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第16話「フェルト家の代償」


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そういえば今日は誕生日か。

忙しすぎて日付の感覚なんてなかったわ。

これで俺もこの世界での成人を迎えたことになる。

それを家族と過ごせないのは少々寂しい気持ちもあるが・・・現世ではこんな気持ちになったことはないのだけどな。

まさか自国はおろか、リカンダ大陸最西端で迎えることになろうとは思ってもいなかった。

とはいえ誕生日だからと言って特別やることが変わるわけでもないし、いつも通り視察といこう。



この西端の街、ジューン。

三方を海に囲まれ非常に漁業が盛んな街で、リカンダ有数の漁業都市だ。

内陸部へと魚を生で運ぶのは現状ほぼ不可能ではあるが、干物に加工して輸出しているだけでもかなりの額になるのだそうだ。


そんな西端の地に立ち、浜風を感じながら海を見る。

視界のどこまでも広がる大海原に、いくつかの漁船が漁をしている姿が目に入った。

アーニャも俺の隣で、あまりの暑さに両手を大に広げて風を感じている。

首にひもでくくっているものの、大きな麦わら帽子が飛ばされないかが心配だ。


「風が気持ちいいわね!」

「この景色が見られただけでも来た甲斐があったな。」


願わくば後で夕焼けも見てみたいところではあるのだが、このあとジューンの仲介所建設の最終確認をしたのち、フリード軍軍師のクロスリーと共に食事を摂ることになっている。

まあ彼女とも色々話したいことがあるし、いいんだけどさ。

ゆっくりできる時間は今しかなさそうだ。


アーニャが浜辺で楽しんでいる姿を日陰で見つつ、クロスリーと話しておきたいことを頭の中でまとめる。

今頃街中で職業説明会をやっているはずだから、あんまり多く詰め込んでも申し訳ない。

それにある程度はカッツェに居る間に話しておいたし、今後の流れの軽い確認程度でもいいか。

脳内解決をしていると、とても満足げなアーニャが近づいてきた。

ここのところ移動づくめだったからな。

ゆっくり羽を伸ばせたようでなによりだ。


海でテンションあがっているのも、なかなかこういった遠出ができる環境ではなかったことも関係していると思う。

川は川でテンションあがるけど、海とはやっぱり違うからな。

弱小国ということもあり多くの領地に恵まれなかった。

そして国の王の娘として生まれ城で多くの時間を過ごしたアーニャにとってはもはや旅行気分だろう。

俺と居ることで、色んな景色を見せてあげられたらいいな。


「アーケも良かったけど、アタシはこっちの方が好きね。開放感があっていいわ。」


アーケとは現代日本で言う兵庫あたりにあるフリード国最大の都市だ。

ここに来る前にアーケにも寄り、名産品のお漬物をたくさんいただいた。

この時代でも漬物ができるんだと感心し、作り方を思わず教わってしまったほどには美味しかった。

ジューンが海の幸と言うなら、アーケは山の幸だ。

程よく温かい気候の季節が長く、大量の野菜を作れるのだとか。

ただあまりにも大量にストックされてしまい管理方法を見誤り、挙句に自然に完成したのがその漬物の起源なのだそうだ。

今では物流がよくなったおかげで程よく輸出できているため、廃棄になる食材は本当に少ないらしい。

やはり農業都市はそれが理想だよな。

フェルト王国の目指す姿として、色々な情報を聞かせてもらったよ。


話が脱線した。

ひとまずアーニャと共にギルドの建設現場に向かうとしよう。



建設の進捗はかなり良いほうで、あと数日もあれば完成に至る程度まで進んでいた。

久しぶりに会うイルシャ部隊の数人に挨拶をしたり、フリード軍のメンバーとはうまくやれているかの確認をしたり。

ここで出来るのはこの程度の作業だ。

あとは先ほど終了した職業説明会の反響の確認と、クロスリーによる面談の手際の良さがいかほどかにかかっているな。


あまりにもフェルト王国から離れすぎているため、ここに常駐はおろか頻繁に来ることもままならない。

実際ここに来るまでアーケに長く滞在したとはいえ、2か月ほどかかっている。

往復4か月は何度も来れる距離ではないな。

新幹線ってすげえなホント。


なのでここには都市の長と補佐として数人を決めてあり、そのメンバーによって運営してもらうことになっている。

現在クロスリーはその面々との打ち合わせをしているらしい。

基本的にはこのジューンでは多くの金銭を作ってもらい、それを前線に流すという漁業都市ならではの重要な役割で、ジューンとアーケの2大主要都市には直接顔を出したというわけだ。

アーケにはフリード自ら常駐しているので、そこはあまり心配はしていないけど。


とりあえずしなくてはならない確認も終え、アーニャと共に先に食事処に向かってクロスリーを待つとしよう。



-----


「今日は誕生日だし、タマタローの分はアタシが出すわ。」

「気持ちだけ受け取っておくよ。正直使い道がなくて困ってるんだ。」


予約していた食事処に入り個室のテーブルに案内され、並んで着席したところでアーニャからそんなことを切り出された。


フリードとの戦に勝利したフェルト王国は、俺たちが進めていた政策の国益と合わせて、かなりの金額を得ていた。

しかし全ての政策は俺が作ったのだから、それなりの報酬を渡さなければならぬとシャンドラ様からのお達しがあった。

フェルト・カッツェ同盟国の国益の3%が毎月、そしてフリード撃破及び傘下へ招き入れた報酬が超大量。

それが俺に入ってきている。

もちろん俺個人の金というよりは隊のお金という認識ではあるのだが、そこはルミエが全額はダメだと雷を落とした。

ひとまずはフリード関連の報酬の半分と、毎月の国益の3%の半分を隊の資金に。

それ以外は俺の個人資産ということで落ち着いている。

当然その資金からイルシャに借りた家の設立にかかった費用は全て返済済みだ。


まあ何が言いたいのかと言うと。

こんなにバカみたいに金をもらっても使い道がないのよ。

確かに現世でこれだけ稼ごうと思ったら数十年かかるかもしれないけども。

最初は喜んでいたけど、こんなに多額をもらっても正直困っている。

課金するゲームもなければ、今まで酒も飲んではいけない歳だったし。

今回の遠征資金もフリードが全額出してくれてるし。

ようは減らないのだ。


これから家族が出来た時のための資金だと思ってはいるものの、どうしたものかな。

ぶっちゃけ権利収入で毎月働かなくても生活できる仕組みにはなってしまった。

それをすると現世の失敗を繰り返すだけだから、今みたいにきっちりできることをやっているけど。

家族ができたら、家族のために時間とお金を使えるようになれればいいかな。


そんな話をアーニャとしていると、クロスリーが疲れ切った姿で食事処に現れた。

職業説明会に、この国の中枢との打ち合わせとハードな1日だったからな。

ひとまずは労っておこう。


「お疲れ様です、クロスリーさん。」

「お久しぶりです。」

「やあ、久しぶりだね。カッツェで開放されて以来かな?」


疲れた顔をしつつも元気に挨拶を返してくれるクロスリー。

俺たちの向かいの席に座り、飲み物を頼むとこちらに顔を向けた。


「今日はイルシャは居ないんだね。」


「イルシャが居る居ないでは戦力に大きな差がありますからね。隙を見せないためにもなるべく前線に居てもらわないと。」


「それは確かに。ここまで往復で4か月くらいかかるもんな。」


「本当はこちらに来るときについていくと聞かなかったんですけどね。僕らが居ない分、フェルトとカッツェの仕切りをしつつ戦に備えてくれと納得してもらいました。」


「あっはは!意外とあの子も寂しがりなんだね。」


飲み物が到着し、一気に半分飲み干しながら大笑いするクロスリーさん。

捕虜中の扱いの良さが気に入ったのか、フリード軍の中では一番気さくに話してくれている。

フリードはなんというか忠犬タイプで、俺とイルシャに逆らってはいけないと思っているのが丸わかりの対応といった感じだ。


「とりあえず食べようか!このお店は活け造りが最高だぞ!」


「いいですね、是非いただきましょう。」


「雰囲気でそんな気はしていたけど、やっぱりお高いお店なのねここ。」


16歳でこんな高級店で普通に食事しているなんて、現世ではありえなかった。

この世界に来た6年前でもそんなことは思っていなかったけど。

ここ1年でのフェルトの急成長は目を見張るものがあるしな。

その土台を作った張本人ではあるので、たまの贅沢を今は堪能させてもらうとしよう。


その後はクロスリーさんと話しておかなければならないことを話し、勧められるがままにアーニャと共にお酒を飲まされて2人ともフラフラに。

たしかに飲めるようになったとはいえ、初日からいきなり飲むことになるとは思ってなかった。

現世でもほとんど飲んだ試しがなかったので、一瞬で酔っ払ってしまった。


楽しい食事会を終え、今日はこのままジューンに1泊。

明日カッツェに向けて帰路につく予定だ。

少し夜風にあたってから部屋に行こうとアーニャに誘われ、昼間にきた浜辺を2人でゆっくりと歩いている。

昼間とは違ってまったく明かりがなく、月あかりと海に反射する光くらいしか光源がない。

そんな中、浜辺を若干の千鳥足で先行するアーニャを心配しつつ見ていると、急にこちらに振り返った。


「タマタロー。・・・その・・・結婚できる年齢になったわけだけど・・・えっと・・・」


暗くてはっきりとは見えてはいないが、たぶん顔を真っ赤にしているであろうアーニャ。

いつも言葉を濁したりしない方なだけに、お酒が入った頭でもそういう会話なのだろうと予想するのはたやすかった。


「正直、こんなに早くここまでフェルトを大きくすることができるとは思ってなかったよ。

以前気にしていた甲斐性も今となっては問題ないし、今後戦以外では比較的時間もできると思う。

だから前と違って、今は後ろ向きなわけじゃないぞ。」


「そうなんだ!ふーん・・・そっかあ・・・」


急に声のトーンが明るくなったと思えば、急に暗くなった。

現世で美少女ゲームを散々してきた俺だが、実際に自分がこうなると思考がうまくまとまらないものだな。

酒に酔っているのもあるかもしれないが。


「タマタローはさ、アタシが片親なのは疑問に思ったことはない?」


それはあるに決まってるが、今は戦乱の世。

最悪の場合を想定して、そういった話は触れないように過ごしてきたつもりだ。


「アーニャが自分から話すまでは聞くつもりはなかったよ。」


「そう・・・よね。」


まあ正直今までのアーニャの態度を見ていれば、俺への好感度が高いのは流石に分かる。

そんな中でも切り出されなかった話題だ。

遂に話してくれるということだろうか。


「・・・・・・フェルトの家系はね。

タマタローを呼び出した禁術があるじゃない?

あの術を使えるという代わりに、代償を常にその身に宿しているの。」


「どういうことだ?」


「あの禁術は一代につき1度だけ使用することができるんだけどね。

その大きすぎる力の代償として、ある大きな枷がつけられているの。」


まあ確かに他の世界から人間を呼び出すなんて芸当だ。

それなりに大きなデメリットがないとチートもいいとこだろう。

頷く俺に、アーニャが悲しそうに言葉をつづけた。


「・・・フェルト家の母親は、子どもを1人産んだ瞬間に死に至るの。

それが母親が居ない理由よ。」


あまりの事の大きさに言葉を失った。

つまりなんだ。

アーニャが一族の血を残すために子どもを産むと、アーニャは死ぬということか?


こんなにも毎日楽しそうに笑っているのに。

その笑顔の裏では、とんでもなく大きな枷に悲しまされているのか。

愛する人との間に出来た我が子を抱くことも許されない。

そんな幸せも感じることができないなんて悲しすぎるだろ。


「前に、フェルトで言ってくれた言葉だけど。

それを知ったうえで、それでもまたアタシに言える・・・?」


悲しみが涙となって溢れだした。

アーニャが声を震わせ、袖で涙を拭いながら俺に問う。

ここで逃げるわけにはいかない。

逃げたら間違いなく、一生後悔するだろう。


この世界に来て一番最初に会い。

この6年間、誰よりも俺の傍に居てくれて。

そして誰よりも、俺のことを愛してくれている。


そんな女の子が今、意を決して変えることのできない自分の運命を話してくれた。

溢れる涙を止めることができずに、それでも俺を見てくれている。


後悔だけはしない生き方をしよう。


それがこの世界での、俺の選択だ。


「・・・俺がその運命をどうにかしてあげられるとは、正直思えない。

けど、俺の気持ちはそれを聞いても変わったりはしないよ。

・・・しょっちゅう喧嘩して、不機嫌にさせてしまったりすることもあるけどさ。

それでもアーニャには、俺の隣に居てずっと笑っていてほしい。

シャンドラ様の志を立派に引き継いだアーニャが居たからこそ、俺もその夢に向かって頑張ろうと思えたんだから。」


未だに溢れる涙を拭い、鼻をすすりながらアーニャが頷く。

勇気を出して話してくれた。

今度は、俺が応える番だ。



「だから・・・一生俺の一番近くで、その夢を叶えるための支えになってください。

・・・結婚しよう。」


その言葉を聞いたアーニャは、またも涙を溢れさせた。


でも今度は悲しくて溢れたわけではなく。


涙でくしゃくしゃになりながら、満面の笑みで飛びついてきた。


「・・・はい・・・!

こんな呪われた女ですけど・・・末永くよろしくお願いします・・・!」



リカンダ大陸最西端の街、ジューン。

その最果ての地の静まり返った海に誓う。


この子を生涯愛し、共に笑顔で過ごしていこう。


どちらからともなく吸い寄せられるように唇を寄せる─


ガッ─


「痛って・・・」

「ごめんー!!嬉しすぎて勢いつけすぎたわ・・・」



現世も通して初めての口づけは、血の味がした。



拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします!

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