第15話「民が笑顔で居られる国と、そうでない国」
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カッツェ城にフリードが直々に来たということで、俺たちは急いで城に向かった。
アーニャ、イルシャ、ナージャ、シウバ様と揃い踏みだ。
シウバ様の前に跪く長い顎髭の中年男性。
装備はフェルトよりは豪華だが、そこまで鉄壁の防具かと言われるとそうでもない。
フェルトの装備がRPG初期装備なら、フリードの装備はレベル20くらいの中級装備といったところだろう。
まあ実際この世界の鍛冶師のレベルはそんなに高くない。
約1名青天井にレベルが高い女性は居るが、まあ平均値として。
ラスボス前の最終装備クラスを作れるのは片手で足りるほどだろう。
いかど大国といえど、必ずそういった人材の育成ができているとは言えないというのが伺えた。
「此度の戦、完敗だ。こちらから攻めておいて不躾なのは承知の上で頼む。
捕虜となっている我が軍師を開放してもらえないだろうか。」
シウバ様はその言葉を受け、こちらに視線をやる。
どうしたらいいかと助けを求めるような目だ。
隣でアーニャは大きく首を横に振り、イルシャとナージャは溜息をついていた。
シウバ様が困った顔をする。
ここは助けると誓った俺が助け船を出すとしよう。
「お初にお目にかかります、フリード殿。わたくし名を多摩太郎と申します。
此度の戦にて指揮をとらせていただきました。」
「貴殿がタマタローであるか。我が兵より話は聞いている。」
「それはいいです。捕虜を解放してこちらにメリットがあると思えないのですが?」
そう、こちらにはメリットがまったくないのだ。
勝手に攻めてきておいて大敗し、大事な軍師を捕虜にされたから返してください。
なんてのは虫が良すぎると思わないのか。
領内に散らかったフリード軍の武具を回収して売りさばいているから、収益で言えばプラスになっているとはいえだ。
返してまた懲りずに進軍でもされようものなら、こちらはたまったものではない。
しかしフリードから思いもよらぬ返答が返ってきた。
「あれほどの大敗を喫し、また攻めようなどとは思わない。
いかなる戦力をもってしても、おそらく再び敗北を喫するだけになるからな。
そうだな、同盟国として盟約を結ぶのはどうだろうか。
こちらの物資、土地はいくらでも提供しよう。
その代わりと言ってはなんだが、互いに戦の際は助け合うというのはいかがか。」
「同盟というのは一見よく聞こえるのだけど、それってつまり戦でいいように使うだけじゃないの?
もし同盟を組みたいのであれば、貴方の国からの侵攻を今後一切禁止くらいやってもらわないと割に合わないわ。」
イルシャの言うことはもっともだ。
東に攻めるから兵を出せ、なんて言いかねないしな。
「こちらが仕掛けたのならともかく、そちらから仕掛けてきてますから。
同盟国というよりは傘下の方が言い方としては合うと思います。
それだけの大敗を喫しているわけですからね。
また全勢力をあげてやり合いたいというなら話は別ですが。」
ナージャの言葉にフリードは天を仰ぐ。
再びあのような戦が行われて同じように大敗を喫した場合、国としての力はもうなくなるだろう。
近隣の同盟国から同盟破棄を言い渡されても文句は言えない。
民の命、捕虜の軍師、自分の国と野望。
それぞれを天秤にかけたのか。
しばらく天を仰いでいたフリードが、力なく声を発した。
「・・・分かった。
民より大事なものなどありはせん。
今この時より、西の雄ファイタル・シエナ・フリード及びその軍、国はカッツェ帝国傘下に入ろう。」
首を垂れるフリード。
悔しそうに震えながら絞り出した声に不安が残るが、とりあえず訂正しないといけない。
「正しくはフェルト・カッツェ同盟国ですね。」
「イルシャをもってしてもフェルトに敗北を喫したとでも言うのか・・・?!」
「ええ、そうよ。あなたが4度も敗北しているカッツェに、フェルトは勝ったの。
このフェルト出身のタローの策のおかげでね。
今では同盟国として潤いに潤っているわ。」
厳密に言えばフェルト王国出身ではないのだが、まあ今それを言っても仕方のないことだ。
誤解はいずれ解けばいい。
驚きの表情を隠しもしないフリードは少々の沈黙の後、フッと笑い小さくこぼした。
「民が笑顔で居られる国と、そうでない国。
どちらが戦で強いかなど、問うまでもない、か・・・。」
その言葉の後はフリードも傘下に入ることに潔く承諾。
無事捕虜のクロスリー・ベアブルムも開放となった。
今後は混乱を防ぐために同盟国と名乗り、事実上の傘下に入る。
早急に立て直しが必要なため、こちらで行っている仲介所を含めた事業をフリード国でも実施することになった。
そのためにイルシャ軍が建設の人員として補填され、フリードからはそれにかかる費用全てを出資。
クロスリーには職業説明会の実施を頼み、ポスター作製はアーニャ画伯に。
カッツェ・フェルト同盟国の立て直しにほぼ成功していると言っても過言ではない現状を踏まえ、同じことをすれば成功するというイメージが持てている。
それがとんとん拍子で話を進められる一員になっているのは間違いない。
兵は失っても民は残るのだ。
まずは徴兵よりも国の立て直し。
それができなければ平和などない。
シャンドラ様の掲げる理想に、また一歩近づけたかな。
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そこからは怒涛の日々だった。
フリード国は現代日本で言うところの大阪から山口までの大国だ。
ところどころに拠点があり、それぞれに仲介所を設置しなければならなかった。
簡単に言うとカッツェから遠ければ遠いほど貧困や就職難になるような事態にならないようにするため。
およそ等間隔に仲介所を設置し、それぞれに人員を配置。
そして物流の強化を今以上に向上しなければならない。
幸いフリード国の工房はカッツェ帝国の2つ隣の拠点にあったため、あまりに遠いところから運んでくるという必要はなかった。
とはいえその運搬のために道を開拓しなければならない。
これが今までになかった問題だ。
リカンダ大陸は西に行けば行くほど気温があがり、北にいけばいくほど気温が下がる。
まあそれは日本でも変わらないとはいえ、気温が高い土地というのは整備していないとすぐに風化してしまう。
むしろ今までよく放置してたな。
ということで何でも工房シャーリーにお願いして、コンクリートの作製方法を覚えてもらった。
それをフリード国の職人たちに落とし込み、道を作っていく。
シャーリーはもはや、何を頼まれてもこちらに頼まれた以上のものを作ってやるという気迫に満ちていた。
いや、色々なもの頼んで申し訳ないとは思う。
それでもシャーリー以外にそんな技術はないし、あっても頼めないだろうからな。
土地を全部繋ぐのに何年かかるか分からないが、ここまで大きな国なのだ。
そういった仕事をやりたいと言ってくれる人材も多かった。
何より先のクロース川の戦いを聞きつけ、自ら仕官したいと訴えに来る人材にあふれていた。
弱小国でも大国を打ち破り、なおかつ暮らす民も皆笑顔なのだ。
来たいという気持ちも分からなくはない。
そんな人材を各所に配置し、徐々にフリード国の立て直しが円滑に回るようになった。
イルシャ曰く大したことのない奴と言われていたフリードだが、意外な一面もあった。
確かに政治や国営に関してはそこまでの才能はない。
しかし苦しんでいる民を放っておけない性格のようで、今まで得ていた国益のほとんどを貧しい暮らしをしている自国の民の救済に充てていたという。
今後は国益はきっちりと管理するものの、そもそも暮らしに格差のでないようにするための政策だ。
それを理解してからは民のため、と必死になって動き回ってくれている。
国のトップ自らが汗水流して動いてくれている姿を見て、国民からの評価はますます上がったようだ。
自分たちの国のために全力を尽くしているタロー達は知る由もなかったが、フェルト王国は他国から著しく戦力が巨大になったと恐れられ始めていた。
とある者は刺客を送り込み。
とある者は友好関係を築きに。
とある者は我が軍が倒すのだと躍起になっていた。
そんな大忙しであっという間に時は過ぎ。
アーニャと共に、フリード国最西端の仲介所を視察に訪れた日。
アーニャに言われて初めて思い出した。
「タロー、誕生日おめでとう!!」
俺は16歳。
この世界で成人を迎えることになったのだった。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




