第18話「アタシが一番じゃないとやだ」
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目を覚ますと日は高く昇り、これでもかと大地を照らしていた。
結局朝までどんちゃん騒ぎをし、疲れ果てて眠ってしまったらしい。
気持ち悪いし、かなり頭も痛い。
現世で親父が二日酔いになっているのを見て、そんなになるまで飲むなんてアホだなと思っていたのをうっすらと覚えている。
その時の俺が今の俺を見たら、間違いなく同じ感想を抱くことだろう。
ということで人生初の二日酔いなのだが、周りを見渡してあまりにも酷い惨状に酔いが若干覚めた気がする。
どうしてこうなったのかまったく記憶にないのだが、アーニャが俺の腕の中で寝ている。
そしてシャンドラ様は普段座っている玉座に突っ伏して爆睡。
イルシャに至っては自身の身長と同じくらいの大きさの空の酒瓶に抱き着いて幸せそうな顔で寝ている。しかも下着姿で。
それ全部飲み干したのかとか、どっから持ってきたとか、なぜ脱いでるとか言いたいことばかりだ。
ナージャとホリィが皆を起こさないようにしながら、静かに後片付けをしていた。
アーニャを起こさないように抜け出し、俺も片付けを手伝おうと立ち上がる。
それに気付いたホリィが大きめのコップいっぱいに水を用意してくれた。
お礼を言いながら受け取って飲み干す。
「2人は・・・そうか、来年成人か。」
「そうですよ。ちょっと寝不足ですが、お酒は飲んでいないので問題ありません。」
ホリィは俺からコップを受け取り、後片付け作業に戻っていった。
俺も微力ながら手伝うとしよう。
半分程片付けが終わったあたりで、徐々に周りのメンバーが起き始めた。
どいつもこいつも二日酔いで世話がかかったが。
ほぼ全員が頭痛や吐き気をもよおしながら動く様は、フリード軍に本当に勝利したとは思えないほどには酷かった。
「んあー、よく寝た!あら、片付けなら手伝うわよ。」
「いや、まず服を着なさい!!」
イルシャが大声で起き上がり、そのままの恰好で後片付けに混ざろうとしたところでナージャが服を持って止めに入った。
ナージャに追いかけられ咄嗟に逃げて俺の後ろに隠れてくっつくイルシャ。
「助けてタロー!アタシの服を脱がせようとあいたっ。」
いやこんなに可愛い女の子に下着姿でくっつかれて喜ばないはずはないのだが、如何せん心臓に悪い。
豊満とは言えないが、手のひらサイズのちょうどいい山の感触が背中にくっつかれては流石に辛い。
ということで無言のチョップをかましておいた。
あの大きさの瓶を空けておいて、起きてすぐ走れるとは。
間違いなく1番多くの量を飲んだはずなのだけど。
イルシャの辞書には二日酔いという文字はないのだろうか。
そのやりとりにシャンドラ様やアーニャを含めた全員が目を覚ました。
アーニャはよだれの跡が、シャンドラ様は椅子の淵の跡がくっきりと顔に残っており、全員で大笑いしてしまった。
他の国では王を笑うなど論外だろうが、平和を志すフェルトだからこそ許される光景だろう。
後片付けが終了する頃には、すでに夕方になっていた。
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夕方に解散し、カッツェへ戻ってきた時には夜になっていた。
シウバ様に結婚の報告をし、家へと戻ってきた。
椅子に座り、ようやく一息つける。
椅子ごと台所の前に移しアルシェとダッカスが大急ぎで晩ご飯の準備を始めてくれているのを眺めていると、アーニャが膝の上に座ってきた。
結んだポニーテールが顔をくすぐって、少しこそばゆい。
「昨日のイルシャが言ったこと、確かにって思わされたわ。」
「奥さんが多いほうがってアレか?」
「うん・・・アタシじゃどう頑張っても1人しか産めないし、産んだ後は死んじゃうでしょ?
そうなったらこうしてタローと過ごすこともできないし。
タローの子どもは絶対に多い方がこの国のためになるはずなのよ。
でもアタシじゃそれは叶えられないから、奥さんが多いほうがいいってことには賛成よ。」
「にはってことは反対なこともあるのか?」
「・・・・・・だ。」
この距離でも聞き取れないほどの小さな声に、思わず聞き返す。
すると顔を真っ赤にしてこちらに振り向いた。
「アタシが一番じゃないとやだ。」
あぶねえ。
恥ずかしそうに俯きながら、顔を真っ赤にして言うアーニャが可愛すぎて悶え死ぬところだった。
そんな可愛く、きちんと国のためを思って言ってくれた奥さんをしっかりと抱きしめる。
「当たり前だろ。そう思ってなかったら結婚しようなんて言わないよ。」
その言葉にさらに顔を赤くさせて、思いっきりぎゅっと抱き着かれた。
えーなにこの可愛い生き物。
「・・・アンタたち、自分の家買ったら?」
イルシャの冷静な言葉に、2人して超反応で離れる。
顔を真っ赤にして俯くホリィ、あきれ顔のイルシャ、台所では「あらあらまあまあ」といった表情で鍋をかき混ぜるアルシェ。
完全に2人の世界に入っていたけど、タロー隊のメンバーが大勢居るんだった。
イルシャが言ったように家を買うなり、きちんと考えるようにしないとだな。
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翌朝、普段通りの時間に目が覚めた。
変な時間に寝てしまったから夜寝れるか心配だったものの、移動疲れが溜まっていたのかぐっすり眠ることができた。
隣で寝ていたアーニャも同じのようで、俺が起きた気配で目が覚めたようだ。
2人で起きて着替え、外に出る。
最近見ることができなかった畑の野菜たちの様子を見に行くと、きゅうりの苗がもの凄い高さまで成長していた。
その苗からぶらさがる大きく立派なきゅうり。
そしてたくさんの赤いトマト。
昨日帰ってきた時は暗くて気付かなかったけど、こんなに立派に育っていたとは。
おそらくジャークやアルシェあたりが面倒を見てくれたんだろう。
「あれ、お2人とも早いですね。」
じょうろと大きな籠を持ったジャークが家から出てきた。
やっぱり面倒を見てくれていたのか。
収穫の仕方を聞きながらできた野菜を取っていると、実は収穫は2回目なのだと教えてくれた。
1度同じくらいの量を収穫でき、まだ暖かい気候が続いたのでアルシェたちと一緒に田植えから面倒を見ていたとのことだ。
1度目に収穫したものは残念ながら食べてしまったらしいが、それでもアーニャは楽しそうに収穫している。
何回目であろうと、自分たちで作った野菜ということで嬉しくなってるのかな。
結局今回はきゅうり4本とトマト5個を収穫。
ナスは来月くらいに初収穫ができそうな塩梅だ。
にしてもやはりジャークの農家の知識は素晴らしい。
俺はパソコンで知識を検索できるのに対し、家で培ってきたことが存分に発揮されている。
アーニャがやりたいと言った家庭菜園ではあるが、俺に付きっきりで見れていなかった時期もある。
その間きっちりと面倒を見て、植え替えなどまでやってくれていたのだ。
今回のお給料にお礼として上乗せしてあげるとしよう。
その後は収穫した野菜をアルシェが調理し、皆で美味しくいただいた。
ナスも成功となれば、いよいよフェルトでも本格的に開始できるな。
そのための土地を多く用意してもらえるようにシャンドラ様に報告を入れておくとしよう。
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ご飯を食べ終えると、イルシャに城に誘われた。
なんでもシウバ様が悩みがあるとのことだ。
アーニャは野菜の面倒を見るとのことで、イルシャと2人でカッツェ城に向かう。
遅い時間ではあるが、シウバ様が悩んでいるのであれば力になってあげたいからな。
城に到着しシウバ様が待つ部屋に入ると、大量の書類に頭を悩ませていた。
ある程度の事情を聞き、ほとんどの書類が仲介所や牛丼屋の肉の輸入関連のものだと把握。
すぐさまルミエを呼び、共に処理していくことになった。
自分が行っている政策の内容くらいは把握しておきたい。
そして困っているシウバ様を助けてあげたい。
そんな気持ちで俺も手伝い、ルミエの高い情報処理能力で一気にこなしていく。
1時間少々で全ての書類を処理することができた。
「さすがの情報処理能力ね。
そんな彼女を従えて、自分も手伝うタローも素敵よ。」
作業が終了し一息つくと、イルシャに声をかけられた。
普段よりもなんだか距離が近い気がする。
もともと俺についてくるつもりで仲間になっているし、この前の発言からも読み取れるがまあそういうことなのだろう。
悪い気はしないけど、1番じゃないと嫌だと面と向かって言われたしな。
「ありがとうな、イルシャ。
今はアーニャと結婚したばっかりだから、すぐに他の人とってわけにもいかないよ。
でもそのつもりでついてきてくれているのは知っているから、おいおいな。」
「それが聞けただけでも収穫だな!
でも、あんまり待たせると襲いに行くからな?」
「神子の力で襲い掛かられたらたまったものじゃないから、きっちりとアーニャと話してなるべく早く応えられるようにしておくよ。」
その言葉に満足そうな笑顔をするイルシャに見送られ、ルミエと共に帰路につく。
子を残すという言葉の後にこういった行動をされているのだから、多少気恥ずかしさはある。
「いいなあ、イルシャ様・・・。」
帰り際にルミエが小さくこぼす。
現世の頃には考えられなかったが、これはモテ期というやつか?
いやいや、俺にはアーニャという心に決めた人が・・・!
ああでも本人も多妻制には賛同してくれていたし・・・。
結局家に着いても、その考えの結論は出なかった。
そりゃ現世では彼女すらできたことのない魔法使いだったからな。
モテ期なんて考えても分かるはずもなかったわ。
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