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第14話「クロース川の戦い」


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戦の準備を初めてからというもの、あっという間に時間が過ぎていった。

むしろ時間が足りないくらいだ。

こちらの戦力は、前線で戦える人数に限ると約1000。多くても1500がいいところだろう。

それに対し、フリードの軍は少なく見積もっても約3万。

もちろん全勢力をあげて潰しに来るとは思っていないが、かなりの数的不利には変わりない。


とはいえこちらにも札はある。

一騎当千と名高い怪力の神子、イルシャの存在。

侵攻した直後とはいえ、防衛に失敗。

そしてその奪還として行われた侵攻で2度の敗北。

イルシャは3度に渡りフリードの軍勢を撃破している。

これはどちらの軍の士気にも関わってくるだろう。


だがそれはイルシャが好き勝手に暴れた結果である。

今となっては護りたいと思える仲間に出会って、今までのように無邪気に暴れるというのはおそらくできないだろう。

それでも大切な人を護りたいという気持ちはとても大きな力になる。

現世でそういった類のものはよくあった話だ。

・・・二次元だけどな。


いくらイルシャが居るとはいえ、手札の数はあまりにも少ない。

それを埋めるためには、やはりそれなりの作戦が必要だろう。


そういった小賢しい作戦に関して言えば、タロー隊の得意分野だ。

戦況の把握、相手の狙いの読み、チームワーク。

全てが高いレベルで保たれている。

チートで作戦を与える俺、影の薄さとすばしっこさで状況を伝えられる斥候のシェイミ。

そして俺の志を信じて付いてきてくれる、スカウトした仲間たち。

他の隊にはない、絶対的な信頼感で構成されているタロー隊だ。

どれだけ小さく、そして狡いと蔑まれるような作戦だとしても信じてついてきてくれるだろう。

今回もそれで突破口を開くつもりだ。



-----


「ようやく仕事も安定してきたって時に・・・。」

「嫌なタイミングを狙うのは世の常です。」


イルシャが送り出したスパイから、来週には準備が整い進軍を開始する見込みとの連絡が入った。

イルシャは神妙な面持ちで、アーニャは頭を抱え、ナージャは顎に手をやり、と反応は様々だ。

しかしタロー隊のメンバーには事前通達済みで、既にクロース川へ向かって出発している者も少なからずいる。


今回は運送業のメンバーにもかなり手伝ってもらったので、特別ボーナスでも出してあげるとしよう。

そして牛丼屋からは縁起良くカツ(勝つ)丼の支給が行われることになっている。

至れり尽くせりではあるが、俺たちが不安になっていたら国民にも伝播してしまう。

それだけは避けたい。

俺たちを信じて仕事に就いてくれた人たちのためにも、絶対に勝つ。

ただの勝利ではダメだ。

それはもう圧倒的で、ここには攻め入ってはいけないと思わせなくてはならない。

弱小国となめてもらっては困るからな。


ひとまずここにいる中心メンバーには今回の作戦の概要を伝えた。

ナージャも目を見開くほどには驚いている。

なぜそんなことが浮かぶのか、とでも言いたそうだ。


もちろん今回の作戦も俺が一から考えたわけではなく、ネットから引っ張ってきたもの。

先人の知恵ってのは凄いよな。


翌日からその作戦成功に向けて、各自が準備を始めることになった。



-----


「絶景かな、果てなき荒野!」

「向こうから2万もの軍勢が来ていなければ、もっといい景色なのだけど。」


クロース川から少し離れた高台。

その最前に立ち、川の向こう岸を眺めるイルシャとアーニャ。

フリードの軍はおよそ2万。

持ちうる戦力の半分以上をつぎ込んでの侵攻だ。

これには俺も面食らったが、一気に戦力を削げるチャンスでもある。

前向きに考えていないと、この世界ではやっていけないというのはこの5年で嫌と言うほど学んだ。

その学習の成果は、どれだけ不利な状況でも落ち着いていられる最強メンタルとなって現れた。


今回戦場に選んだ理由の1つとして、作戦にこの高台を利用できること。

成功するかどうかは、タロー隊のみんなのコンビネーションにかかっている。


「タイミングは1度きりだ。」

「敵が突っ込んでくるまで待つなんて、あんまり性に合ってないのだけどね。」

「来ました!距離およそ4000!」


確かにイルシャは自分から突っ込むタイプだしな。

この高台に向けて左右2列になって直進してくるフリード軍。

騎馬隊であれば悠々に超えられる流れであろうクロース川を越え、高台の両端からこちらにあがってくる算段かな。

それはとても都合がいい。


「距離およそ2000!」


ここでクロース川という川を紹介しておこう。

カッツェ帝国の西端を流れる、()()

有名なカッツェの鉱山よりも先、フェルトの北西の森を抜けた先にあるビスープ王国。

ビスープ王国が有するこの大陸最大の山、カーテルナ山。

その最高標高から流れるクロース川はビスープ王国からカッツェの西端を通り、海へと流れつく。

カッツェの山に近づくにつれて森が生い茂っており、どうしても迂回してこの高台を通らなくては進軍がままならないのは調査済み。

つまり思うように進軍してくれた、ということだ。

そしてこの高台の位置だが、カッツェからかなり南西の位置に当たる。

海にかなり近い位置と言えるだろう。


そんな大河の河口付近が、「騎馬隊であれば悠々通れる」程度の流れや深さなわけがないだろう。

ここに進軍してきている時点で読み合いは俺たちの勝ちなんだよ。


「距離、およそ1000!」

「今だ!!」


バシュッと音を立てて上がる白い狼煙。

作戦開始の合図だ。

2万もの軍勢が騎馬を飛ばして、たった1キロ手前から異変に気付いて止まれると思うなよ。


ドドドドドッ─


大きな地鳴りを上げ始めるクロース川周辺。

馬に乗っていて大声をあげながら突進してくる奴らに聞こえているかは分からないが、高台に陣取っている俺たちにはまるで地震でも起きているかのような地鳴りだ。


まるまる一週間。

何か所にも分かれてせき止められていた大河が、うねりをあげる。

タロー隊の役目は、川の塞き止めと合図による塞き止めの解除。

当然河口に近づくに連れて大きな、そして多くの堤防が必要になった。

それをほぼ同時での破壊により、溜まりに溜まった大河の流れは元に戻る。


つまり─


「備中高松、リカンダバージョン~チートを添えて~ってとこだな。」

「なんてー??」


耳を抑えながら聞こうとしてくれるアーニャはさておき、元の川幅よりも大きくなったクロース川。

それが騎馬に乗って突進してきていたフリード軍を飲み込んでゆく。

俺たちが高台に居る理由は、この流れに飲み込まれないようにするためでもある。

正直どれほどの流れになるか予想できなかったからな。

案の定、20メートルはあろう高台の半分弱まで水没している。

これが落ち着く頃、どれだけの軍勢が残っていられることやら。



-----


川の流れが落ち着いてきた頃には、タロー隊の工作メンバーもすでにこちらに合流していた。

そして川の向こう岸に残された敵軍の中に、頭を抱える豪華な装備の女。

あれが3人の軍師のうちの1人、クロスリー・ベアブルムという女だそうだ。


気持ちは分かるぞ。

自軍の勢力の半数以上を引き連れて侵攻したのに、敵には1つのダメージもなく壊滅。

残った兵はこちらと大差のない2000程度。

これほどの負け戦は、今まで経験したこともないだろうよ。


「なんということだ・・・夢でも見ているのか・・・?」

「夢でも幻でもないわよ。」


ズザッ─


この大きな川を俺を抱えながら越え、敵軍大将に見える女に声をかけるイルシャ。

流れてくる壊れた堤防の上をジャンプしながら渡るなんてイルシャにしかできないし、イルシャ以外やろうと思わないと思う。


「イルシャ、なんてバカげた作戦を考えるのよ・・・!」

「私じゃないわ。ここに居るタローが考えた策よ。」

「多摩太郎と言います。以後お見知りおきを。」

「タマタロー・・・覚えたわ。」


イントネーションが違ーう。

この世界での俺の名前はアーニャのように、タマ↑タローになってしまうらしい。


「全軍撤収!!殿はこのクロスリー・ベアブルムが務める!!

撤収ののち、タマタロー及びイルシャの名を御屋形様に報告せよ!!」


女が剣を構えてこちらに向かう。

残された兵たちは一目散に逃げかえっていった。

軍師自ら殿を務め無駄な血を流さないようにさせる覚悟は認めるが、相手が悪かったな。

1対1でイルシャが後れを取るはずもなく一瞬でクロウリーを斬り捨てる。

当然殺しはしていない。

捕虜にする目的でこちらに来たのだから。


「敵将クロスリー・ベアブルム、このイルシャ・ホーリー・フィンクスが討ち取ったー!!!」


川の向こう岸まで聞こえる大きな勝ち鬨の声に、大歓声があがる。

2万対1500という戦を、たった1人の兵を失わずに勝利したのだ。

大勝利と言っても決して過言ではない。


大国を相手に圧勝という結果に終わった戦が全国に広まるまで、そう時間はかからなかった。



-----


大勝利から3日が経過した。


実のところ、今回の敵軍に参加していたのはフリードの軍師3人のうち2人。

1人はクロスリー・ベアブルム。

もう1人は最前線で指揮をとっていたため川の流れに流されたとのこと。

ギルドからの正式依頼として、目下捜索中だ。

その捜索の中で敵軍が所持していたと思われる武器や防具が多数見つかり、それを戦利品として回収する作業も並行して行っている。


クロスリー・ベアブルムは捕虜としてカッツェ城の牢に入れられてはいるものの、出てくるご飯はダッカスとアルシェが作ったものだ。

こんな美味い飯は生まれて初めて食べた、と漏らしていたらしい。

牢屋で食べる飯にしては豪華すぎやしないか。

まあ、俺が丁重に扱ってくれと言ったのだけど。


ひとまずは俺たちの平穏な日常を保てた。

これは本当に嬉しい。

チートに頼っているとはいえ、自分で実行した作戦のおかげだと思うと今になっても大声をあげてしまいそうだ。

それでもまずは大戦を終えての休暇が優先。

タロー隊、及びカッツェ軍には連休を取らせているところだ。


イルシャもアーニャも、タロー隊の本拠地に居座って疲れを癒している。

ナージャは1日に1度晩御飯のときに顔を出す程度だが、公務はお休みだ。

逆にギルドの職員は回収した武器や防具を他国や行商人に売ったりとで大忙し。

明日からはタロー隊も交代でそちらの任に加わり、職員に負担がかかりすぎないようにケアをする予定でいる。



その翌日、そろそろ来ると思っていた来客。


フリードが直々に、カッツェへと訪れた。



拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします!

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