。
中でもナカジョウの国には神子の力を持った3人の豪傑が居るらしい。
その現状最強国家が、北の国をも掌握すると間違いなく勝ち目はないだろう。
ルミエの言葉から察するに今現在でフェルトに攻めてこないのは、北にちょっかいを出しているからか。
北の大連合は同盟とまではいかないが、ある程度の不可侵条約を結んだ4勢力からなる団体だ。
戦国時代で言うと伊達・津軽・南部・最上の4国同盟ってところかな。
互いに戦で助け合ったり攻め込んだりはしないが、物資の売買や物々交換などは積極的に行い自分の国のウィークポイントを少なくしている集団。
4国の総戦力で言えば俺たちよりは少し上、東の同盟よりは下だな。
各個撃破であれば俺たちでも問題なく勝てるとは思うが、攻め込むには東の同盟の領地を通らねばならない。
そこを素通りさせてくれるとは思えないから手出しができないし、されないといった状態だ。
現在の勢力をまとめると。
東の同盟>>>北の大連合>フェルト・カッツェ・フリード同盟といったところか。
もちろんビスープ王国のように普通に暮らしている国もいくつかある。
しかし今の3つに勝てる戦力はなく、どこかしらの傘下もしくは同盟か友好関係を築いている。
中立国家もあるにはあるが、それは今は戦力としてカウントしないでおく。
ということで東の同盟が北の大連合を傘下に引き入れた場合、超巨大戦力となって俺たちを攻め込むだろう。
そうなったらもう関ヶ原どころの話ではない。
ただの蹂躙だ。
そうなる前に相手への情報漏洩は避けておきたい。
巨大な戦力に物資を与えるには巨額の資金が要る。
それを稼ぐことのできてしまう俺たちの政策は、やはりおいそれと教えるわけにもいかない。
だがそれを実行できる人材が居るのかどうか。
「国益で言えば現状でも充分ですし、無駄に情報を漏らすことはないと思いますよ。」
「それは一理ある。正直東の同盟から脅されて、という可能性も否定できない。」
頭を悩ませて唸っていると、2人がフォローをしてくれた。
なるほど、現状で俺たちが満足すれば下手に危険な目に合わずに済むか。
うん、やっぱり2人に相談して正解だった。
「2人ともありがとう、今回の件は断ることにするよ。
ただ、値下げ交渉として攻められた時の戦力の補填はどうかと提案してみようと思う。
もしそれで断られたら狙いは政策だったってことになるからな。
ビスープ王国が政策を知った程度では実行できないし、その場合はきっと裏があると思う。」
提案すると2人は頷いた。
落としどころとしてはこんなところだろうな。
遅くまで頭を悩ませてくれた2人にお礼を言い、その日は解散。
ルミエは弟子たちをほっぽりだして来たらしく、足早に戻っていった。
そこは優先順位あげてあげてほしいところなんだけど、犬みたいに喜んで走ってくる姿が可愛くて注意できないんだよな。
まあこれもルミエのいいところなのだろう。
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翌日再びカッツェ城に足を運び、昨晩話した結果を相手に突きつけた。
トラシーベは少々考えたのち、それならこの話はなかったことにと帰っていく。
やはり何か裏があったか。
トラシーベが外に出たことを確認。
「シェイミ、ちょっと危険な仕事かもしれないけど頼めるか。」
「タロー様のためならどんなことでも。」
物陰からシュバッと姿を現すシェイミ。
正直これをシェイミ1人に任せていいものだろうか悩むところだ。
しかし他に適任が居ないのも事実。
苦渋の決断ではあるが、ここはシェイミの能力を信じよう。
「トラシーベを追跡して、どこからの指令だったのか探ってきてほしい。
かなりの危険が付きまとうかもしれないから細心の注意を払ってほしいんだが、頼めるか?」
「お任せくだっ・・・しゅあい・・・。」
決め台詞で噛むとか可愛いなこの子。
うるうると痛そうに目を潤ませ、口を抑えるシェイミ。
頭を撫でつつ「頼むな」と改めてお願いすると頷き、シュバッと姿を消した。
付き合いの長い俺でも姿を見失うのだから、初見で襲われる可能性は低いと思う。
だが油断は禁物だ。
いかにすばしっこいとはいえ、まだ12歳の女の子だ。
出会った頃は目立たなかったものの徐々に身体も女の子らしくなってきたし、色々と心配してしまう。
そんな俺の気持ちを読んだのか、アーニャが手を握ってくれた。
「大丈夫よ、シェイミを信じましょう。」
ああ、本当にこの子は俺のことがよくわかってる。
その時々で一番かけてほしい言葉をかけてくれる人が一番近くに居るということが、とんでもなく幸せだな。
「ああ、そうだね。ありがとうアーニャ、愛してるぞ。」
「ふぇえっ!?い、いきなり何よ!!」
握った手をペシペシと叩くアーニャ。
この恥ずかしがりなところもまた可愛いんだよなあ。
「主ら、我の前でそのような行動は控えてくれぬか・・・。」
「「申し訳ありません!!!」」
勢いよく手を放してシウバ様に2人して頭を下げる姿に、城内は笑いに包まれた。
恋は盲目という言葉の意味が、アーニャのおかげで最近ようやく分かってきた気がする。
しがないエロゲーマーで、数えきれない程ティッシュに発射してきたソロプレイヤーだった俺がこんなことを思う日が来るとは。
人間って変われるんだな。
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拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
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