第2話「なんて便利な世の中なんだ」
アーニャに連れられるがままに部屋の外に出ると、とんでもなく長い廊下に出た。
名前から察してはいたが、やはりアーニャは姫様だったか。
そして俺が居た場所は王宮の一室ということだ。
いや、王宮というよりは城のような造りにも見える。
ホント戦国時代って感じだな。
3つ隣の部屋に入れられ、侍女らしき人に男の服をいくつか見繕ってもらった。
着替えていると先ほどの侍女さんがアーニャに声をかけていた。
「アナスタシア様。旦那様がお呼びです。」
「タマタローの件かしらね。着替えが済んだらすぐに向かうわ。」
姫であるアーニャの父親ということは、この国の主なわけで。
謁見イベント早すぎやしないか。
いや、他の世界から呼び出したのだから、人となりを知ろうとするのは当然か。
着替えを手短に済ませ、パソコンを片手にこの国の主が待つ部屋へと向かった。
「お父様、タマタローを連れてきたわ。」
「入れ。」
ノックの後アーニャが声をかけると、中から低く渋くてカッコいい声が聞こえた。
男としてそんなカッコいい声には憧れるね。
アーニャが部屋に入るのを待ってから、あとに続いて中に入る。
とんでもなく広い部屋を想像していたのだが、意外とそんなことはなかった。
広さで言うと視聴覚室程度だろうか。
入口の正面に赤い絨毯のようなものが敷かれ、その数メートル先に3段ほどの段差。
その上に木で作られたであろう、お世辞にも立派とは言えない椅子に腰かけた40代くらいの男。
騎士のような鎧を身に着けてはいるものの、弱小国というのが見て分かる程度の装備だ。
これなら現世でやったRPG勇者の最終装備の方が立派だろうな。
そんな感想を抱いた。
腰かけた男は、両脇に同程度の装備を身に着けた男を携えている。
戦士長か誰かだろうか。
片方は朗らかな笑顔を、もう片方は軽蔑の目をこちらに向けてくれている。
しかし現世でもこういった校長室みたいな偉い人が居る部屋に入るのは緊張したが、それはここでも変わらない。
目上の人と話す機会というのは、どこの世界も緊張が付きまとうんだな。
かと言って黙りこくっても居られない。
こちらから挨拶するのが礼儀だろう。
「お初にお目にかかります。名を多摩太郎と申します。」
現世で見たアニメの中のキャラがやっていた、片膝と片手を地につけて頭を下げるポーズをしながらの挨拶だ。
俺が見てきたものの中で、最も失礼のない挨拶だろう。
それはここでの反応も変わらないようだ。
「うむ、面を上げよ。
第8代フェルト王国国王、シャンドラ・フリード・フェルトである。
我が呼びかけに応じ、この世界に参られたことに礼を言おう。
して、タマタローよ。
主は剣の達人というわけではあるまいな?」
8代目ということは、そこまで長い歴史のある国家というわけでもないのか。
むしろ大切なのはここからだろう。
まずは地盤を固めるところからだな。
「はい。申し訳ございませんが、武芸の経験はありません。」
「ふむ。ならば主は何ができる?」
何ができる、か。
転生のおかげでいきなり武芸ができるようになってたりしない限りは、戦で俺に出番などないだろう。
何せ今の俺は10歳の子どもだ。
大人たちが闘う場に居ても足手まとい以外の何物でもない。
となると軍師よりの配置が好ましい。
そちら方面で何かを示せれば良いのだが。
ふとパソコンに目をやり、考える。
もう少し時間が欲しいな。
「・・・誠に勝手ながら、少々お時間を頂けますでしょうか。
幾分先ほど目覚めたばかりで、自分自身何をどこまでできるのか把握しきれておりません。
故にその確認をさせていただきたく。」
「良かろう。
急ぎではあるが、今すぐにしなければならぬというわけでもない。
アナスタシアが我の都合を把握しておる故、タイミングは任せる。」
「かしこまりました。
寛大な措置、痛み入ります。では、出直して参ります。」
再び頭を下げ部屋を後にし、初の謁見を終えた。
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部屋を出ると、アーニャがにやにやとしていた。
「タマタロー、難しい言葉を使うのね。
私もそうだけど、お父様もたぶん半分くらい理解できていなかったわよ。」
なん・・・だと・・・
俺も合ってるかどうか分からないけど、丁寧そうな言葉をわざわざ選んで使ったってのに。
ある程度はアーニャと話すくらい砕けた感じで大丈夫ってことだろうか。
「とりあえず、部屋に戻ろう。
自分に何ができるのか把握しておきたい。」
アーニャと共に部屋に戻り、パソコンを使用する体勢に入る。
アップグレードされているのは理解したが、どの程度までされているのだろうか。
グー〇ルで地図を試しに開いてみると、見たこともない地形が表示された。
当然日本ではない。
が、右上から左下に伸びている辺りは日本の地形に近いと言えるかもしれない。
本州しかなく、その太さが3倍くらいあるけど。
地理に詳しいわけではないが、世界地図にこんな地形の大陸はなかったはずだ。
俺が顎に手をやり考え込んでいると、アーニャが不思議そうに隣から覗き込んできた。
「あら、リカンダの地図ね。」
「リカンダ?」
「この大陸の名前よ。フェルト王国はこの辺りね。」
そう言い、地図の真ん中よりも少々左下の辺りを指さした。
仮にこれを日本の本州に当てはめると、愛知県あたりだろうか。
戦国時代で言うと尾張の辺りだ。
ちょうど大きな川も近くに流れてるし。
戦国時代に当てはめると、テンションあがってくるな。
地図が出るなら天気予報はどうだろうか。
試しに見てみると、週間予報まで完璧だった。
今日は夕方から急な雨に注意、か。
ふむ、これでいこう。
その後も色々試してみたが、全てがこのリカンダ大陸にも対応していた。
加えて、今まで通りの検索が普通にできるままなのだから恐ろしい。
本当にこれは魔法の道具と言っても過言ではない気がしてきた。
アーニャによると、国王は16時頃まで公務があるらしく、その後にならなければ会えなそうだ。
それならばこの世界のことをもっと知るために時間を使おう。
現在時刻は、昼の11時過ぎ。
アーニャに頼み、街を案内してもらうことにした。
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「シャーリー、お邪魔するわよ。」
アーニャに生活に必要なお店を教えてもらった後、どうしても連れて行きたい場所があと2か所あると言われた。
その1つ目であろう鍛冶屋へと入ったところだ。
この国の建物は1つ1つがそこまで大きくない。
弱小国の城下町などこんなものだろう。
ここまでの案内でそんな感想を抱いていたのだが、この鍛冶屋はかなり大きい。
体育館くらいはある。
その建物の長だろうか。
シャーリーと呼ばれた女性はこちらに気付くと指示の手を止め、俺たちの居る入口へと向かってきた。
「あらアーニャ、久しぶりね。そちらは?」
現世の俺と同じくらいの年齢と思しきシャーリーは、いかにも鍛冶師といった格好で出迎えてくれた。
左頬にすす汚れが付いているが、特に気にした様子はなさそうだ。
綺麗なお姉さんといった見た目なのに、鍛冶師の格好のせいで台無し感がすごいな。
着飾れば絶対にモテそうなのに。
「異世界から来た、タマタローよ。
我が国最高の鍛冶師を紹介しておきたくて。」
フフと笑いながら言葉を返すアーニャに、シャーリーは少々照れた様子で頬をかいていた。
「タマタロー、こちらシャーリー・フィールス・テレスト。
我が国が誇る最高の鍛冶師よ。
こちらはタマタロー。
異世界から来た我が国の救世主になる男よ。」
なれるかもしれないとは思ったが、他人に言われると恥ずかしいな。
2人して照れながら挨拶を交わす様子は、あまりにも滑稽だっただろう。
しかし満足そうなアーニャの笑顔を見ていたら、まあいいかという気にさせられた。
この子はかなりのカリスマ性を持ち合わせているのかもしれないな。
「それなら未来の救世主様に、恩でも売っておこうかしら。
何か作ってほしいものはある?
槍でも剣でも、初回はサービスしておくわよ。」
そう言われて最初に思いついたのは、やはり日本刀。
やっぱり男として憧れる。
早速パソコンで画像を検索し、日本刀の画像をシャーリーに見せてみた。
「こういうのは作れますか?
僕の居た世界の武器なのですが。」
画像を見たのち顎に手をやり、「ふむ」と小さくこぼして試案するシャーリー。
やはりこの世界に刀は存在しないのか。
剣は作れるらしいから、どちらかと言うと西洋の武器の方が主流なのかもしれない。
騎馬が欲しくなるな。
「ひとまずやってみよう。
この武器について、重さや長さ、強度とか情報が欲しいな。」
そう言われ検索。
刀 作り方 っと。
なんでも検索できるとは、なんて便利な世の中なんだ。
しかしアーニャと違ってシャーリーはパソコンにあまり反応しないんだな。
間違いなく見たことないだろうに。
検索結果を見ながら唸るシャーリーを見つつ。
アーニャに声をかけてみる。
「シャーリーって鍛冶以外、あんまり興味がない感じの人?」
「よくわかったわね。
鍛冶の腕は間違いないのだけど、それ以外は本当にからっきしよ。
料理や掃除も私の方ができると思うわ。」
まじか。10歳児に負けるなよシャーリーさん。
「ふむ、大体分かった。とりあえずやってみるよ。
1週間ほど時間をくれるかしら?」
パソコンから顔を上げてこちらを見るシャーリーに頷きを返すと、早速取り掛かるとのことで建物の奥に入っていってしまった。
アーニャもシャーリーはそういう人物なのは重々承知しているとでも言わんばかりに、「次に行きましょうか」と提案してきた。
「そうだね。」
シャーリーの入っていった先に頭を下げつつ、外に出るアーニャに続いて鍛冶屋を後にした。
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続いてやってきたのは、学校らしき場所だ。
時間的には放課後なのだろうか、多くの子どもが外ではしゃいでいた。
アーニャや今の俺と大差のない年齢の子が一番多く、上は高校生くらいまでは居そうだ。
アーニャの姿を見つけるや否や、20人くらいがすぐに周りに集まってきた。
流石お姫様。人気者だ。
鍛冶屋の時のように紹介され、「同い年くらいなのにすげー」とキラキラした純粋な目で俺を見る子どもたち。
そんな目で俺を見るな。
後ろめたさに押しつぶされるわ。
「タマタロー、将来のフェルト王国を支える子たちよ。
今のうちから仲良くなっておいて損はないわ。
いずれ同じ隊で組むことになるかもしれないしね。」
「なるほどな。
そういうことなら、今から数年後に向けて鍛えておくのはどうだろう。
もし隊を組むことになるのなら、最低でも10人くらいは欲しいしな。」
その案は採用され、時間ができた時はここに来て子どもたちと交流の時間を作ることとなった。
今すぐにでも滅亡の危機を迎えるような状況であれば、もっと早くに最強剣士を召喚していただろう。
つまり今はまだ時間があるということだ。
その時間を有意義に使い、数年後彼らが戦力となった時。
この国の、いやこの世界の最高戦力となりうる部隊の完成だ。
なんでそんなこと言いきれるか、なんて決まってる。
現世の知識と技術をたたき込むのだから、戦国時代で後れをとるはずがないだろ?
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拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!
今後ともよろしくお願いいたします。